6戦目
ちょいと恋姫(三国)の描写あり
「ーー五胡軍前軍が前進開始!騎兵は3千!!」
「ーー後方の砲兵連隊に破砕射撃を下命。下命と同時に撃ち方始め 。ーー武装親衛隊および各方面軍の状況は?」
「ーー武装親衛隊 第1猟騎兵連隊は突撃用意宜し!」
「ーー親衛隊 第1装甲擲弾兵師団も用意宜し!!」
「ーー魏方面軍 第1、第2、第6師団の隷下部隊も戦闘用意宜し!!」
「ーー蜀方面軍 第3、第4師団の戦闘用意宜し!!」
「ーー戦爆連合の戦域到達まで残り2分であります!!」
「ーー宜しい。馬牽けぃ!!」
ーー黒衣の軍服に身を包んだ男が青毛の軍馬に跨がり、数十万に及ぶ大軍勢の先頭に立った。
「ーーこの戦いで我々は真の中原統一を果たす!!これが最後の大戦となるのだ!!いや、これを最後の戦とするのだ!!我等の流した血が皇国の礎とならん事を!!我等が皇国の興廃は此の一戦にある!!!」
「「「オオォオォオオオッ!!!」」」
ーー大音声に応えた数十万の雄叫びを受け、男は佩いた太刀をスラリと馬上で抜き払い天へ掲げる。
「ーー突撃にぃ………………前へぇぇぇぇぇ!!!」
「ーーーんあ?」
ーー目が醒めた時、眼前に広がっていたのは“あの日の荒野”ではなく長屋の自室の天井だった。
「………くぁぁ……っ……ふぅ…」
欠伸を済ませて起き上がると朝食を作る為に竈に火を起こして材料をぶち込んだ釜を掛ける。
「雑炊ばかりだと……身体がなぁ……」
今度山狩りをして肉を、と考えつつ煙管を取り出して煙草を詰める。
火を点けて紫煙を燻らせながら戸を開けて外に出る。
今日も晴れそうだと空を仰ぎつつ紫煙を吹かし、刻み煙草が燃え尽きた所でそれを叩き出して煙管を帯に挟んだ。
一旦、部屋へ戻ると歯を磨く為の房楊枝と塩を乗せた小皿を手に持ち、そして肩に手拭いを掛けた格好で長屋の住人達が共同で使う井戸へ歩み寄る。
井桁の上に置かれた桶を放り込み、底で水の音が鳴ったのを確認してからそれを引き上げた。
桶の中に張られた水を手で掬って顔を洗い、次いで就寝前に解いてざんばらとなった髪へ水を撫で付け掻き上げる。
袂から髪を結う為の紐を取り出して銜えると両手を使って前髪から掻き上げつつ頭の後ろで長髪を一本に束ねて銜えていた紐を使って結い付けた。
(娘や孫にしていた事が役に立つとはなぁ……)
手際良く髪を結い上げた自身にそんな感想を抱きつつ和樹は房楊枝と塩を使って歯を磨き出したーーいつか歯ブラシを作ろうと思いながら。
「ーーさて……長屋の床下や厠から土を掻き集めたしな……始めるとしよう」
洗濯に使う木の盥の中には和樹が床下に潜り、そして臭い汲み取り式の便所から掻き集めた黒土が入っていた。
その盥へ井戸から汲み上げた水を注ぎ込み、棒を使って良く攪拌する。
「~~~~~~♪」
鼻唄を歌いながら水溶液を作り終え、木製の漏斗へ和紙を入れると柄杓を用いて水溶液を掬い、ゆっくりと注いでいく。
濾過の過程で漏斗に土が溜まる度、和紙を交換する為、濾過作業だけで1時間程の時間を要してしまった。
「ーー取り敢えずはこんなモンで良いか。さぁて次~」
転がっていた石を積んだ即席の竈の上には鍋が乗っていた。
その鍋へ濾過した水溶液を注ぎ、竈へ火を入れる。
「木の灰は家の竈にあるから問題なかったな」
木灰が入った桶を用意し、水溶液が煮詰まるとそれを桶へ注ぎ入れると棒で攪拌する。
「…これで高濃度の硝酸カリ水溶液となった筈だ。次は、また濾過の作業っと…」
再び漏斗と和紙を用意し、新しい桶の中へ濾過した水溶液を垂らしていく。
濾過の作業が終わると、また煮詰めの作業に入った。
煮詰め終わると、自作した枠付きの板へ水溶液が薄く張るように流し入れる。
「あとは乾燥させれば……硝酸カリウムが出来る。粗製ではあるがな」
和樹が作っていたのは黒色火薬の原料となる硝酸カリウム。
黒色火薬は木炭と硫黄、そして硝酸カリウム(硝石)の混合物だ。
原料の木炭と硫黄自体は日本国内でも調達可能。
だが硝酸カリウム(硝石)に関しては天然の物は国内では産出され難かった。
硝石の産出地は中国内陸部や西アジア、南ヨーロッパのような乾燥地帯であり、輸入に頼っていたのが実情だ。
しかし糞尿などを利用した培養法などが確立され、国内でも一定の硝石が賄えるようになっていった。
「ーーあとは乾燥させたら調合するだけか……しっかり燃焼してくれると良いが…」
片付けを済ませた和樹は煙管へ火を点けて一服を始めた。