04
赤くない夕日の中で早目の夕食を始める旅人達。
干し肉と水だけの食事なので楽しくないのは分かっているが、それにしてもコノハに落ち着きが無い。
「どうした?小便か?」
「うん」
冷やかす様なカラスの言葉に即答で頷くコノハ。
普段の少女なら、この手の冗談は無視するか雑に流して終わらせる。
しかし素直に反応してしまっているので、かなり切羽詰まっている様だ。
「隠れる所が無いから、夜になるまで我慢しようかと思ってたんだけどさぁ。ちょっと、持ちそうもない」
「なるほど。どうしようか」
周囲を見渡すクラマ。
見晴らしが良過ぎるので、例え一キロ離れても何をしているのか見えるだろう。
こんな場所で用を足すのは、それが少女でなくても抵抗が有る。
「コノハから目を逸らしてやるから、適当な所でして来なよ」
数メートル先を指差すカラス。
「出来たらやってるよ。男は良いよねぇ、そこらへんで出来るから」
「何だよ、見てたのかよ。じゃ、お返しに俺も見ててやるよ」
相変わらずの軽口を言うカラスを小突くクラマ。
「お前がそう言う態度だから余計に出来ないんだろうが。さて困った。良い手は無いかな」
「あ、テントの中でしようか。穴を掘って、埋めれば……」
立ち上がるコノハ。
内股前屈みな姿勢が危機感を醸し出している。
「そうだな。ただ、その上では寝られないぞ。湿気が上がって来るから、張り直す必要が有る」
「分かってるから、二人共離れてくれるかな。その、これだけ近いと、音が……」
すぐ横のテントを前にしてモジモジするコノハを見て溜息を吐くクラマ。
男達が揃って移動すると、固定出来ない馬達が付いて来る可能性が高い。
そうなると、自分の主の姿が見えない白馬が怯えて予測出来ない動きをするかも知れない。
この白馬は賢いから絶対に無いとは思うが、最悪、暴れ馬になって走り去る危険が有る。
「穴を掘る余裕も無さそうだな。なら、もっと手軽な方法が有るぞ」
「何?」
「先程預かった荷物を使おう。あれの蓋を衝立代わりにすれば、その辺りでも出来るんじゃないのか?」
いつもなら草むらや木が有るので、その影で用を足している。
だから、身を隠せれば恥ずかしさは無い。
本当は有るけど、そこに拘っていたら旅は出来ない。
「開けても大丈夫なの?」
段々と早口になって行くコノハ。
タイムリミットが迫っている様だ。
「迷っている時間は無い」
クラマも立ち上がり、軍馬からつづらを下した。
そして手早く十字に縛ってある紐を解き、蓋を開ける。
毛布が隙間無く詰まっている。
「ほれ、行って来い。蓋が倒れない様にする重しの水筒も持ってな」
「うん、ありがとっ!」
クラマが差し出した蓋と水筒を奪う様に受け取ったコノハは、全力疾走で離れて行った。
その様子から視線を逸らしたクラマは、腰に手を当てて仁王立ちになる。
「自分から出て来るまでは放って置きたかったんだが、緊急事態だったんでな。このまま知らない振りをしても良いが、どうする?」
「おい、クラマ。お前何言って……」
何の脈絡も無く独り言を呟き出したクラマに苦笑いを向けるカラス。
しかし次の瞬間、その苦笑いが消える。
箱に詰まっていた毛布が盛り上がり、その中から髪の長い少女の頭が出て来たからだ。
「バレているのなら、こんな苦しい所に隠れている必要はありませんわね」
「最初にこの箱を持った時にまさかとは思ったんだが、警察が追い掛けて来たから確信したよ。コノハと同じくらいの女の子が入ってるってな」
「男だけの旅人なら身の危険が有りますが、女の子を連れている人達なら見付かっても大丈夫かなって思いまして。よいしょっと」
箱から出て来る少女。
そこそこ身形が良いので、平民ではなさそうだ。
「人攫いとかじゃなく、自分から箱に入っている様だが、その訳は後で聞こう。この場に居ないコノハも聞きたいだろうからな。二度手間は避けよう」
「分かりました。絶対に見付からない自信が有った訳ではないので、話す準備はしてあります。護身も、この通り」
花の模様が雅な着物の懐から短刀を取り出し、クラマに見せる少女。
それを全く意に介せずに質問するカラス。
「コノハで気になったんだけど、君、トイレはどうするつもりだったの?隣村へは一晩掛かるって知ってる筈だよね?」
「昨日、貴方達を見掛けてこの作戦を思い付いた時から絶食しています。でも水無しは命に関わるので、オシメをしています」
短刀を懐に戻してから下っ腹を叩く少女。
布団を叩く様な音がしたから、赤子が腰に巻いている様な吸水性の良い布を分厚く巻いている様だ。
「なるほど。今度、ここみたいな草原を行く時は、コノハにそれを着けさせよう」
「何?私がどうしたって?またカラスが陰口してるの?って、誰よその子は!」
爽やかな笑顔で戻って来たコノハは、何食わぬ顔で輪に混ざっている少女を見て驚いた。




