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一章 英雄学校の大魔王(6)

 馬車を降り、装飾がやたらと豪華な客室へと案内された陽炎たちは、特にやることもないまま呼び出しがかかるまでの数十分を無駄に待たされた。

 また無意味に時間が過ぎてしまったことに苛立ちを覚えながら、オーレリアの案内で陽炎たちが通された場所は壁際に兵士たちが立ち並ぶ広々とした謁見の間。

 ではなかった。

「これは……」

 グラウンドのように砂が敷き詰められた円形の部屋……いや、周囲を野球ドームのような観覧席で囲まれた広大な場所を部屋とは言えないだろう。

 天井はなく、灰色に曇った空が丸見えになっている。

 平和的な言葉で表すなら『競技場』と言えそうだが――

「闘技場、でございますね」

 夢優が声を低くして言った途端、陽炎たちが入ってきた入口が鋼鉄の扉で閉ざされてしまった。

「申し訳ありません、勇者様方。こうするようにと、大臣様からのご指示を受けましたので」

 鉄扉の向こう側からオーレリアの機械的な声が聞こえた。

「ハメられた……ってわけじゃなさそうね」

 姫華が斜め上方を睨みつける。観覧席の最上にあるVIPルームと思しき部屋。そこに豪奢な衣装を纏った身分の高そうな中年男やら老人やらが兵士に護られる形で陽炎たちを見下していた。

 ジジ、と耳障りな音が響く。

『ふん、こやつらが勇者だと? 女子供ばかりではないか』

『とても魔王と相対できる者には見えぬぞ』

『まさかオーレリアが召喚に失敗したなどということはあるまいな?』

『まあまあ、大臣方。そのオーレリア殿も似たような年頃でございましょう。見かけで全てを判断されるのは早計では?』

『将軍殿の言う通りじゃな。試してみればわかる』

 誰が喋ったのかはわからないが、やたらと偉そうな声が拡声器を通して陽炎たちを品評する。権力者が大嫌いな陽炎はそれだけで反吐が出そうだった。

『あー、異世界の勇者よ。いきなりこのような歓迎ですまんな。だが、こちらは悠長に話をしている余裕がない。お主たちが本当に彼の魔王を倒し、我が国を救ってくれる者か試させてもらうぞ』

「……チッ」

 期待を持たない適当な声音に陽炎は今すぐ帰りたくなった。別に期待されたいわけではないが、果てしない上から目線が非常に気に食わない。

「えっと、それで? 私たちはなにをすればいいのかしら?」

 舌打ちする陽炎に危うさを感じたらしい姫華が大声で訊ねた。だが偉そうな声の返答はなく、代わりに正面の巨大な鉄扉が重たい音を響かせてゆっくりと開き始めた。

 その奥の暗闇から――ガラガラガラ。

 なにか巨大な質量を荷台に乗せたような車輪の音が聞こえてくる。音は次第に大きくなり、やがてその全容が明らかになった。

 十頭の馬によって引かれた、規格外の大きさの荷馬車だった。荷台に縛りつけられた灰色の塊は、体操座りで蹲った一人の人間のように見える。

 ただ、その大きさは蹲っている状態でさえ五メートルを越えていた。

「巨人……」

「大きいですわね」

 姫華と夢優が灰色の巨体を見上げて特に驚きもなく呟く。巨人はところどころに剣や槍や弓矢などが突き刺さり、見ているだけでも痛々しい姿をしていた。

「ゴライアス配下の魔族だな」

 これから一体なにをさせられるのか、陽炎は大方の見当がついた。

『この巨人は我が国の精鋭五百人でようやく捕えることのできた魔族じゃ。お主たちが真に勇者であるならば、これを見事討ち倒してみせよ』

 そういうことだ。

 勇者として認められたければ魔王の眷属を殺せ。単純な方法だ。ついでに踏絵の効果まで狙っているだろうが、魔族に人間じみた仲間意識など期待するだけ無駄である。

「くだらんな」

「でも、たま~にあるのよねぇ、こういうこと」

 呆れを通り越して悟ったような顔で長く息を吐く姫華にとっては、もう何度も経験した通過儀礼なのだろう。

「丁度よいのでございます」

 と、なにやら夢優が楽しそうに両手を合わせて陽炎を見た。

「陽炎様は既になにかしらの能力に目覚めているはず。であれば、これを機にその能力を使いこなす……とまではできなくとも、自分の意思で使えるようになっていただきたいのでございます」

「あ? 俺に一人でアレと戦えってことか?」

「はい。もしもやられそうになればその時は手をお貸しいたします」

 だから安心して戦ってください、夢優の笑顔が言外にそう言っていた。

「ちょ、ちょっと待って! 陽炎一人に戦わせるなんて……その、まだ無茶よ!」

「ですが、姫華様。陽炎様の能力がなんなのか、陽炎様自身もわたくしたちも知っておく必要があると存じ上げます」

「そ、そうだけど、陽炎は……」

 陽炎が持つ魔王の力を夢優に見られてしまう、姫華はようやっとそこに考えが至ったらしい。夢優と一緒にクエストをすることが楽しみになってそこまで頭が回らなかったようだ。

「ハッ、よくそんなマヌケで最強の勇者になれたもんだ」

「な、なんですって!?」

 嘲笑された最強勇者様が犬歯を剥き出して叫ぶが、陽炎は無視して夢優へと歩み寄った。

「おい、美ヶ野原夢優」

「な、なんでございましょう?」

 唐突に迫ってきた陽炎の迫力に夢優は珍しく動揺して後ろに下がった。構わず陽炎も夢優が下がった分だけ詰め寄る。

「俺の能力がなんなのか、だったな? そんなもんとっくの昔に知っている」

 夢優の背中が壁にあたり、それ以上は後退できない。追い詰められた形の夢優は気丈な表情で陽炎を見上げた。

「……どういうことでございますか?」

「説明は不要だ」

 ドン! と陽炎は壁に手をつき、夢優を横から逃がさないようにする。もっとも、これ以上逃げる気はなさそうだが。

「ちょっと陽炎!? あなたなにしてるのよ!? 美ヶ野原さんになにするつもりなの!?」

「黙ってろ馬鹿勇者。お前の失態のフォローだ」

「んな!?」

 絶句する姫華。

 余計なことをされる前に陽炎はさっさと事を済ませることにした。

「わたくしを、どうするつもりでございますか?」

「抵抗すんなよ。別に強姦しようってわけじゃねえ」

「あっ」

 僅かに魔力を高めると、陽炎の両目が不気味な赤色に輝いた。すると陽炎の顔をまっすぐ見上げていた夢優の青色の瞳がすぅーっと光を失っていく。

「いいか? これから俺がなにをしようと疑問を持つな。なにも考えるな。ただそこに突っ立っていろ。そして終わったら綺麗さっぱり忘れるんだ」

「……はい」

 陽炎が命じると、夢優は意志のない操り人形のようにあっさりと頷いた。それを認めてから陽炎は夢優から離れる。

「催眠術?」

「ああ、これでバレない」

 夢優は陽炎に言われた通り、虚ろな瞳のまま壁際で棒立ちになっている。催眠は上手くかかっているようだ。

「卑劣ね」

「魔王だからな。誉め言葉だ。さて――」

 姫華の悪態を軽く流して、陽炎は告げる。


「準備はできたぞ! 掃除がいらねえように消し去ってやるから、さっさとその巨人を解き放っちまえよ!」


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