《500文字小説》埋もれていた真実
「君は、僕の初恋の人にそっくりだよ」
一緒に暮らす、一回り年上の彼は、よくそう言った。
私としても彼は、どこか懐かしさを感じる人であり、安心して甘えられる存在だ。というのも私が幼い頃、母が突然、家を出てしまった。それ以来再婚もせず、ずっと母が戻ってくると信じていた父を心のどこかで軽蔑しながらも、私がずっと主婦の役を務めてきた。だから単純に甘えられる存在が嬉しかった。
母の記憶は殆ど無い。けれど忘れない記憶がある。幼稚園からの帰り、手を繋いで歩いていた母の手に不意に力が籠もった。見ると電柱の影に、左頬に大きな黒子のある男子学生が立っていたのだ。
「ここで待ってて」
母は彼に近づくと、何か強い言葉を投げて戻ってきた。子供心に、その時の学生の、暗い表情でこちらを凝視している様が怖かった。
それから数日後、母は姿を消した。
その日、掃除がてらに本棚の整理をしていると、奥の方に彼の卒業アルバムが挟まっていた。彼は昔の事を話さないので、好奇心から開いてみると。そこに写っていたのは、左頬に大きな黒子のある彼の写真。
その時わかった。私が懐かしさを感じた理由が。そして母親が消えた理由も。
不意に、背後で人の気配がした。