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猫デビュー……、って嬉しくない。

「えっ!?」


 体がぐらりと揺れる。落ちる感じは無いから安心だけど、こう、振り回される感覚って慣れないよね?

 あっ、そうそう、今の私はバスタオルに包まれた上で秀作さんに抱っこされて居る状態。私がしゃべった拍子に驚いて私を落としかけた?

 危ないなぁ。一応子猫なんだよ? 私。

 うん、子猫なんだよなぁ……私。


「話した……?」


 秀作さんは私の顔を覗き込む。やっぱり驚かせたみたいだ、まぁ、叫んじゃったしね。

 でも仕方ないよね? ふっと気がついたら猫になってるなんて叫ばない方がおかしいよね?

 私、花の女子高生だったんだよ? え、古い? でも青春真っ盛りだった女の子にこの仕打ちは酷くないっ!?

 と言うか何がどうなってるの?

 間違いなく猫……、だよね?


「もう一度喋ってご覧」


 おっかなびっくりと言う感じで秀作さんが話しかけて来た。

 どうしよう……。

 現実逃避したいところだけど、したところでどうしようも無いし、これが夢じゃ無いのなら現実として受け止めなければならない……。

 夢かどうかは一旦置いておくとしても、取り敢えず取り乱すべきなんだろうか? そもそも、なんでこんなに落ち着いてるの?

 みっちゃんから良く「貴女って妙な感じで、冷静に物事を受け入れるよね? 一旦思考にふけると周りの言葉を全然聞かないのに……。羨ましいようなそうで無いような……」と褒められたことはあるけど。それなのかな?

 それとも思考が事態に追いついてないだけ?


「ねぇ、聞こえる?」


 うーん……、うーん……。


「聞こえてないのかな? 耳が詰まってるとかじゃ無いだろうね? ちょっと失礼」


 うーん……考え過ぎか、頭が揺れて視界がぐるぐる回る……。


「おぉ、ふかふかで柔らかい。

 耳は詰まってなさそうだけど、このまま頭を撫でさせてもらうよ」


 ぐ~るぐ~る世界が回るぅ。


「ははっ、面白いね、撫でるのにつられて首が回る」

「って、私が揺らされてるんかいっ!!」


 いけないいけない、思わず突っ込んでしまった。


「えっ!? やはり……本当……に?」


 そうだっ、まだよく把握してないけど、話の流れから行って秀作さんが飼い主になるんだよね?

 ここは媚売ってご飯のグレードをあげてもらわないとっ!!

 カリカリとか残飯なご飯は嫌だからねっ?

 といっても何すれば良いかな? 確か猫って体を擦り付けてアピールしてたよね? 今は胸に抱かれたままだからこのまま……っと。


「え~っと、ご主人様宜しく。美味しいもの一杯たべさせてね♪

 よし、こんなもんだろう」

「あ……、あぁ。うん。……それは約束しよう……、

 しかし……、あれだ……、すまないが少し失礼するよ」


 秀作さんはそう言うと、私をテーブルに乗せて後ろを向いた。

 なんだろう? 後ろ姿しか見えないけどすっごい悶々とした空気が伝わってくる……。


「うん、夢では無いな。……確かに喋ってる」


 どうしたんだろう? ほっぺたをつねりながら私の方に振り向いた。どんだけ力入れてつねったんだろう? 真っ赤になってるよ。


「そりゃしゃべるよ? 猫だもん。と言ってもにゃーとなぁ~ごとか聞こえてるんだろうけどね?

 あ、それとも会話を理解してるように返事してるのが珍しいのかな?」


 首を傾げる私に、秀作さんは困ったように告げる。


「いや、君が喋ってるのは日本語だよ」

「……え?」


 えっと……。どう言うこと? 猫が日本語を話してる? じゃ、もしかして?


「Hello」


 英語で挨拶をしてみる。


「ええと……英語も出来るのかい?」


 にわか英語だけど英語に聞こえたみたいだ。でも、英語2の私に英語で答えられても困る。


「すいません、できません。言って見ただけです」


 素直に謝って英語で返されるのは勘弁願おう。


「そ……、そうかい。正直話が出来るだけでもかなり驚きではあるんだけどね。

 ……そうだな、何て呼べば良いかな?」


 呼び方かぁ。猫なのに元の名前で呼ばれるのには抵抗があるかな? となるとなんだろう……。


「あら、秀作さんが付けたタルトと言う名前があるのでは?」


 そんなことを考えていると、聖羅さんがトレイにティーカップ2つとタルトの乗った小皿、あとはミルクの入ったお皿を持って来た。


「あぁ、聖羅さん。それはそうなんですが……。

 っと、聞いてましたか?」


 秀作さんは口籠ってしまう。私が話出来るって言って良いのか悩んでるのかな?


「ふふっ、大丈夫よ。その子にもその子の考えがあるのだし。ね? タルトちゃん」


 えっと、その通りなんだけど何て答えよう。


「大丈夫よ。貴方がちょっと普通の猫と違うのは知ってるから」


 そうなんだ?

 秀作さんの方を見ると、彼も驚いてる。と言うことは知らなかったのかな?


「ふふっ、私は聖羅って呼んでね。こっちの子は秀作、貴方の飼い主よ」


 聖羅さんがーー


「さんはいらないわね」


 ……心、読まれてる?


「いいえ、読んでないわよ?」


 いや、絶対読んでるでしょ。


「ふふふっ」


 って事はさっきまで考えてた事、全部筒抜け?


「ふふっ、秀作さんこの子を大事にしてあげてね」

「あっ、はい」


 聖羅さんは何も言わず、私の頭を軽く撫でると自分と秀作さんの前にティーカップとタルトを起き、私の前にはミルクの入ったお皿を置いた。


「猫用ミルクだから安心してね」


 聖羅さんは穏やかに微笑んでティーカップを傾ける。


「ええと……、色々聞きたいこと色々とあるんですが…… 。聖羅さん、私にこの子が必要なんですね?」

「そうよ」


 秀作さんの問いに、聖羅さんは当たり前のように頷く。


「そうか、タルト、これから宜しく」


 秀作さんは困ったような笑顔で私の頭を撫でる。

 私には選択の余地は無い。なら、挨拶だけでも元気に行こう。


「はいっ。よろしくお願いします。秀作さん」


 こうして私は、秀作さんのうちの子になりました。

 そして聖羅さん……彼女は何者だったんだろう?

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