005 見た目は優しそうだけどいじめっ子
その日の夕食。
食堂に行く時、いつもは四人一緒に行くのだけれど、融は必要以上に月城晶を警戒して一人遅くなってしまった。
サッと食べられるものがいいと天ぷら蕎麦を注文し、友達三人を探している。
ガシャン。
何かが倒れる大きな音がしたから、音の方へと向かう。
「能力値200。はっ、ゴミめ。ゴミはゴミらしく床で食べればいいのよ」
食事配膳用のロボットの一つが倒れていた。
そのせいで、イチゴのショートケーキが床で無残な姿になっていた。床に横たわっているのは一番能力値の低かったあの女子生徒だった。
(いじめか。ひどいことをするやつがいたもんだ。って、あれは!?)
立ち上がって見下していたのは、波川美涼だった。
三崎杏菜と青山進馬の二人は、どうしたらいいのかわからずにオロオロしている。
こっそり近づいて、青山君にどうしてこうなったかを聞いた。
「美涼ちゃん、数値計測の後ずっと機嫌が悪くてイライラしていたんだ。そしたら、あの子が美涼ちゃんの隣に座ったんだ。
最初は、そこは融君が座るからって普通に言っていたんだけど、だんだん乱暴になって、止めようとする前に、ああなっちゃったんだ
どうしよう。先生を呼んでくるべきかな」
(ずっと不機嫌そうにしていたから、完璧な八つ当だよな。
計測結果を張りだすから、こんないじめが起きるんだ。
断じて俺が遅れたせいじゃないとはいえども、子供はちゃんと叱ってやらないとダメだよな。お兄さんとして!)
「僕の蕎麦を見ていてくれ。すぐ終わらせる」
ちょうど融の注文していた天ぷら蕎麦を配膳マシンが運んできた。
配膳のロボットに備え付けてある布巾を数枚取った。
融はビシッと美涼にチョップした。
「いたい!」
美涼は頭を押さえて涙目になっている。
「大丈夫か?」
「……ケーキ」
女の子は自分のことよりも、床に落ちてしまったケーキのことを心配していた。助け起こして、近くの空いている椅子に座らせる。
次に倒れていた配膳ロボットを起こして、ケーキの注文ボタンを押した。
「僕の友達が悪かったな。代わりのケーキを僕がおごるから、あいつを許してやってくれ」
女の子はボーっと融の顔を眺めていた。
配膳ロボはケーキを取りに厨房へ戻っていった。
「なにするの!」
美涼は涙をこらえ切れなくなっていた。
「食べ物を無駄にするんじゃない」
融はさらにビシッとチョップした。
「ごめんなさいは?」
「ううっ、ごめんなさい」
罰としてケーキの片づけをするように言うと、渡された布巾を使って泣きながら掃除を始めた。
途中から融も手伝あげた。
(昔はよく小さい子どもたちの子守りを押しつけられたからな。象徴なのに雑用押し付けられて、子供のケンカの仲裁もしつけも慣れたもんですよ。
子守も得意な、お兄さんとして!
そして、早くしないと蕎麦が伸びる!)
「いじめはいけないんだぞ!先生に言わなくちゃ」
背後から誰かに声をかけられた。
「悪いことをしたって理解して、もう謝って反省しているんだ。そんなやつを、さらに説教する必要はないだろう」
融は片づけを終えて、立ち上がりながら言い返した。
(蕎麦が伸びる!
この忙しい時に、いったい誰が話しかけて……!)
融が振り返ると、そこには月城晶が立っていた。
(やばい!ただでさえ目をつけられているのに、真っ向から対立するような発言をしてしまった)
真後ろに相手が立っていたために、真正面からにらみ合う状況になってしまっている。
(やめて!)
月城晶の方が先に目を逸らして、食堂から出て行った。
(ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい)
歴史通りに月城晶が裏切った場合、真っ先に粛清されてしまうと融が心配していると、誰かが制服の裾を引っ張った。
「ありがとう」
涙目の美涼がそこにいた。
(別に、きみをかばったわけじゃないんですけど……)
予想以上に時間がかかってしまい、天ぷらの衣にサクサク感は無くなり、汁は冷め、蕎麦は伸びてしまった。
ちなみに、いじめられていた女の子はさっきのイチゴのショートケーキよりもさらに豪華なケーキが配膳されてきて、とっても幸せそうにしていた。
にこにこ。