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二章 帝都侵攻(8)

 超高密度の魔力で形成された必殺の槍が陽炎に迫る。大気が焼け、空間が避け、槍が通過した後は元素すら残らない虚無と化す。

「チィッ!!」

 陽炎は可能な限り魔力を高めて放出した。転移は間に合わない。霧化しようと問答無用で消滅させられる。ならば同じだけの力で相殺するか、それ以上の力で打ち破るしかないだろう。

 魔槍と魔力砲が衝突する。

 既に周囲は都市の面影すらない更地だが、さらに広範囲にかけてハンマーで殴りつけるような爆風が吹き荒れた。もしも範囲内に普通の人間がいたならば即死だろう。

 ゴライアスにはもちろん、陽炎にも人間を気にかけるつもりは毛頭ない。それは魔王ではなく勇者の仕事だからだ。

 更地と化した都市の果て。

 そこから揺らめく極光の壁が聳え立ち、まるで専用の闘技場でも形成するかのように陽炎たちを取り囲んだ。


        †


 数分前。

 魔王対魔王の超常的な戦闘の余波を受けてなお、倒れることなく立っている者たちがいた。

「なんと凄まじい」

「俺らの大将とタメはれるって、どんだけだよあのガキ」

 ゴライアス軍幹部――『三連峰』の巨人二人は、殴りつけてくる衝撃に堪えながら表情を引き攣らせていた。

「敵を前に余所見するなんて感心しないわね」

 絶大な斬撃力を持った極光が横薙ぎに振るわれる。グレゴリウスとプロメテウスは同時に後ろに飛んで回避した。プロメテウスが飛び退りながら火炎を噴くが、それは極光の大楯であっさりと防がれてしまった。

「あなたたちと遊んでいる時間はもうないのよ!」

 姫華は剣を構え、地面を蹴ってグレゴリオスの方へ突撃する。全身を眩い輝きに包んだ神速の一撃を、グレゴリオスは槍を立てて受け止めた。

 が、それでは防御にならないことは知られている。

 グレゴリオスは姫華の斬撃を受け流し、横合いから籠手の嵌めた巨拳で殴りつけてきた。

「取った!」

「こっちがね!」

 姫華は受け流された力のベクトルにそのまま従って一回転。迫りくる巨拳ごとグレゴリオスの巨体を斜め下から掬い上げるように断ち斬った。

「グレゴリオス!? おのれ『極光の勇者』!?」

 全身を炎上させたプロメテウスが姫華を掴み取ろうと手を伸ばして来る。あの体に触れれば姫華と言えども一溜りもないだろうが――そんな未来はあり得ない。

「あなたも終わりよ」

 姫華の周囲に極光の球体がいくつも浮かび上がった。それらからガトリングガンのごとく光の弾丸が射出され、プロメテウスの炎など物ともせずに貫通。一瞬でハチの巣に変えた。

「魔王軍の幹部が……手も足も出ぬのか」

 それでもまだ息のあったプロメテウスにトドメを刺すべく、姫華は高く飛び上がって大上段に極光の剣を振り上げる。

「これが『極光』――幾多の魔王を滅ぼした勇者の力か!」

 プロメテウスは最後に自爆でもするように全身から炎を噴出した。だが姫華は怯まない。あの炎で焼かれるようなヘマはしない。

 斬ッ!! と。

 頭から真っ二つに両断されたプロメテウスは、そのまま自分の炎で自身を焼き尽くして灰と化した。

「陽炎とゴライアスは……?」

 姫華は幹部を屠った感慨を抱く暇もなく、破壊の嵐を撒き散らす魔王たちを探す。いや、探す必要はない。陽炎はともかく、『巨峰の魔王』ゴライアスを見失うことなどあり得ないからだ。

 視線を少し横に向けただけで簡単に見つかった。

「――嘘ッ!?」

 そして、絶句した。

 ゴライアスが凄まじい魔力を込めた槍を生成し、陽炎もそれに対抗するように魔力を高めている。

 この二つがぶつかったら、恐らく帝都全域が吹き飛ぶだけでは済まない。最低でも大陸一つは沈むだろう。

「もっと周りを考えて戦いなさいよ!?」

 姫華は王宮の方角に向かって走った。極光のオーラを纏った超人的な高速移動はあっという間に数キロメートルを踏破する。世界をどれだけ破壊しようが意にも介さない魔王どもが待ってくれるはずもない。急がなければ……。

 遠くで巨大な力の衝突を感じた。

「もうここでいいわ!」

 力を極限まで高め、姫華は大剣を地面へと突き刺した。

 次の瞬間、大剣から立ち上った極光の柱が天を衝き、両側から地面を走るように円形を描いて広がっていく。

「ぐっ……」

 姫華の力の防壁はたとえ核弾頭を撃ち込まれても問題ないくらい硬い。だが、個人が核弾頭を鼻で笑うような力を持つ魔王二人の衝突を、しかも広範囲で防ぎ切る自信はなかった。

 衝撃を極光が受け止める。包囲はできた。あとは荒れ狂う魔王の力を内側だけで相殺できれば勝ちだ。

「ダメ……」

 極光がぶれる。

「もう少し、耐えて」

 大剣の柄を強く握り締める。力を使い過ぎている負担が容赦なく姫華の体に圧しかかる。漏れ出た圧力で服が裂け、血が流れ、体力がごっそり奪われていく。

 それでも姫華は堪えた。膝は決して折らない。この程度で倒れるようでは勇者失格である。


「お手伝いは必要でございますか?」


 リィン、と澄んだ音色が響く。

 途端、姫華の内側から活力が漲ってきた。体力が回復していくだけではない。傷が塞がり、姫華の限界以上の力が込み上げてくる。

 今の音色のおかげだとは思考する必要もなく悟れた。

 振り向かずに叫ぶ。

「美ヶ野原さん! お願い!」

「承知いたしました」

 リィイイイイイイイン。

 穢れのない澄み切った音色が障壁となって姫華の極光に被さる。向こうが魔王二人の力なら、こちらも勇者二人の力で防げばいい。一人で防ぐなどというくだらないプライドなど姫華には、いや、数々の死線をくぐってきた勇者たちにはない。そんなものは無様に敗北し、無意味に死ぬだけの捨て去るべき意地だ。

「こっちは防ぎ切ってみせるわ。だから――」

 姫華はもはや死の世界と化している障壁の内側を見据える。


「打ち勝ちなさい、陽炎!」


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