銀色の鈴の音
「音」要素が薄いです。
***
「ねえ、旧校舎のうわさ聞いた?」
「聞いたわ。夜になると鈴みたいな音がするんだって?」
「そうそう。何でも、いじめを受けて自殺した女子生徒が怨霊になって、自分をいじめた人と、助けてくれなかったこの学校に復讐しようと、毎晩人を攫おうとしてるらしいわよ。」
「へえー、じゃあなんで鈴の音?」
「それがね、その子が一番大切にしていたものが、彼氏からもらった銀色の鈴だからなんだってー!でも、彼氏がいることで目をつけられたから女子軍団にいじめられて、、それから、、」
「ええー、やだ、怖いわー!」
きゃあきゃあと騒ぐ女子を横目に私はため息をついた。
ここ二日ほど、学校はその話題で持ち切りだ。どの教室に行ってもこの話題で、一日もせず私は飽きてしまった。
元々幽霊の類なんて全く信じていないし、こういう話題が出るたび、心底馬鹿馬鹿しいと思っている。
──────それでも、何故かこの話は私の興味を引いた。
もっと言えば、夜の旧校舎に足を運んで、その怨霊とやらを見てみたくなった。
***
───深夜三時頃
世間では丑三つ時と呼ばれるこの時間帯に、私は旧校舎に侵入した。
さすがに暗かったため、家から持ってきた懐中電灯で当たりを見回すも、昼間の時と何ら変わった様子もなく、銀色の鈴の音、というか鈴の音自体も全く聞こえなかった。
「なんだ、ただの噂じゃん。つまんな」
そう独り言を呟いて、さっさと帰ろうとしたその時だった。
──────シャラン、シャラン
鈴のようなその音色が唐突に響き渡ったのは。
***
急に聞こえた音に私は驚いて、思わず後ろを振り返った。
しかし、当然ながら人はいない。
気のせいかと思って、今度こそ出口に向かって歩き出した。
すると、また鈴の音が聞こえた。どうやら聞き間違いなどではなかったらしい。
流石に気になったため、少し引き返してみると、とある教室から強い光が漏れていた。
まるで星が地上にそのまま降りてきたのかというほど、強くまぶしい銀色の光だった。
私はそれに妙に惹かれて、教室へと歩を進めた。
中へ入ってみると、急に光は消えてしまった。でも、今度はもう気のせいだとは全く思えなかった。私は、憑りつかれたようにその光を探した。
教卓も、机も、ロッカーも、掃除用具入れも、、、
それでも、あの光は見つからなかった。
途方に暮れたその時、背後で女の声がした。
「あら、どちら様?」
驚いて後ろを振り向くと、そこには私と同い年くらいの女の子が椅子に座ってこちらを不思議そうに見ていた。女の子は、私の制服とは少し違うデザインの服や靴を身にまとっていて、いくら私が幽霊の類を信じないにしても、これは無理があった。
この子だ。間違いない。
そう気づいたとたん、全身が震えだした。震えの原因は、恐怖か、興味か、はたまた…。いや、本当は、本能で、魂で、心のどこかで、わかっていた。彼女と会うと、ダメなのだと。
私の様子がおかしいのに気付いた彼女は、心配そうな表情でこちらに駆け寄ってきた。
「どうしたのあなた、大丈夫?顔色が悪いわ……。そうだ!ちょっと待ってね」
彼女はそう言って、どこからか出てきた鞄から何かを取り出そうとした。
ああ、そうだ。彼女はいつもそうやって、誰かが困っているのを助けようとしていた。
…………?
いつも?
ふと、彼女の鞄についているいくつかのキーホルダーに隠れるように、ひっそりと、しかし目を引くような、美しい銀色の鈴がついているのを見て、私の思考は止まった。
何かが脳に流れ込んでくる──────。
「光…………?なんで…」
その私のつぶやきを聞いた彼女───星野 光は、目を瞠ってこちらを振り返った。
「あなた………やっぱり、やっぱりそうなのね…!!」
感極まった様子でそう叫んだ光は、こちらに駆け寄って、そのまま抱き着いてきた。
私はどうすることもできず、ただ固まっていた。でも、なぜか涙は流れた。理由はわからないけど、ただ悲しかった。
「ごめん、光………、本当にごめん…!」
そういって謝る私に、光は涙を流しながら、慈母のような笑みを浮かべてふるふると首を横に振った。
「ううん、違うわ。あなたが謝ることじゃないの。悪いのは、抗えなかった私なのよ………」
そう言った彼女の目はどこか悲しそうで、見ていられない痛々しさがあった。
俺は彼女の体をきつく抱きしめて、その顔を何者からも守るようにふさいだ。
「いいんだ、我慢しなくて。君は悪くない、悪くないよ……」
そう彼女に優しく告げた途端、彼女の濡れ羽色の瞳が、大きく揺れ、再び真珠のような涙を流しだした。
「ねえ光。君とずっと一緒にいたいんだ。もう離れたくない。だから…」
その先をうまく言えずに口ごもる。彼女への後ろめたい心を表すかのように、銀色の鈴はシャンと、くぐもった音色を鳴らした。
「…っ遅い、遅いわよっ、バカ!私がどれだけあなたのことを探して、待ったと思ってるの?!そんなの、こっちからお願いしたいくらいよ!」
珍しく感情をあらわにした光は、怒っているはずなのにどこか泣きそうな表情をしていた。彼女の仕草や行動、言葉など、どれもが懐かしくて、愛おしくて、忘れたかった青春のままで時間が止まっていた。
「光、俺を…俺を君のそばにおいてください。それだけで十分だ」
「…当たり前じゃない。もう離してやらないんだからね」
銀色の鈴がリインと鳴る。その音は、幸を彩る結婚式場の、鐘の音のようだった。
銀色の鈴がリインと鳴る。それは、これからずっと共にある二人を祝福しているようだった。
銀色の鈴がリインと鳴る。それはきっと幸福の音だった。
───ああ、これでやっと、私のもの。
補足
主人公(黒田愛華)→光の元カレ、黒野進士と同じ魂。光をいじめから守るために別れたが、結果的に傷つけたことを悔いて転生。
光→ほとんど冒頭の噂の通り。本当にずっと探し回っていた。
銀色の鈴→光の誕生日に、進士が贈ったプレゼントの一つ。光は自分にとっての希望だということで贈ったらしい。どこか不穏。




