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009 弟とあそぼう



融は宿題を片付けていた。

(部屋の改装にはもう少し時間がかかりそうだ。

立ち聞きした話では、壊されていたのは無機物ばかりで、生き物は無かったらしいな。よかった。

宿題はもうすぐ終わりそうだ。

休みが終わったら、いじめられっ子の雪村鏡子をどうにかしなくちゃならない。

さて、どうしようかな)


部屋を出て、実家の探険をしてみることにした。

若い女性の執事、穂積さんに屋敷内の地図と、使用人のデータをもらった。

(顔を覚えるために、使用人の個人データを見せてくれと言ったら、ものすごく抵抗された。

なんとか渡してもらった後も、どうか悪用しないでくれと、土下座しかねない勢いだった)


融が歩いて、使用人たちに挨拶するたびに男女関係なく悲鳴が上がった


(ここまで徹底しておびえた反応をされると、逆に楽しくなってきたな。

まだ時間移動能力を持っていた頃の僕が、家畜小屋の鶏たちを近所の子供たちみんなと追いかけ回して遊んだことを思い出すな)




ボコン。

「うぎゃ!」

頭に何かをぶつけられた。


(なんだ?ゴムボールか)

バレーボールくらいありそうな柔らかなボールだった。


(あっ、これって確か超能力に反応しやすい素材で作られている、この時代の遊び道具だったはず)


ちょっと念じてみると、ふわっと浮き上がった。

手に取ってみる。頭にぶつかっても問題ない軽さと柔らかさだった。


サッと誰かが通路の角に隠れて逃げて行った。

(誰だっけ?)




とっさにメガネ型情報端末で撮影していた画像データを、執事の穂積さんに送信して聞いてみた。

「これ、誰だっけ」

穂積は複雑そうな顔をして言った。

「あなたの弟の衣寅(いとら)様です」


(「あーそうだった。ちらっとしか見えなかったし、成長していたせいでパッとわからなかった」

って誤魔化してみたけれど、絶対怪しまれたよな)


また、部屋に戻って大人しく宿題の続きを始めた。

しばらくして、足元に置いておいたボールがふわりと浮かびあがり、また融の頭にぶつけられた。


ボヘン!

「ふぎゃ!」


三歳くらいの男の子衣寅がぎゃはぎゃは笑っていた。

「いっしょに遊んでほしいのか?

まあ、待て、弟よ。今お兄さんは簡単な宿題を、いかに子供っぽく解くか悩んでいるところだ。後にしなさい」


ベボン!

「ぎゃう!」

ボールはまた浮き上がり、融の顔面に当たった。


「……いいだろう、ここまで僕を怒らせたことを後悔させてやる!」

その後、融は新しく出来た弟衣寅が、遊び疲れて眠ってしまうまでキャッチボールで遊んだ。


そして、衣寅を探しに来たメイドさんが、融の足元で眠っているのを発見した。

動かなくなっている(ように見える)幼い弟。

そばには、殺人鬼予備軍の悪魔(と使用人たちに思われている)兄の融。


ついに第一の被害者が出た、と勘違いして屋敷は大騒ぎになった。



(穂積さんに聞いてみたけど、前の融と弟の衣寅は全く遊んだことが無いらしい。

あの自分以外立ち入り禁止の、お化け屋敷みたいな部屋にずっと籠ったままだったみたいだ。

衣寅は、この家に同年代の子供は僕だけだから、遊んで欲しかったのかな)


融はそれから毎日衣寅と一緒に遊んであげた。

衣寅の部屋に入った時、壊れたおもちゃがあった。

(これはヤンチャな年頃だから、壊してしまっただけだよな?

前の融みたいな暴力の兆候じゃないよな?

死神の弟は歴史にはほとんど係わらないから、わからん。

とにかく、暴力的な弟にはならないように、しっかりしつけよう。

お兄ちゃんとして!)


散らかしたおもちゃは自分で片づけをさせて、食事は好き嫌いを許さず、遊ぶ時は全力で、使用人の皆様にも礼儀正しくさせる。

立場上、叱ることがやりにくいであろうメイドさんに変わってしつけをした。

衣寅はただ一人、ちゃんと向き合ってくれる融の言うことには素直に従った。


使用人たちの中には、悪魔が改心して天使になったと言う者が現れるくらい微笑ましい光景だった。




ある日、衣寅はぬいぐるみに齧り付いて、涎でベトベトにして遊んでいた。

融は弟の面倒を見ていて閃いた。


(そうか、思いついたぞ!

雪村鏡子をどうすればいいのか、わかったぞ!育てればいいんだよ!

僕は彼女の完成形の姿を知っている。記録映像にドキュメンタリー、再現ドラマに歴史マンガ。それを目指して、いや、それ以上の強さを身に付けられるように鍛えるのだ!

強靭な精神力だって、歴史通りにいじめられるよりも厳しく鍛錬させれば歴史以上の英雄が出来上がるに違いない。


さっそく研究だ!)


融は執事の穂積さんを呼び出して、町へ向かった。


図書館で情報を探したり、ペットショップで買い物をしたり、スポーツショップでトレーニングアイテムを買ったりした。

ついでに、弟へのおもちゃをお土産で買った。

(おこづかいで買おうとしたら、穂積さんが出してくれてラッキー)

なんて考えていた融の横で、執事さんはおびえて泣きそうだった。



図書館でコピーした情報は、実用的な心理学の本、実際にあったいじめの内容や事件の記事、尋問拷問の歴史についての画像付きのデータ。

ペットショップで買った、ペットのしつけの本、発信機付きの首輪。

トレーニング道具は、メンタルトレーニングの本、筋力トレーニングのマニュアル、腕や足に着ける重り。


彼女の頭の中では、融がそれらを悪用して、自分たちがその被害者になる場面が浮かんでいた。



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