表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/90

008 子供時代の狂戦士の部屋


どっかの宮殿のような大豪邸、噴水付きの庭園、一面緑の芝生と白い大きな犬。

そんな想像とはまるっきり違う場所だった。


百階以上ありそうな高層ビル。

それが転法輪融の実家だった。


おかえりなさいませと出迎えてくれたのは、一人の執事だった。


(電話越しの声である程度予想していたけど、若い女性が執事服を着ている)


「御当主様も、旦那様も現在お仕事のため留守にされております。

融さまのご帰宅はすでに伝えてあります。

長期休暇中に必ず時間を作って、会いに行くから待っているように、というお二人からの伝言をお預かりしております」


戦車がそのまま乗りこめそうな広いエレベーターに乗って自分の部屋に向かった。

(1フロア全部が子ども一人の部屋だとは驚きだ。

それにしても、自分の部屋が何階にあるのか尋ねるのはやっぱり変だったかな。

執事のお姉さんの目が冷たい。

心の距離というか、壁を感じるぞ)




エレベーターのドアが開いて、ギョッとした。

壁一面に赤で文字の様な記号が書き連ねてある。

(し?しね、かな?こっちは血まみれの人の絵?床の黒い染みも気になる!

コワっ! なにコレお化け屋敷!?)


通路を進んでいくと、今度は通路に五寸釘や鉈、斧、ナイフが刺さっている。壁にはそれらで付けた傷がビッシリだった。

(こわい、こわい、こわい! 少なくとも子供の部屋じゃない!)


扉をあけて部屋に入る。

おそらく超能力を使って壊された人形や、綿のはみ出たぬいぐるみ、頭部がめった刺しのマネキンが放置されている。ビリビリに破かれた家族写真も怖い。


(ギャーーー!

将来、死神とか狂犬とか呼ばれるだけのアレな感じが、部屋いっぱいにあふれ出ちゃってる!

たすけて!誰か、タスケテ!)


融は怖くなって、エレベーターに駆け込んだ。

(僕になる前の融はヤバい! あんなやつを普通の学校に入学させちゃまずいだろ! 両親何考えてんだ!)




出鱈目にボタンを押して、開いた階で降りた。

「ちょっといいですか?」

メイド服を着た若い女性に声をかけた。

「ひっ!と、融さま!な、何故ここに!何か御用ですか」

悲鳴を上げた彼女は、取り繕うような笑顔になった。


(前の融は一体何したんだ!涙目でおびえているぞ)


彼女に執事を呼んでもらうように頼むと、全速力で走り去る様に呼びに行った。




「何のご用でしょうか」

しばらくしてやってきた執事の彼女を、今度はじっくり冷静に観察した。


(よく見ると、彼女の膝の辺りが震えている。額にも冷や汗が浮かび上がっている。

心の壁どころか、物理的な壁で距離を取りたくなって当然な部屋だった。

冷たいんじゃない、あの眼に宿っているのは恐怖だったんだ。

ホラー映画みたいな子供の子守りなんて、僕だったら転職しているね)


「お願いがあるのだけれど」

執事の彼女がビクッとした。死刑宣告でもされそうなおびえっぷりである。

「はい、何でございましょうか」

「部屋が散らかっているから、片付けてほしい」

彼女は驚いた顔になった。


「はい?」

「リフォームでも何でもいいから、とにかく僕の部屋を普通の部屋に戻して欲しいんだ。何日かかってもいいから、それまでどこか別の部屋を使わせてくれないか」

「……お部屋には決して誰も入れるな、とのご命令でしたが?」

「え、そうだっけ?あー、もうそんな命令気にしなくていいから。中のゴミも全部捨てちゃってくれ。見たくない。知りたくない。

そうだな、学校の、普通の友達を招き入れても問題ないくらいの部屋にしてくれ。

とにかく頼んだぞ!」

(こんな感じで、偉そうに命令しないと不自然に思われちゃうかな?)


「……はい、至急手配いたします。

では、清掃作業が済むまでは、こちらのお部屋でお過ごしくださいませ。

それでは、失礼いたします」



この時、使用人たちはまだ半信半疑であった。

やがて、この日は邪悪な悪魔が祓われた日として、使用人たちの間で語り継がれることとなる。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ