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だそくのもふ。


 ここへ落ちてきた当初。

 起こったことは仕方がない、そう思って明るく振る舞いながらも、この世界で、ひとりぼっちの存在であることを、とても不安に感じていた。




「あっ、よめさまだ~」

「よめさま~~」

「よ~め~さ~ま~!」


 コロコロした丸い生き物たちが、こちらへ手を振ってきた。

 彼らを眺めていると、自然ゆるんでしまう唇に笑みを浮かべて、私は手を振り返す。と、更に手をバタバタさせた子の手が隣の子にぶつかり、よろけた子がまた隣の子にぶつかり――ケンカのようなじゃれあいが始まってしまう。

 もたもたごろりと白黒丸いイキモノが団子になって戯れる光景に、私は回廊の柱をベシベシ叩いて悶えた。

 かわゆい。可愛すぎる……!


 ――しかし。

 いくらどんくさ可愛げな見かけでも、コレらは意外と油断ならないイキモノなのだ――。


 めきっ、

 めりっ!

 ぺキ、メシッ、ミシッ。

 めりり、めりっ。


 固いものが背後で折られる音に、私は笑顔をひきつらせてすぐ脇に視線をやる。

 そこでは、庭の子どもたちより数倍はデカイ二匹の大熊猫が、竹をまるでサキイカのように裂いて千切り取り、咀嚼していた。器用に物を掴むその手と、実は鋭い牙を使って。

 いや、デカくてもパンダ、もったりパンダ、だらしなくさらけだしたお腹に葉っぱ散らしちゃって、和むお食事風景なのですよ。こんな至近距離で見るのでなければ……!

 道具を使わなければへし折るのも辛そうな竹の節を、あぐっと噛んでベリベリと剥く。

 また、細い枝茎はグリッシーニのようにポリポリとかじられ、あっという間にその口の中に消えていく。

 恐いもの見たさというか、つい目が離せなくなって、じぃぃ、と成獣(おとな)二人の食事風景を注視していると、「セナ?」こくりと兄が首を傾げた。

 ちょ……! 兄のくせに可愛いとはどういうこと!?


「欲しいのか~?」


 持っていた竹の葉を軽く振りつつ、弟が訊いてくる。


「要らんわ」


 ケンもホロロに拒否すると、こころなしかションボリした様子で、葉っぱをかじりながらこちらを上目遣いでチラ、チラッと見てきて。

 ――なんだそれは狙ってるのか狙ってるんだな!? 弟のくせにいぃぃ!!


 中身が変態俺様双子だとわかっているのに、それぞれの仕草にやられてしまった私はまたもや柱をバシバシ。

 そんな私に、獣形になると何故かいつもぴったりべったりひっついているブラコン双子パンダは、そろって同じ方向に首を傾げた。


 モ エ 殺 す 気 か 。


 大も小もまとめてパンダに弱い自覚がある私は、誘惑に負けて抱きついたりしないように、拳に力を入れ直す。

 くそう、もふもふしたい……!

 だがしかし、私だって学習しているのだ! この二人にウッカリもふもふすれば、直後、全年齢エリアでは言えない目に遭っちゃうなんてこと。

 有り余りまくったリビドーはあとでちびちゃんたちに癒してもらおう……。

 本能のままに行動しないように、柱に懐いて堪えていると、本能に逆らわない代表兄弟が、両側から私の顔を覗き込んできて。

 そのつぶらな瞳に一瞬怯んだ。 


「セナ」

「セ~ナ」


 抱きつくならこっちでしょう? 柱にしがみついた腕を解かれ、右から左から逆もふされてしまう。逃げる間もない。

 せっかく堪えていたのに、こうしてもこふわ毛皮にサンドされてしまうと――――もうダメだ。

 どうせ押しに弱いよ!


「ううううう……もふもふーーー!!」


 あっさり陥落してしまった私は開き直って、胸だかお腹だかハッキリしない部位に頭突きする。笑い声を上げる二匹に、渾身の力で抱きついた。

 ぎゅうぎゅうぎゅう。できれば私の精神安定のためにずっとぱんだでいてくれ、ぱんだで!!

 そんな願いも空しく、二人は私の腰に背中に腕を回し、ガッカリな人形(じんけい)に……。

 と、そのとき。


「わ~い~」

「なかよし、する~」

「もふ? もふ、よめさま~?」

「おささまたかいたかいして~」

「ゴロンゴロンして~」

「ぼくも~」


 みゃあみゃあと騒ぎながら、子パンダたちが駆けてきて、ぶつかるように抱きついてきた。遊んでいるとでも思ったのか。

 ふいうちによろめいた私を支えようとした双子に、更なる子パンダの足元攻撃。

 当然、バランスを崩した私たちはその場に倒れこむ。


「ぎゃっ」「きゃあ~」「重ッ」


 続けて、重なって倒れた私たちの上によじ登り乗っかってくるちびたちに、もみくちゃにされて。

 こら、と怒るつもりだった私は、やわらかくあたたかいイキモノに包まれている感触に、どうしてか幸せな気分になって笑い出してしまった。手の届く範囲の子たち全部を抱きしめる。


「よめさま、ぎゅう~」

「ぼくもぎゅうして~」


 きゃっきゃとねだられるまま、片っ端からもふもふしてやった。

 一番下になっていた双子は、下敷きになったまま人形に変わり、眉を下げて顔を見合わせ――仕方ないなとでも言うように笑んで、子パンダを抱えたままの私を肩に担ぎ上げた。

 どんな力持ちよ、と突っ込む隙もなく立ち上がって。

 高くなった視界にきゃああ、とちびたちが喜びの悲鳴を響かせた。



 いつか落ちてきた空を仰ぐ。

 私の世界への帰り道は見えないけれど。

 賑やかな日常が私をほうっておかないから、ひとりぼっちだなんて、もう思わない――。





終。




とりあえずここで完結を押しておきます。

ネタが浮かべばこっそり足すかも~。

お付き合いありがとうございました!

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