1.転校!?
「セナー」
高校1年生の春休みのある晩、自室で部活の道具を手入れしていた私、セナ=クラビスは、父の呼ぶ声でリビングへ行った。
そこには、飲み会から帰ってきて酔っ払っている父と、ちょっと困り顔の母がいた。
「何?お父さん。」
「転勤になったから、引っ越しの準備明日からでも初めておけよー」
「……はぁ!?」
父の言葉が、まっったく理解出来なかった。
「何でいきなり!?転勤ってどこへ!?学校は!?」
「いやー、ちょっと田舎の方にねー。仕事ミスっちゃってー」
「はぁ!?」
「嘘だけどー」
「嘘って、どこまでがだー!」
私は父に掴みかからんばかりに詰め寄った。何でこんな重要な事をそんなにかるーく冗談交じりに言えるのだろう。
酔っ払って話にならない父の代わりに、先に事情を聞いたのであろう母が私をなだめつつ説明してくれた。
「お父さんは、仕事はちゃんとやる人だから、ミスなんてしてないわよ。フォルクって町の役場が人手不足なんですって。」
父は、役場で仕事をしている公務員だ。
「町って言うより村みたいなところだけどなー」
「ちょっとあなたは黙っててね。」
父の横槍を母が制する。
今住んでいるアルバは、人口も多く、比較的有名な街だ。でも、フォルクなんて地名は、聞いた事がないから本当に田舎なのだろう。
「ずっと向こうにいる訳じゃなくて、その内こっちに戻って来られるから。だから、セナも着いて来てくれないかしら?お父さんを単身赴任させるのは心配で……。」
母に制されてから、だらしなく座り、ただ水をチビチビ飲んでいるだけの父を見て、母の心配はもっともだと思った。だけど……
「学校は?転校するの?ていうか、高校あるの?」
今の友達と離れるのは嫌だけど、私はまだ子供だから、両親が引っ越すというのなら着いて行くしかない。祖父母は遠方だし、近くの親戚も私のいとこにあたる子供が居て、居候させてもらうのは申し訳ない。
「1校だけだけど、ちゃんとあるわよ。ただ……」
母が言葉を濁す。その日はそれで終わったが、私は転校先の学校に着いた時に母が濁した理由を知ることになる。