作戦……、開始かな?
一週間がたちました。
その間、私は朝ごはんを食べると秀作さんを玄関までお見送りしてからお昼まで寝る。
お昼に秀作さんがご飯をつくりに来てくれるので、美味しく頂いたら秀作さんをお見送りしてお昼寝をする。
18時ごろになったら玄関まで秀作さんをお出迎えしにいった後、夕ご飯を作ってもらっていろいろなお話をして一緒に寝る毎日。……あれ? 私ダメな子っぽい?
でもでも、ご飯を食べながら学校の経営や生徒について色々相談されたり、肉球をぷにぷにさせてあげたりブラッシングしてもらったり、夜は抱き枕がわりにもなってあげてるよ?
え? 女子高生としての貞操感? いや、私今は猫だし? そりぁまぁ、私も最初は抵抗があったよ。けど、秀作さんが「肌寒い日に猫と一緒に寝るのは最高って聞いてね。私が寝入ったら逃げ出しても良いから」って頼まれたら、お世話になってるんだからこれぐらいは……、って思ったりしない? で、試してみたら以外と気持ち良くて癖になっちゃっても仕方ないよね。
うん、私は秀作さんの日々の癒しとしてお仕事頑張ってるよ。昨日なんかねこじゃらしを持ってきたから「私はそんな物に踊らされないよ」と言ってはみたものの、猫の習性が表に出たのか見事に弄ばれたのは記憶に新しかったりするけど。
……あの心からの笑顔はSっ気から来たものなのか、素直に子猫と遊ぶのが楽しいからだったのは判らないけれど、妙な屈辱感に涙したのは覚えている。
よくよく考えて見るとなにか乙女として大切なものがゴリゴリと削られている気もするけど……。うん、気にしたらきっと負けだよね?
……まぁ、そんな毎日はとても楽しい訳で。
昔は恋愛小説に夢中でリアルの彼氏なんてって思っていたけど、今なら彼と二人での生活っていうのも悪く無いかなって思ってる。これはちょっとした後悔。
うん、湿っぽい話は無しっ! 私は今子猫なんだし睡眠をとるのが仕事なんだから乙女の何かも無し無し。
大人の猫だって一日の大半は寝て過ごしているし、きっと私も猫の習性に引っ張られているだけに過ぎないよね? だから干物女とか影で言われたりしないよねっ!? ねっ!?
……ごめんなさい。やっぱり今の生活は改善しなきゃいけないと思ってます。
っと、いけないいけない。ついあさっての方向に思考が逸れてた。思考を戻してっと……。
ごほんっ……、ともかくついに、秀作さんから外出の許可を貰ったんだよね。
やっと今日から外出が出来るようになる。と言っても学内だけだし、時間制限があるからそんな遠い所に行ったりはできないけどね。
それでも家の中に篭りきりでいるよりずっと世界が広がるから素直に嬉しい。
まず何をしようかな。
最初の目的は麗華さんとお友達になることだけど、どうやってお知り合いになるかって所から始めないとなんだよねぇ……。
朝は車で通学してくるから時間を取れないだろうし、休み時間の教室にお邪魔するのもなぁ……。
となると後はお昼と放課後。あ、でも放課後はサロンの方に行ってるかもしれないか。
ゲームではあったし、多分あるんだろうなぁ。一定以上の学力と家柄を兼ね備えた人だけが使える憩いの場で、政財界の将来を担う若者たちの顔合わせの場……だったかな。麗華さんは将来を見据えてそこに入り浸っているって描写があったから放課後はそっちに行ってるかもしれない。
なら狙うのはお昼しかないか。
お昼の描写は無かったけどお昼休みにヒロインに絡む描写は多かった。本当にご飯食べてるの? ってぐらい鉢合わせしてたもんね。どこにいるのか分からないけど狙って見るなら一番可能性は高いかな。
「と言うわけでお昼に学校行って良い?」
「何が『と言うわけ』か分からないけれど、構わないよ」
出勤の準備をしていた秀作さんにお伺いを立てると苦笑いでOKが帰ってきた。唐突な話題の振りはここ一週間の間に慣れたみたいだけど、まだ苦笑いになるのは慣れがたりないみたいだね。前世の友達だったみっちゃんなら笑顔で答えてくれる。
「それならお昼は学長室で一緒に食べるかい?
その方が私も安心できるし、タルトもご飯の時間をずらさないですむだろう。
それにね、食べてすぐ横になってばかりでは体にも良く無いだろうから、多少は運動がてらに散歩すると良いよ」
秀作さんは笑いながら私のお腹をさすって来た。
「秀作さん、それセクハラっ!! シャーッ!!」
思わず飛びのいて威嚇音を立てる。
最近お腹周りがぽてぽてして来たのはかなり気にしている。でもそれとこれとは別問題っ!
「あまりぽてぽて感が過ぎるようだったらダイエット食に切り替えるからね」
「子猫だからこれは仕方ない事だもん。すぐに体の成長に変わるんだから大丈夫だもん」
「肥満体型で育った子は痩せにくいらしいよ?」
「はうっ!?」
笑顔の秀作さんとは裏腹に、私は完敗からガクッとうなだれる。
「……だって、秀作さんの作るご飯すっごく美味しくてつい食べ過ぎちゃうんだもん」
「そう言ってくれると嬉しいよ。今日のお昼も楽しみにまっててね」
そう言って秀作さんは片付け終わった筈のキッチンへ向かった。
「あれ? 何か忘れ物?」
「いや、出るまでにもう少し時間があるからね。私とタルトのお弁当を作ろうかと思って」
私の疑問に答えながらも冷蔵庫からささみを取り出すのが見えた。
「ささみっ!!」
昔はパサパサ感が好きじゃなかったけどこの体になってからはささみの美味しさに目覚めた。と言うか大好物になった。
「子猫だから少しだけだよ。お弁当のおかずね」
秀作さんはにっこりと答えると、ささみを湯通しして細かく裂いてゆく。
「秀作さん大好きっ!!」
この一週間で何度言っただろう、素直な気持ちを言葉にすると秀作さんも答えてくれる。
「ありがとう。私もタルトの事は好きだよ」
素直な好意と言うのは純粋に嬉しいんだろう、秀作さんの頬が少しだけ緩んでいた。
いいなぁ、こういう空気。私もこんなお嫁さん欲しかった……、あれ? ……って、飛躍しすぎだよ、私っ! まずはかわいい彼女からだよね?
なんてことを考えている間にテキパキと二人分のお弁当を作り終わったみたいで手早く包んでいた。
「はい、出来上がり。お昼を楽しみにしてるんだよ」
「うんっ♪」
笑顔で振り返る秀作さんをみて改めて思う。"絶対いいお嫁さんになるよ"って。
心の中でそんな失礼なことを思いつつ、出来上がったお弁当を片手に玄関から出て行く秀作さんを笑顔で見送るのであった。
「秀作さん、行ってらっしゃい」
「ああ、行ってくるよ」