第二十葉:無垢なる偽装、真後ろの『薄暮』
黄金の平原の下に隠された、冷たい石造りの地下空洞。
そこには、大地の地脈から強引にマナを吸い上げる巨大な中継器と、それを監視する教団『エクリプス・アルビオン』の魔導師たちが数人、張り詰めた面持ちで計器を睨みつけていた。
「どうだ、地表の『苗床感知具』に反応はあったか?」
「いえ、未だ何も。ですが、霊峰の聖域を壊滅させたあの精霊のことです、必ずこの平原の罠を踏むはず……」
彼らは完璧な布陣で、アルヴィスが罠にかかる瞬間を待ち構えていた。
――その彼らの、すぐ真後ろの暗がりに、二つの人影が音もなく立っていることなど、露ほども知らずに。
「ねえ、お前ら何待ち? もしかして、俺たちのこと?」
静まり返った地下室に、ひどく場違いな、飄々とした軽い声が響いた。
「ひぃっ!? だっ、誰だ……っ!?」
教団の魔導師たちが悲鳴を上げて一斉に振り返る。
そこには、刀の柄に手を置いたまま、ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべた黒髪の青年――レンが立っていた。
レンの指先からは、アルヴィスの『薄暮のマナ』を完全に包み込み、ただの人族の気配へとシステムを偽装した、淡い神の光が揺らめいている。
「な、ぜだ……! 地上の防衛結界が、一切作動していないぞ……!?」
魔導師たちがパニックに陥る中、レンの隣から、もう一つの影がゆっくりと進み出た。
深く被っていたフードを払い、白銀の甲冑の右半分から、全てを呑み込むような漆黒の闇のマナを静かに立ち昇らせる。金と黒の双眸が、暗闇の中でらんらんと冷酷に輝いた。
「作動するはずがありませんよ。お前たちの作戦盤は、少々見通しが甘すぎる」
完璧で凍りつくほど美しい微笑み。
アルヴィスは愛用の精霊槍を一閃させ、中継器を操作していた魔導師たちの喉元へ、無詠唱で顕現させた『闇の刃』を突きつけた。
「ひ、あ……『薄暮の苗床』……! アルヴィス・アルカディア……っ!!」
「苗床、と呼ぶなと言っている。――それと」
アルヴィスは突き出した槍の穂先をぴたりと固定したまま、瞳の奥に容赦のない冷徹な光を灯した。
口から漏れ出たのは、飾らないアルヴィスの苛烈な本音だ。
「待ち伏せをしておいて、背後を取られたくらいでそんなに驚くなよ。興が削がれる」
「あはは! 最高! 本当にお前、笑顔でエグいこと言うよねえ!」
レンが嬉しそうに叫んだ瞬間、教団の魔導師たちが必死に迎撃の呪文を紡ごうとした。
だが、アルヴィスの前で詠唱を始めること自体が、すでに致命的な悪手なのだ。
アルヴィスがただ一瞥しただけで、魔導師たちの手元の魔導書や床の法陣が、無詠唱の『光の鎖』によって瞬時に物理的に縛り上げられ、爆砕した。
「がはっ……っ!?」
呪文を強制遮断され、吐血して崩れ落ちる魔導師たち。
驚愕に目を見開いた彼らの視線の先で、アルヴィスは冷徹な策士としての不敵な笑みを浮かべ、巨大な中継器へとゆっくりと歩みを進めた。




