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COMMANDER!  作者: 破邪十字
Chapter1:第十魔臣Balthasar
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Chapter1ー1:暑苦主人公と不思議なメイド

 おっすアタシ美野里(みのり)いづみ!十九歳の女子大生ダヨ!皆の憧れ異世界トリップをしちゃいました!主人公の雪成クンとアタシ専属メイドのヴィーさんと旅に出ましたー。

 そう…筋肉野郎ばかりの格闘ゲーム世界にトリップしましたよ……。テンションを上げて現実逃避したかったが、失敗した。


「はあ」

「どうされましたか虎卍打ー様」


 ため息を拾ったのであろうヴィーさんが無表情のまま私を見てくる。美しいその人はゆったりとしたメイド服に身を包んでいる。淡い水色の髪は癖が無く真っ直ぐに腰まで伸びていて、動くたびに揺らめいていい匂いがした。怜悧な瞳を隠すように睫毛は長く、くるんとカールしている。薄い唇は形が整っており、そこから覗かれる歯列も綺麗に整っていた。勿論ムダ毛も見当たらない。身長は私よりも高く百七十位であろうか?モデル体型だが、しなやかな筋肉もついていて均整が実にとれている。

 くそ。無表情位しか欠点が見当たらない。なんて美人なんだ!


「……折角の屋根のある場所です。どうかゆっくりお休みなさって下さい」

「お、う、うん」


 挙動不審になってしまった。変に思われていないだろうか。横目で伺っても彼女の感情の動きは解らなかった。

 ごろんと横になる。真上を見ても星空が見えないのは数日ぶりだ。屋根のある場所がこんなにも有難いとは現代日本に生きる私は知らなかった。地面の上で寝るのはしんどいし、肌に感じる自然が慣れなかった。日に日に感じられるのはこれが現実だということ。


「ぐるるるぅ……ひひっ、みぞれ」


 それと幸せそうに寝言を吐き出す主人公が煩過ぎて眠れない。なんて奴だ。狭量な私では主人公の魅力が全然解らん。

 数日の間に聞いた情報によると雪成・久我は十八歳。里久之国出身で竜誠老師の弟子らしい。ジョブは気功戦士。得物は凄まじくデカい大剣。魂塗弄良亞ーとやらで基本技や必殺技を見たが、完全なるパワー特化型のようだ。得物の大剣は一振りの威力が高い代わりに隙が大きい。RPGにおける重戦士タイプだ。個人的にはメインで使うには微妙といえる。主人公だったら勇者タイプかと思ったが、そこは格ゲーだった。


(確かエーファが優秀なのは勇者タイプ且つ拘束技を持っていたからだったかな)


 まだ見ぬ仲間たち。エーファとクラウス以外情報がないし、いつ出会うかも解らない。次に行く予定の花の町「藍凉(らんりょう)」で何が待っているのやら。それと、多分本筋に現れないであろうメイドさんも謎だった。


「ヴィーさん」

「はい」

「ヴィーさんてずっと着いてきてくれるんですか?」

「はい」

「ヴィーさんてそう言えばお幾つなんですか?」

「三十には届きません」

「そ、そうなんですか。あの着替えや料理とかの用意ってどうされているんですか?それに湯浴みセットとか何処から用意しているのか気になるんですが…」

「企業秘密です」

「へ、へえ…」


 口調に僅かの乱れもなければ会話も弾まない。内向的な私にしては頑張ったつもりだが、如何せん相手が強すぎるようだ。


「旅人用の無人宿って危険だと思っていましたけど、案外安全なんですね」


 街から街の間に設けられている無人宿。旅人にとっては有難いが、よく敵が奇襲してくるイメージがある。旅の疲れもあり、安心しきった旅人が寝た瞬間──野盗が襲い掛かるなーんて。

 あははーと愛想笑いを浮かべた。すると、一瞬だけヴィーさんが口の端を上げたではないか!


「いいえ」

「はい?」


 否定の声にサーッと血の気が引く。え、まさか危険なんですか此処。


「虎卍打ー様。早く寝なければ明日に差し障ります、どうかお休み下さいませ」

「……いや、寝れないんですが」

「そうでございますか」


 それが、私の本日最後の記憶であった。色々不安になり目が冴えていた筈だったが、いつの間に寝たのやら。きっと疲れていたのであろう。



 朝からハイテンションな主人公は、よく眠れたとの事。おまけに幸せな夢を見て、気合いが入っているようだ。


「ああ、今日も朝日が眩しいな。魔王十宮で心細い想いをしているであろうみぞれ…待っていてくれ!うおおおお!」


 ヴィーさんがどこからともなく用意して下さった朝御飯を食べ終えると、雪成が太陽に向かって走りだした。恋人を想う気持ちは解るが、道を間違えている。どうして解りやすい街道があるのに道無き道に行くのか不思議である。

 ついでに、呆気にとられている間に朝御飯のセットは片付けられていた。ヴィーさんの謎は深まるばかりだ。

 彼女の横顔を見ていたら、ふいに視線がかち合った。見てんじゃねえ!と怒られるかもしれない。だが、ヴィーさんは気にした様子もなく無表情のまま雪成の方を指差した。


「雪成・久我が向かった先に小さな集落があります。追い掛けますか?」

「……取り敢えず、そうしましょうか」


 流され展開な気もするし、突っ込みが追い付かない部分もあるが……真面目に考えると疲れるので放棄した。

 ああ、早く帰りたいなー。

 そういやヴィーさんは私には様付けだけど、雪成は呼び捨てなんだよね。どうしてかな?以前からの知り合いって訳ではなさそうだけど。うん、解らん。ついでに私は雪成に堅苦しいのは無しだ!と言われたので呼び捨てため口です。

 てくてく二人で歩いていくと、土埃を盛大に立ててこちらに向かってくる影が見える。漫画によくある表現だなーとぼんやり見ていたら、正体は雪成だった。まあ、予想的中。

 あっという間に私達に合流した彼は、息切れする様子もない。ただ、憤怒の炎が目と背中にゆらめいて見える。


「大変だぞいづみ、ヴィー!」


 突然だが、主人公は基本的にお節介属性が多い。何故ならば問題に首を突っ込まないとストーリー進行が行き詰まるからだ。雪成も例外なく、問題を拾ってきたようだった。

 簡単に纏めると小さな集落に住む村人数人が、魔王十宮の第十魔臣バルタザールに攫われたらしい。魔臣は数字が少ないほど強く、賢くなる。今は序盤なので、十人いる魔臣の中でも一番位が低い第十魔臣と戦う流れのようだ。


「どうやら藍凉でも何人か攫われていると噂があるらしい。これを放っておいたらみぞれに怒られちまう」

「行くの?」

「勿論だ!攫われた人達を助けて、魔王十宮の一人もやっつければ一石二鳥だぜ!」


 行動派主人公に引き摺られ、魔臣バルタザールの居場所を突き止めるべく、花の町「藍凉」へ向かうことになった。集落では情報がなかったとの事。

 道すがらヴィーさんから教わったのだが、魔臣は魔貴族と呼ばれる魔人らしい。また、魔人とは不老長命が特徴の種族だとか。ついでに良い魔人もいるらしい。配下である魔物は人の想いが詰まった廃棄物が、魔人の力により意志を持ち人間に害なす獣へと転じたもの。魔獣は元々生きている獣が魔人の力により凶悪変化したものをさすらしい。これにより先日の弱ボスは「魔物」と判明した。


「……成る程。有難うございますヴィーさん」

「いいえ」

「なあいづみ、オレには聞きたい事はないのか!?」


 先頭を歩く雪成が期待の籠もった目で見てくる。いや、ないから。ちゃんと前向いて歩いて下さい。

 あんまりにも純粋な瞳に良心が痛んだので、適当に質問してみることにした。


「えーと、気功戦士って何?」

「おお、いい質問だな任せろ!気功戦士はこの世界にあるアレを使い、肉体の活性化するソレだな。肉体を鍛え上げ、精神を磨き上げ、アレを感じ取るには何年も修行を積まなきゃならねえんだ。オレもまだまだ修行中の身。早くアレを身に付けてえんだがな。あと、魔人ってのは不老長命もそうだがアレをナニに変える力があるのも特徴なんだぜ」


 思いの外説明してくれたが、肝心な単語をアレとか言われると訳解らんです…。有難いんですけど、脳内保管がおいつかなかった。


「へー。じゃあ雪成も大変な修行をしてきたんだねえ」

「まーな。まだまだ未熟者って竜誠老師に怒られてばっかだよ。でも、絶対に老師を越えて里久之国一番の戦士になってみせる」

「…竜誠老師?」

「竜誠老師は里久之国一番の武人だぜ?今は武術指南役をされているが、現役時代は通った後には何も残らなかったって伝説も語られている」

「そ、そりゃあ凄い…」


 得意げに語る雪成に賛同する。 あと、最強おじいちゃんって裏ダンジョンの隠しボスになりそうだなーなんて、ぼんやりと考えた。

 実際ストーリーモードを三週クリアすると開かれる「修羅の道」モードで戦う相手らしいが、今の私はそんなこと知らなかった。


「お、見えてきたぜ」


 漸く前を向いた雪成が指差す先。沢山の黄色い花が見える。花々の向こうには民家が薄らと確認出来た。


「花が一杯…」

「花の町「藍凉(らんりょう)」は魔を遠ざける花「魔守花(ましゅか)」に守られている町です。一面に咲いている黄色い花が魔守花です」

「へえー見事だね」

「女ってのは花見ると喜ぶよな。オレにはよくわかんねぇ」


 頭上に手を組み、溜息を吐く雪成に苦笑する。


「女性全員とは限らないけど、やっぱり綺麗なものを見ると気持ちが高揚するかな。ですよねヴィーさん」

「……そうですね」


 いつも通り無表情だが、なんとなく優しい声になっている気がする。た、多分。正直いつもより目が厳しい気がするが気の所為だと思いたい。


「みぞれを連れてきてやれば喜ぶか?」

「彼女がどんな人かは解らないけど嬉しいんじゃないかな」

「そうか。待ってろよ、みぞれ!」


 モチベーションが高まったらしく「うっしゃああああ!」と叫んでいる。そして、愛の炎を身に纏った雪成は私達を置いて藍凉に突っ走っていった。


「あ、待ってよ雪成」


 追い掛けようとしたら残ったもう一人が手首を掴んだ。私より大きくな手は意外と固い。


「虎卍打ー様。魔守花は──魔力を吸い取り咲く花です」

「魔除けじゃないんですか?」

「はい。この距離からならば綺麗に見えますが、魔守花の根元には数多の魔力を持つもの達の──亡骸があります」

「え…ほ、本当に?」

「はい」


 綺麗な花には刺があるというが。刺どころかもっとヤバい類いのようです。魔物や魔獣達が近寄れないのはいいけど、亡骸が町の周りに盛り沢山ってのはちょっと…。なんて恐ろしい花なんだ魔守花!

 青ざめた私を見兼ねてか「どうかお任せ下さいませ」と、ヴィーさんがいつもの抑揚の無い声で告げた。


「貴女様の心を痛めぬよう、助力致します」

「気を遣って頂き申し訳ないです」

「いいえ」


 一緒に歩いてくれれば心強いと思っていた。それなのにヴィーさんは私の腰に手を回して、密着状態となる。

 え、何?

 突然の浮遊感の後、一瞬の間に風景が切り替わった。ヴィーさんの温もりは変わらぬままだったが、花々は見えなくなり。周囲には民家が立ち並んでいる。

 そして、目の前には雪成がいる。


「お前らはっええな!もう追い付いたのかよ?」


 快活に笑っている雪成は「どうやって追い付いたんだ?!」と目を輝かせている。いやいや、そんなの私が知りたいですよ、ねえヴィーさん。

 私と雪成の視線が向けられたが、ヴィーさんはやはりいつもと変わらぬ調子で口を開いた。


「企業秘密です」


 絶対そう返答すると思った私はツッコミを諦めた。しかし、雪成は違う。

 何でだよ。教えてくれよ!気になって眠れない。なあなあ頼む!と押す。どんどん押す。ガンガンくる猛攻に、ヴィーさんはちょっとだけ苛ついた様子だった。眉間にちょっとだけ皺を寄せた彼女は魔法(マジック)道具(ツール)で空間移動をしたと教えてくれた。

 ファンタジーすげえ、としか感想を抱かなかった私だが雪成は魔法道具を持っていることにすげえ、と驚いていた。魔法道具は魔人の職人さんしか作れず、魔人以外が使うと直ぐ壊れてしまう為世界でも数個程しかないらしい。

 そんな希少なものを使わせてしまって申し訳ない想いを抱くと同時に、そんなハイテク道具を何故持っているのか疑問が浮かんだ。

 しかし、今度こそ疑問の答えは返って来なかった。

 ……ヴィーさんの謎は深まるばかりである。





ヴィーさんは雪成といづみにとってはドラ○もんみたいなもんです。困った時のヴィーさん。

ただ、頼りになるけど謎すぎてツッコミが追い付かない。

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