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だそくのいち


※逃亡瀬名捕獲、お家に帰った直後。



「まったく……あまり心配させないで下さいね」

「捻挫ですんで良かったな」


 身動きしないようにケイが私を背後から抱き抱え、テイが足の手当てをする。ひんやりするペースト状の薬を腫れた部分に塗られて、油紙のようなもので包まれ、最後に包帯を巻かれて。

 そもそも私が怪我をするはめになったのは、とか、逃げたくなったのは誰のせいだ、とか物申したい気分ではあったんだけど。

 屋敷に戻ったとたん、湯殿に連れ込まれて、逃亡中の汗やら泥やらかすり傷を清められて、余計なことまでされた私はぐったりしていたのです。

 (いたわ)るのか(さいな)むのかどっちかにして頂きたい。だんだんこいつらの行動パターンに慣れてきた自分が嫌だ。


「だいたい、この山を降りてどちらへ行くつもりだったんです? 人里など有ろうはずがないというのに」

「嫁が俺たちのいるところに落ちたっていうのも稀有なことだったのにさぁ」


 真面目な顔で諭してくる双子を私は白々しい思いで眺めた。

 ええ、こっちが何もわからないと思って、都合のよいことを並べ立てて下さいましたよね。

 大熊猫以外に住獣(じゅうにん)はいないとか、落人はこちらの代表者の嫁になるとか、いろいろと……!


「開けた場所に行けば、私が探さなくても見つけて貰えるんじゃないの? そこら辺飛んでる鳥族とか走ってる馬族とかに。たまに竜族もいらっしゃるそうじゃない? それぞれに保護されてるお仲間が、就職先は口聞いてくれるだろうし」


 ぴたり、と双子が動きを止めた。私を間にアイコンタクトを交わす。


―お前、まさか情報を洩らしたのではなかろうな?

―言うわけないじゃん! そこんとこの意見は兄者と一緒なんだし!

―では何故、セナが事情を、

―兄者こそ、うっかり独り言とか言ったんじゃないの?

―お前ではあるまいし……


 醜い兄弟ゲンカが始まる前に、私はネタをバラした。


「……“よめさま、どこからきたの~?”“とりさんのとこの、おちゅーどさん、しってる~?”“うささんは~?”“あにきは~?”“うまさんとこもいるって~”“ほかにもね~、”……他にもいるそうじゃない、私の世界から来た人たちが。っていうか、あんたたちが引きこもりなだけで他国とやり取りしてるんじゃないの!」


 爆発した私は背後の兄に頭突きをかまし、弟に動く方の足裏を叩きつけた。


「情報源はちび共か……」

「しまった、外界教育が行き届きすぎたか……」

「この嘘つきどもーーー!!」


 手近にあったクッションを掴んでぶん投げる。

 見知らぬ世界で居場所もなく、帰る方法もわからず途方にくれて怯えていた私。

 それを二人とも慰めてくれて、優しくしてくれて、『え、二人のお嫁さんってちょっとヤバくない? でも大事にするって言うしー、帰れないしー、何処にも行くところないしー、ちび可愛いしー、仕方ないかなー』とか既にほだされかけていた自分を殴りたい。

 代わりにパンダ野郎共を殴った。たいしてダメージ受けてないのがまた腹立たしい。


「嫁、落ち着け」

「嫁言うな!」

「しぃっ、セナ、ちいさきものたちが起きてしまいますよ」

「アンタ、ちびちゃんたち持ち出したら私が黙ると思って――」


 声ひそめちゃったけど。


「……詳しく説明しなかったのは謝ります」

「でも、俺もケイも嫁……セナに何処にも行ってほしくなかったんだよ」


 両側から、手を握られる。なによなによ、そんな殊勝そうな顔しても騙されないんだからっ。


「……勝手に嫁とか決めるしっ」

「だって一目惚れだったんだもん」

「心細げに、この腕の中で震えていらした貴女を、我々が守って差し上げたかったんです」


 ……そんなこと言って、この辺りに独り身の女が居なかったから、都合が良かっただけのくせに。

 私の反応がおもしろいから、手離さないだけのくせに。


「どうすれば我々の想いを信じて頂けますか」

「ホントに、お前のこと大事にするし、一生苦労させないから」


 何処にも行かないで――

 大の男が二人して、情けない顔ですがりつくような視線を向けてくる。なんだか自分がものすごい悪女になったような気分だ。

 しかし、こちらに来て双子パンダに振り回され続けた私は知っている。

 これが奴らの作戦だと……!

 ちょっと好みの外見だからって、人がホイホイ言うこと聞くと思ったら大間違いなんだから!


「セナ」

「セナぁ」


 お、大間違いなんだからーっ!


「ぱんだ! パンダにおなり!」


 美形二匹ににじり寄られ、追いつめられた私はビシリと指を突きつけた。不思議そうにしながらも、獣形に戻る兄弟。


「セナ?」

「これでいいの?」


 ででんと丸い身体、のんびりした雰囲気のパンダが、きょとんと首を傾げてこちらを窺う。相変わらずギャップすごいな。

 動悸息切れめまいなものがなくなったところで、私は体当たりして双子を倒した。ゴロン、と素直に転がったケイとテイの間に挟まって寝そべる。


「アンタたちは今日布団の刑! いらんことしたり動いたら天日干す!」

「意味がわかりません、セナ」

「生殺し刑……?」


 ぶつぶつ言っている二人を無視して、私はぬくぬくふかふかに包まれて目を閉じた。

 この安心感を手離すことが出来ないのは、私の方だと気付きつつ――これからも、知らんぷりを貫くのだ。




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