愛のための宣言
ああ、騒がしい。学校とはこうも騒がしいものなのか。
ああ、うるさい。うるさいから黙ってほしい。
でも、あなたの声が聞こえるととても嬉しい。
だから私は机にうつ伏せになって耳を澄ます。
あなたの声を聞くために。
「立花さん、まだ帰らないの?」
放課後、私は忘れ物を取りに教室に来た。すると教室で立花さんが1人でノートに何かを書いていたのだ。
「ええ、ちょっとやることがありまして」
「そうなの」
私は素っ気なく返事をした。
もちろん、表面上はの話だが。
立花さんはとても可愛い。美人というには幼顔だからやはり可愛いがしっくりくる。頭も良いしみんなから好かれている。
1方私は頭も運動も大して良くない。
人付き合いが苦手で友達もいない。
居なくて全然良いのだが、一つ困ったことがある。
私は立花さんのことが好きなのだ。
女が女を好きになるのがおかしい事くらい分かっている。
だが、私は初めてあった頃から彼女に惚れていた。
彼女に告白するなんて事は夢にも思ってないし、彼女と付き合うなんて幻想に過ぎない。
だが億が一で付き合うとしたら、彼女の周りにいる取り巻きとの関係を持たなければならない。
私にとってそれが嫌なのだ。
私は立花さんとだけ友達になりたいし、恋人になりたい。
ほかの人間となんて関わりたくもない。
「あなたの方こそどうしたの?もう部活動も終わってる時間よ?」
彼女の言葉を聞いて外を見た。
外は少し赤みがかっていて、向こうの方では太陽が沈みかかっていた。
夕焼けが終わりを迎える時間に、教室で私達は二人きりだ。
「なんでもないよ。忘れ物を取りに来ただけ」
ああ、素っ気なく返してしまう。
私は臆病者だ。
だが、私以外の人だって同じだ。
本心を他人に打ち明けることなんてなかなか出来ない。
それが恋心だとしたら、更にそれを伝えるのが好きな人だとしたら、なおさらだ。
「邪魔してたらごめんね。すぐ出てくから」
私は無理して笑った。
無理して笑うことで、自身の負の感情を彼女に見せないようにした。
それが私に今出来るただ一つのことだった。
「じゃあね」
と言って帰ろうとしたら「恭子さん、待って」と後ろから声がした。
「な、なに?」
振り返ると立花さんは笑っていた。
「忘れ物は?また忘れてるわよ?」
「あ」
「存外おっちょこちょいなのね」
そう言って可愛らしく笑った。
私はその笑顔を目に焼き付けた。
「今私がやってるのはね」
と言って彼女はノートを持って近づいてきた。
「これ」
中身を見るとバッグ、ポーチ、香水、財布.......他にも色々な事が書かれていた。
「これ、なに?」
「両親にプレゼントするものよ。この中から決めていくの」
「誕生日プレゼント?」
「ううん、結婚記念日のプレゼント」
「結婚記念日?」
「うん、二十周年目のね」
私は呆気に取られた。
「ポカンとした顔」
はっとなって彼女の顔を見た。
「可愛いわね」
笑顔で言う彼女の方が何万倍も可愛かった。
「親は私を産んでくれた。ここまで育ててくれた。なら、私はそれに報いる為に何か出来ないかなって思ったの」
「報いるって......」
日常生活で使ってるのを初めて聞いた。
「変かな?」
「............」
変ではない。でも、驚いた。そんなことをする人がいるんだと思った。
「変じゃないよ」
「良かった」
満面の笑みでそう言った。
「恭子さんは良い子ね」
「そんなことないよ」
私は嫌な子だ。他人との触れ合いを避け、他人を意味もなく軽蔑する心が腐った人間だ。
「いえ、良い子よ。だって私の話を聞いてくれたもの」
「え?」
どういうことだ?
「クラスの子達はね、話は聞いてくれるの。でもね、どうでも良さそうに聞いてるのがわかるの。でもそれが普通だと思うわ。他人に興味がある人間なんて少ないもの」
「そ」
そんなことない、とは言えなかった。なぜなら私は少なからず彼女の気持ちに共感したからだ。
本当の意味で他人に関心のある人間。
そんな人間は、ほとんどいない。
でも。
「でも」
と私は言った。
その後の言葉は考えていなかった。
「私は良い子じゃないよ。他の人との付き合いなんて嫌いだし。他人と喋ることは億劫だし。他人とそばに居ることは面倒くさいし」
止まらなかった。
「他人と一緒にいたいと思わないし他人が嫌いだしそんな自分も嫌いだし生きていてなんにも楽しいことがないし!」
言葉が、止まらなかった。
「なんで苦しいんだろうって思ってもわからなくてまた誰かを嫌いになるし!それを止められなくてまた苦しいし!」
涙が出てみっともない顔を立花さんに見せたくないのに、それは止まらなかった。
「もう死にたいって思っても死ぬ勇気なんかなくて、私の考えなんてみんなからしたらちっぽけだって思うから」
だから。
「私は、良い子じゃないよ」
.......私は、なにを言ってるんだろう。
そんな事言ったら嫌われてしまうのに。
彼女の言葉に歯止めが効かなくなった。
「どうすれば上手くいったんだろうね.......」
私は俯いて泣いてる顔を隠した。
そんなことを立花さんに聞いたって無駄なのは知ってる。
分かるわけないだろう。
分かってたら苦労しないんだから。
なんで私はいつもこうなんだ。
自分が嫌いだ。
嫌いだ。
嫌いだ。
嫌いだ。
嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ。
「簡単よ」
声が聞こえた。
立花さんの声が。
「へ?」
「だから、簡単よ?」
どうして。
どうしてそんな言葉を。
そんな。
「私もね、昔はみんなの事が大っ嫌いだったわ。この学校じゃないわよ?前の学校よ。苛められてたの。だからここに転校してきたんだけどね」
私は、ただ黙って立花さんの言葉を聞いた。
「でね、転校する時唯一話してた子からね言われたの。なんて言われたと思う?」
私は何も言えなかった。
「たすけられなくてごめんね」
それは、あまりにも残酷な言葉だ。
残酷で理不尽で、どうしようもない言葉だった。
だが。
「だからああそうか、って思ったの。助けようと思った人はいたのね、って。それを聞いたら拍子抜けしちゃったのよ。孤独で世の中の人全員が敵だと思ってたけど、味方もいるんだって」
だから簡単よ、と彼女は言った。
「他人が嫌いなら、一人だけでもいいから好きな人を作りなさい。それも飛びっきり好きな人を。そうすれば後は全員嫌いでもいいわ。全員を愛することなんて不可能だもの」
彼女は微笑しながらそう言った。
私は彼女の口からそんな言葉が出るとは思わなかった。
「世界中が敵になっても君とならやっていける、なんてちょっとドラマチックかしら?」
「...........は」
私は笑ってしまった。
今までのことが馬鹿らしくなってしまった。
私がこんなにも悩んでいた事が、彼女にすべて否定されてしまったからだ。
「ふふふ」
「な、なんで笑うのよ!そんなおかしなこと言った?」
私の気持ちなんてちっと知らない彼女は顔を赤らめながら私と会話をする。
その行為は心地よいもので私にとって充分すぎるくらい幸せなものだ。
「ねえ」
と私は言う。
「なあに?」
と彼女は言う。
「もし私があなたの事好きって言ったら?」
「そうねー」
彼女は可愛らしく笑う。
「可愛いし、話も合いそうだし、良いんじゃない?」
私は笑った。彼女が本気にしてないのが分かっているからだ。
だが、その言葉は私にとって得がたいものとなる。
今までも、これからも、私はその言葉を噛み締めるだろう。
「立花さん」
「なあに?」
私は言う。
ただの学生が宣言する。
世界にとってあまりにもちっぽけな私が、世界と戦う為に言う宣戦布告だ。
「 」
返答はいらない。
それが、私の答えだ。
恋愛もの書きたいなー書きたいなーと思って書いた初めての作品です。色々至らない所ばかりですがまあそれも僕の作品らしいっちゃらしいです。
ではまた。