薄暮のメモリアルパフェ、漣(さざなみ)の還る場所
*未来編『○○年後』の話*
最終回:遙かなる未来・大団円
世界樹の天頂に、数千年ぶりに「エラー」のない、純粋なる光を宿した『通常の後継者の実』が実った秋のこと。
次代の息吹に包まれるエデンの玉座の間で、アルヴィスとレンは、長きにわたる統治の終わりを静かに感じていた。
二人の肉体年齢はさらに重なり、目元や手のひらには美しい刻の皺が刻まれ、白銀の髪には大人の渋いシルバーの光沢が完璧に融和している。
だが、衣服の下のシックスパックと、不敵な腹黒い頭脳だけは、今なお一ミリの衰えすら見せていなかった。
「――はい、お立ち台。俺たちの数千年の彷徨の、本当の最終章の報酬。特大『薄暮のメモリアルパフェ』だ!」
レンが机の上にドンッ!! とクリエイトしたのは、ガラスの巨鉢に盛り付けられた、文字通り限界突破の特大パフェだった。
三年前のボロ酒場の『プリン』、平原の『ドーナツ』、渓谷の『ギモーヴ』、隣町の『いちごタルト』、宮廷をテロに陥れた『タピオカ』、そしてお袋の味『フレンチトースト』まで。
これまでの旅路を彩った全ての甘味が、美しい地層のように完璧な芸術となって盛り付けられている。
「……見事な手際です、レン。これだけの思い出を一器にハッキングするとは、万死を免ずるに値する。――あ、それと、」
アルヴィスは金と黒のオッドアイを鋭く光らせ、パフェの『真の特等席』に置かれた、ホカホカのナンと『激辛スープカレー』の器を指差した。
「カレーをパフェの生クリームに混ぜなかったことだけは、王として、貴方の数千年の計算の中で最も称賛に値する正解ですよ、てめえレン」
「あはは! 混ぜるわけないじゃん! お袋のレシピに『カレーとクリームの融和はシステムクラッシュを起こす』って赤字で書いてあったわ!」
レンは笑いながら珈琲を啜り、アルヴィスは誰よりも優雅な姿勢でスプーンを掴むと、タルトとプリンを同時にすくって口へと運んだ。
とろり、サクッ、じゅわっ。
口内に広がる、数千年の孤独をすべて温かさに引っ繰り返してくれた、世界で一番甘くて騒がしい思い出の味。
「――っ、美味すぎる……!!」
アルヴィスの目元が、渋い大人の皺を優しく緩ませ、涙目になりながらも最高に幸せそうにふにゃりと綻んだ。
すかさず別皿の激辛カレーを口にし、「ハ、ハァーッ!! 辛い、だが美味い……です……」と、相変わらずスパイスにマナを侵食されている。
「お前が残した次の『通常の実』が数年後に割れたらさ、俺たちの長い王の役目も本当にクリアだね、アルヴ」
レンは壁の刀を見つめ、いつものニヤニヤとした笑みの裏に、底抜けた愛を灯して相棒を見つめた。
「ええ。後継者が立てば、俺たちはただの『不屈のバディ』に戻る。……そうしたらレン、今度はてめえの親父とお袋がいる異世界へ、俺が『美味いもの買い出しの旅』に連れて行ってあげますよ」
「へえ、王様直々の異世界ハッキング旅行? いいじゃん、最高だわ」
「その老いた姿で、レンの親父さんが向こう側に定着しているなら、数日だけでも行けるようになっているだろう?」
「ああ、数千年前に、親父とお袋から遊びに来いとメッセージが届いたよ。お前となら、楽しい旅になりそうだ」
窓の外を見上げれば、世界樹の梢の向こうに、本来の美しい漆黒の夜空と、満天の星々が静かに二人を祝福するように瞬いていた。
孤独な薄暮に震えていた精霊の王子と、数千年の静寂にひねくれていた神の仔。
二人の直進だらけの世界に響き渡った小さな『漣』は、すべての歪みを最高のハッピーエンドへと書き換え、今、これ以上ないほど温かく、輝かしい大団円の波紋となって、未来永劫へと広がっていくのだった。
「数千年の退屈しのぎ、異世界に行っても絶対終わらせないからな、アルヴ」
「当たり前だ、レン。俺のこの不屈の胃袋が朽ち果てるまで、どこまでも付き合ってもらうぞ、俺の無二の友よ」
二人は珈琲カップをパチンと掲げて不敵に笑い合い、最高に甘いパフェの山へと、同時にスプーンを突き進めていくのだった。
これにて終了です。
本編に続き、最後までご覧頂けたこと、二人に代わりお礼申し上げます。
なお、現在のアルヴィスとレンは、時系列で言う『今現在』です。
この地球のどこかで二人とすれ違ったら、生温かい目で見守ってください☻
ありがとうございました(._.)




