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気が付くと薄暗い部屋に寝かされていた。
鈍い頭痛。
小さく呷いて顔を顰める命世。
「気分はどう?」
声を掛けられ、反射的にそちらに顔を向ける。
持ち運びし易そうな小さい椅子に腰掛けている白衣の女性が命世を見詰めていた。
「ちょっと失礼」
脈を見たり熱を計ったりと、馴れた手付きで命世を撫で回す白衣の女性。
医者なんだろうか。
見てて痛いくらいに髪を引っ詰めにしている。
「吐き気は無い?」
「う、うん。ちょっと、頭が痛いだけ」
じっと命世の瞳を見詰める女性。
それも診察なのか、納得した様に小さく頷く。
「当て身で気絶させられたからね。ま、大丈夫でしょう」
命世が寝ている布団から離れ、カーテンを開ける医者。
眩しい光が部屋に満ちる。
薄暗かったのと寝起きだったせいで夜明けかと思ったが、まだ昼間の様だ。
なので身体を起こす命世。
診察し易い様にか、テーブルみたいな台の上に布団が敷いてある。
空中に寝かされているみたいで怖いから降りると、冷たい石の床が裸足に沁みた。
「そこにスリッパが有るから履いて。君は丸一日寝てたんだよ。お腹空いてない?」
「丸一日?どう言う事?」
「君がここから逃げようとしたのは昨日って事だよ」
窓の外を顎で指し示す医者。
スリッパを履き、ペタペタと音を立てながら窓の前に立つ命世。
青い空に白い雲。
下の方には、霧に遮られて底が見えない崖。
その崖の縁に立てられている塀。
塀からこちら側に伸びる大きい橋、中くらいの橋、細い橋も下の方に見える。
「ここは、まだ中央、か…」
肩を落としながら呟く命世。
『まだ昼間』ではなく、『翌日の昼間』だったって事か。
昨日から一転、今度はかなり上の方に居る様だ。
塀の向こうに広がっている緑の平原が恋しい。
兄さん…。
「そ。白虎棟、上の診察室って部屋よ。今ご飯持って来るから、ちょっと待っててね。着替えはそこに有るから」
医者が指差す方を見ると、布団の脇に置いて有る小さなタンスの上に黒い色の服が畳まれてあった。
その服の上に兄から貰った髪留めが乗っている。
流れで自分の身体を見下ろすと、ゆったりとした白い着物を着ていた。
オレンジじゃないし、丈が長い。
寝起きなので着崩れして右肩と右脚が出ている。
ズボンも履いていない。
「私の服は?」
「泥汚れが酷かったから、洗濯中。ここは男の人も来るから着替えておいた方が良いよ」
「…うん」
頷いた少女を一人残して部屋を出て行く医者。
一応、逃げない様に外側から鍵を掛けて行った様だ。
着物の乱れを直し、再び窓の外を見る命世。
頭の中に霞みが掛かった様に意識が朦朧としている。
馴れない野宿。
橋から突き落とされ、緊張の脱出。
その疲労が積み重さなった上、丸一日も寝てしまったせいだ。
帰りたい。
兄さんに会いたい。
体調が優れないせいか、思わず泣きそうになった。
しかしそこはぐっと堪える負けず嫌いの命世。
気持ちを引き締める為に自分の頬を叩く。
いつ何が起きても良い様に、用意されていた黒い服に着替えよう。
そして医者の人が用意してくれると言う食事を待とう。
まだ逃げるチャンスは有る筈だ。
絶対に。




