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~おまけ たとえばこんな義兄妹弟

「キートーンー!」

 細身の槍を手にした少女がその柄を地面に叩きつけた。

「やあロベリア。久しぶりだね」

 対する青年は、朗らかな笑みを浮かべて片手を上げて見せた。

 焦げ臭い臭いが辺りに漂う。半壊、もしくは全壊した建物が散乱する中、彼らがいる場所だけがまっさらになっていた。そんな二人のいる場所から少しだけ離れたところに、真っ青な顔で震える少年が立つ。この少年、二人の弟分であるのだが、今は二人の眼中外のようだった。

「なんてことしてくれるのよ!」

 瓦礫の山となった場所には元々豪華絢爛、大きな屋敷が建っていた。少女が今立っている場所はちょうど屋敷の客間になっていたところであった。もちろん今では見る影も無い。

「なんてことって、助けてあげたんじゃないか」

 この惨状をみても青年は悪びれる様子もない。遠くから人の叫び声が聞こえるが、それすらも気にしていない様子であった。

「誰が頼んだのよ。誰が! こんなに壊しちゃってぇ!」

「壊すったって、君こそ大分壊していたじゃないか。あの辺とか……」

 青年が指し示す先には半壊した建物がある。ドワーフの血を引く少女が受け継いだその怪力によってぶっ飛ばしたものである。壁は破られて大穴があき、所々屋根が崩落していた。

「あ、あれは……」

 少しひるむ少女に青年が畳み掛ける。

「君だろ? 随分壊しちゃって」

「あれは仕方なかったのよ! アキラを逃がすには手っ取り早かったし」

 アキラというのは二人の弟分の名前である。

「じゃ、俺だってロベリアを助けるためには仕方なかった」

「キトンはやりすぎなのよ!」

 少女が吠えた。

 青年が魔術を使って吹き飛ばした家は内装もろとも原型をとどめていない。ちゃっかり屋敷の高価なものを失敬しようとしていた少女には手痛い仕打ちだ。

「てか、わたしは、キトンが勝手に私の家をギャンブルの担保にかけた挙句、負けて巻き上げられたの忘れてないんだからね! バーカ! キトンの甲斐性なし!」

「かっ……!?」

 キトンが絶句した。

 そもそも少女が少年を連れて旅をしている理由はこれである。家がない。作ってもいいけど最近の情勢はきな臭い。そして勝手に家を売って消えた兄をボコす。その三つを理由の主に、勇ましい少女は国から国へと放浪していたのである。

「君は、ますますたくましくなっちゃって……。お兄ちゃんは嬉しいやら悲しいやら」

 衝撃から立ち直った青年が仕返しとばかりによよと泣き崩れる真似をする。少女はふんと、むしろ勇ましく槍を打ち付けた。

「ドワーフは勇ましくてなんぼよ!」

 雄々しく宣言した少女に青年は深いため息をつく。元々元気いっぱいな少女ではあったがいささかたくましすぎだ。

「お兄ちゃんは、君がとっても心配だよ」

「誰のせいよ、誰の」

 少女はため息をついた。惨劇の舞台を見回してまた、ため息をつく。

「……まぁ、いいや。一応助かったのは事実だし。ありがとね」

 少女は少年を呼んだ。

「ロベリア、これからどうするの?」

 呼ばれてからようやく二人のそばにやってきた少年は、少女と青年を見比べてため息をついた。彼自身はなるべく波風立たぬよう目立たぬように生きているというのに、この二人といると常に周りは騒がしい。

「……大丈夫。大貴族様をぶっ飛ばしちゃったからもうこの国にはいられないけど」

「俺も脱獄してきちゃったからしばらくこの地にはいられないなー」

 青年は呑気につぶやいた。

「はぁ!? 脱獄? あんた馬鹿なの? 死ぬの? なにしたの?」

「今回は無銭飲食だって。ヒースのせいで余罪がバレて逃げてきた」

 少女は大きなため息をついた。頭が痛い。

「キトンはどうするの」

「さぁ、逃げる」

 キトンはのほほんと笑った。

「あ、そろそろ追っ手がくるかもね。うっかりロベリアのことも口走っちゃったからロベリアの犯罪履歴もばれてるかもー?」

「はぁ? ふざけんな!!」

ロベリアは荷物を担ぎ上げると少年の手を取った。

「アキラ、逃げるよ」

「あ、ちょっとロベリア」

 少年は慌てて自分の荷物を担ぎ直す。

「あ! 待って待ってー。ロベリア。俺も一緒にいくよ」

 朗らかに青年が宣言をし、軽い足取りで二人を追って走り出す。

「ちょばか! ついてくんなこのやろー!」

 追う兵士、逃げる三兄弟。その鬼ごっこは夕暮れまで続く。数年ぶりに一緒になった彼らはまた再び一緒になる。


 ーーこれは、最も迷惑な義兄妹弟の日常の物語


                                  END

                




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