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二章 帝都侵攻(4)

 押し寄せる敵を圧倒的な力で薙ぎ払っていた逢坂陽炎が前線から消失したのとほぼ同時。

 宮殿内に聳える高塔の上層部が機械仕掛けな音を立てて変形していく。壁が内部に押し込まれるように開き、青白く発光する巨大クリスタルが露わになる。

 その異変に帝都の入口に集結していたゴライアス軍本隊が気づいた時、塔から無数の青白い光線が流星のごとく放出された。

 その後は一瞬だった。

 光は放出後すぐに一点へと収束し、超巨大な魔力砲となって都市外円部を扇状に焼き払ったのだ。

 数々の巨人巨獣が呑み込まれ、消失し、とてつもない爆炎が戦場の空へと噴き上がる。

 収束魔力砲の一撃は、どちらの陣営にも多大なる衝撃をもたらした。



 王宮内――大臣たちの避難所。

「見たか巨人ども! これが我が帝国の力じゃ!」

「なんと凄まじい……」

「これほどの力をよく作り上げたものですな」

「全てはオーレリアの知識と儂の采配じゃな」

「もう魔王軍など恐れることはない。一気に薙ぎ払ってしまえっ!」



 都市内最前線――上半身を消失させた巨人巨獣の死骸が転がる広場。

「将軍、今のは……」

「オーレリア殿の収束魔力砲だ。我々が巨人でなくて助かった。同じ身長だったら我々も巻き込まれていただろう」

「しかし、いくら剣や槍を使っても傷つかない巨人どもがこうもあっさり……こんなものがあるのでしたら、我々が戦う意味がないのでは?」

「そうだな。今の一撃で、一体何人の魔術師が散っていったか定かではないが」

「え?」

「気にするな。収束魔力砲を撃つには時間を要する。その時間稼ぎをするだけでも我々が戦う意味はある。――敵兵の生き残りがいないか探せ! もしいたのならば即刻トドメを刺すのだ!」

「「「はっ!」」」



 ゴライアス軍最後尾――魔王ゴライアスは胡坐を掻いていたその巨体をゆっくりと立ち上がらせた。

「人間どもの切り札か。本陣の大半を消し飛ばすとはやってくれる。ネピリムの魔力も消えた」

「ネピリム様が!?」

 ゴライアスの周囲を護衛していた位の高い巨人兵たちが慄く。そんな彼らの中で動揺しなかった者が魔王の他に二体いた。

「おいおい、ゴライアス軍の三連峰が二連峰になっちまったってことかい?」

「まあ、あやつは将を名乗るには頭の出来があまりよくなかったしの」

 他の巨人兵たちとは一線を画する巨体を豪奢な鎧で包んだ二体だ。

「グレゴリウス、プロメテウス、戦闘の準備をしろ」

「「はっ」」

 ゴライアスに指示され、その二体の巨人が恭しく頭を下げた。緑の鎧を纏った軽薄そうな巨人がグレゴリウス、赤い鎧を纏った半獣の巨人がプロメテウス。ゴライアス軍が幹部――三連峰に名を連ねる将たちだ。

「俺も出る」

 そう言うと、ゴライアスは巨塔のような剣を佩いて帝都へ向けて進軍を開始した。



 そして王宮外部――南の城門前。

「間一髪だったわね」

「振り出しに戻されてなけりゃ言うことはなかったんだがな」

 ふてくされたようにその場に座り込む逢坂陽炎に久遠院姫華は苦笑を浮かべた。陽炎の位置だと間違いなく巻き込まれていただろうが、たとえそうなったとしてもあの程度の威力(・・・・・・・)であれば彼が消滅することはなかっただろう。

「今のが収束魔力砲でございますか。まあまあの威力でございますね」

 王宮の北側を守っていた美ヶ野原夢優が屋根を飛び越えてやってきた。収束魔力砲の薙ぎ払いで敵がいなくなったからだ。

「単刀直入にお聞きします。これで魔王軍に勝利できると思われますか?」

「ないな」

 夢優の質問に陽炎が即答した。

「たとえ今のが最大出力じゃなかったとしても、雑魚は殺せるだろうが魔王の首は取れねえよ」

「となると、わたくしたちの仕事が終わるわけではありませんわね」

「敵兵の数が減ってくれれば楽になるわ。ただ――」

 姫華が眉を寄せて収束魔力砲のある塔を見上げる。


「これ、一発撃つごとにけっこうな数の犠牲者が出ているわよ」


 収束魔力砲を撃つための魔力源は人間である。そして大抵の場合、魔力とは生命力を変換して生成される。あの威力を撃ち出すために一体何人の魔術師たちが生命力を搾り取られたのかは計り知れない。

「もう撃たせない方がよろしいでしょうか?」

「いいだろ別に。魔術師たちが命を使い捨てる覚悟をしてまで国を守ろうとしてるんだ。やらせておけよ。結果は出せてるんだ。無駄死にじゃない」

「でも、勇者的にはあんまり『犠牲』って見逃せないのよね」

 放っておけばいいものを、と陽炎は内心で舌打ちする。綺麗事が大好きで、それを実行できてしまう力を持つ勇者にとっては面白くない状況なのだろう。

「それでしたら、これ以上はやめておくようにわたくしがオーレリア様に進言して参りますわ」

「そうね。残りは、私たちの仕事にしましょう」

 燃え上がる帝都外周を姫華は睥睨する。

 もう帝都には踏み込ませないという意思を込めて。


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