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第四の魔女:消えた痕跡  作者: Test No. 55
第3卷上 - 逃亡編
98/105

10.死神が降り立つかのように

挿絵(By みてみん)

 如死神降臨


 しばらくすると、マルコムは部下から報告を受けた。トムリン一家が東の小さな城門から逃げ出したという。

 マルコムは急いで恐狼に鞭を入れ、報告のあった東の城門へと急いだ。すぐに城門に近づくと、遠くから見ても無数の兵士がそこを水も漏らさぬほどに包囲しているのが見えた。

「この役立たずども、なぜまだここで足止めを食ってるんだ?」

 彼は内心苛立ち、密かに悪態をついた。追撃の命令をわざわざ自分で監督しなければならないのか?

 マルコムは恐狼に乗り、人混みをかき分けて進んだ。兵士たちの無能さを怒鳴りつけようとした瞬間、前列の兵士を越えたその一瞬で足を止めた。

 目の前に広がる光景に、彼は一瞬にして凍りついた。

 城門の狭い通路には、死体が散乱していた。血にまみれた石畳の道には、約五十体の遺体が倒れ伏し、そのほとんどが彼の部下だった。遺体には深い刀傷が刻まれ、襲撃者の驚異的な実力を物語っていた。

 城門の内側では、三つの人影が血の海の中央に立っていた。その最前列にいたのは、半身が鮮血に染まった女だった。彼女の濃い茶色の大衣は、今やほとんど真っ赤に染まり、濡れて体に張り付いていた。

 暗紅色の長髪は血で汚れ、風に乱れて揺れ、血に染まった大衣と相まって、背筋が凍るような光景を作り出していた。彼女の手にした武士刀からは血が滴り、静かにその場に立つ彼女の気配は、まるで悪魔のような威圧感を放っていた。

 その背後には、二人の仲間がやっとのことで立っていたが、すでにふらふらで、傷と疲労が彼女たちの体をいつでも押し潰しそうだった。


 マルコムは数歩近づき、血の海の縁で立ち止まった。彼は最前列の女をじっと見つめ、複雑な感情が一瞬目に走った後、冷たく口を開いた。

「無駄な抵抗はやめろ。」

「……」女はゆっくりと顔を上げ、冷ややかな表情に頑なさが滲んでいた。

「会長は敗れた。お前がこんなふうに必死に支える必要はない。」

 女は息を吐き、手にした武士刀を地面に突き刺し、両手を柄に重ね、背筋をまっすぐに伸ばした。彼女の口元に嘲るような冷笑が浮かんだ。

「マルコム、無駄な言葉はよせ。」

 彼女は手を上げ、人差し指をわずかに曲げ、挑発するように軽く動かした。鋭い眼光はナイフのようで、果敢で獰猛な気迫を放ち、まるで若い頃の彼女に戻ったかのようだった。

 マルコムの顔が曇り、もはや何も言わなかった。

「一斉に進め。」

「うおー!」

 十数名の兵士が咆哮を上げ、一斉に突進した。城門口で刀剣の光が交錯し、鋼がぶつかる音が響き合い、苦痛の叫び声が続いた。血が空中で弧を描き、切り落とされた手足が飛び散り、まるで地獄のような狂乱の舞が繰り広げられた。

 最前列の女は、狂った孤狼のようだった。彼女の武士刀は死神の鎌の如く、行く先々で敵を次々と倒していった。一人の兵士が叫びながら倒れ、続けて二人目、三人目と続き、彼女の二人の仲間はついに力尽き、息も絶え絶えに倒れ込んだ。


 しばらくして、女は六人の兵士に囲まれた。彼女はその場に立ち、まったく動揺することなく、むしろゆっくりと武士刀を鞘に収めた。その動作はまるで舞台の演技のように優雅だった。

「死にたいなら、近づいてきなさい。」

 彼女は冷たく一言吐き出した。声は周囲の混乱にかき消されそうなほど小さかったが、聞く者全ての心を震わせた。

 その中の一人の兵士が、彼女の背後から音もなく近づき、奇襲を試みた。彼の足音はほぼ無音で、動きも極めて慎重だったが、一歩踏み出した瞬間――

「抜刀斬!」

 女の姿は電光の如く動き、武士刀が一瞬で鞘から抜かれた。刃が空気を切り裂き、ほとんど聞こえないほどの鋭い音を残した。直後、兵士の腕が容赦なく斬り落とされ、血が泉のように噴き出し、地面を濡らした。

 残った五人が怒号を上げ、一斉に武器を振りかざして彼女に襲いかかった。しかし、彼女は一瞬だけ動きを止め、素早く身をかがめて脇からの長槍の突きをかわした。

 その動きは舞踏家の如く優雅で、身をかがめた勢いで体を横に倒し、奇妙な角度で滑るように動いた。刀の刃が鋭く振り下ろされ、二人の脛を切り裂き、彼らを膝をつかせた。

 女は素早く立ち上がり、残る三人と正面から対峙した。その中の一人が長刀を高く掲げ、勢いよく彼女に斬りかかった。彼女は小さく一歩後退し、刃が鼻先をかすめて空を切った。

 だが、彼女は冷たく笑い、口元に軽蔑の色を浮かべた。刀の光が一閃し、その兵士は音もなく倒れた。刃が残した傷は骨まで見えるほど深かった。

 最後の二人は足がすくみ、目に恐怖が満ちていた。彼らは躊躇し、半歩も近づけなかった。


 女は冷たく彼らを睨み、両手で武士刀を握り、しっかりと足を踏みしめ、簡潔ながら殺気に満ちた構えを取った。

「三歩斬。」

 次の瞬間、彼女の姿が突然消えた。まるで風のように速く、一瞬にして二人をすり抜けた。二人は同時に倒れ、首と胸にそれぞれ骨まで達する深い傷が刻まれていた。彼女の三撃目の刀は完全には振り切られていなかったが、致命的な一撃をすでに完成させていた。

 空気には濃い血の匂いが立ち込め、女はその場に立ち、武士刀を鞘に収めた。彼女の視線は静かで、冬の霜雪のように冷たく凍りついていた。


 遠くに立つマルコムは全てを目撃していたが、その表情には微塵の動揺もなかった。女の驚異的な実力に対し、彼は驚きもせず、意外とも思わず、まるで全てを予見していたかのようだった。彼は手を上げ、掌を空中で一瞬止めた後、ゆっくりと振り下ろした。

 脇にいた副官が彼に代わって命令を発した。

「全員、一斉に進め!」

 全ての兵士が一斉に咆哮し、密集して女を取り囲むように突進した。

 女はまるで燃え尽きかけの蝋燭のようだった。風に揺れ、炎は明滅を繰り返した。彼女は歯を食いしばり、武士刀を手に舞わせた。速度は依然として鋭かったが、力と精度は徐々に衰えていた。

 五人目を斬り倒した時、突然長剣が彼女の太腿を切り裂き、鮮血が泉のように噴き出した。彼女はよろめいたが、必死に踏ん張り、右手で刀の光を振り、六人目を後退させた。

 八人目が倒れた時、鋭い刃が突然彼女の右腕を切りつけ、深い傷口から血が溢れ、袖全体を真っ赤に染めた。彼女の右手はもはや刀の柄を握れず、戦闘の継続で鈍った武士刀はついに力なく地面に滑り落ち、低い金属音を響かせた。


 彼女は喘ぎながら、まるで悪鬼のように右手の血を勢いよく兵士の顔に振りかけた。その兵士は血で視界を遮られ、慌てて後退した。彼女はその隙に腰に隠していた短剣を引き抜き、一閃でその兵の喉を刺し貫き、鮮やかに命を奪うと、すかさず彼の持っていた両手剣を奪った。

 だが、彼女の左手には力が入らず、両手剣を握るのも辛そうで、剣を振る動作は明らかに鈍かった。額から流れ落ちる血が目に入り、視界を赤く染め、周囲の全てがぼやけ始めた。彼女は無意識に右手で血を拭おうとしたが、右腕が動かないことに気づいた。

 その一瞬の隙を突いて――

「ブシュッ!」

 短剣が突然彼女の胸を刺し貫き、鋭い痛みが全身に広がった。

 女は呆然と頭を下げ、胸に突き刺さった剣の刃を見た。剣の柄を握るのは、マルコムのわずかに震える手だった。彼は倒れる彼女を支え、片膝をつき、二人にしか聞こえない声で言った。

「イヴェット……もういい。」

 イヴェットの口元から血が滲み、呼吸が荒々しくなった。それでも彼女は憎しみに満ちた目で彼をじっと睨みつけた。その視線には微塵の揺らぎもなく、まるで目の前の男を引き裂きたいと願っているようだった。

「すまない……」

 マルコムの声は低く、風にかき消されそうだった。

 イヴェットの目が突然大きく見開かれ、怒りに震えるかすれた息を吐きながら、左手で胸の短剣を強くつかみ、力任せに引き抜いた。鮮血が噴き出し、彼女は最後の決然たる怒りを込めて、その剣をマルコムの胸に突き刺そうと抗った。だが――

「カン!」

 短剣は彼の胸当てに当たり、無力な金属音を立てた。彼女の力はすでに尽きており、剣は一ミリも進まなかった。

 イヴェットの口元に軽蔑の笑みが浮かんだ。自分の愚かさと無力さを嘲るようだった。やがて手が緩み、短剣は地面に落ち、左手も力なく垂れ下がった。

 マルコムは彼女をそっと抱き寄せ、頭を下げ、唇を固く結んだ。目に抑えきれない感情が揺れ、彼の手はかすかに震えていた。まるで取り返しのつかない過去に苦しんでいるかのようだった。




 城門から少し離れた荒野で、巨大な恐狼が白い幽霊のように夜の闇を疾走していた。その四肢は力強く地面の枯れ枝や砂土を踏み砕き、まるで暗夜を滑る流星のようだった。

 狼の背には、トムリンが身を低くし、両手で鞍をしっかりと握っていた。背中はわずかに硬直し、恐怖と疲労を抑え込んでいた。その背後では、イリサが彼にしがみつき、小さな体がほとんど彼の背中に埋まるように震えていた。

 風の唸りが響く中、イリサのすすり泣く声がはっきりと聞こえた。

「ママ、大丈夫だよね?」

 トムリンの喉がわずかに動いた。彼は鞍を握っていた左手を離し、イリサが彼の腰を強くつかむ小さな手にそっと重ね、優しく、しかしわずかに震える声で答えた。

「君のママは……私が知る限り最高のハンターだ。大丈夫だよ。」

「本当?」

 トムリンはしばらく黙り、自分自身に答えを探すようにしてから、ようやく低く答えた。

「……本当だ。」

 だが、その口調には自分自身も確信できない微かな迷いが隠れていた。

 イリサは小さな顔を上げ、泣きはらした赤い目で彼を見た。

「じゃあ、私たち今どこに行くの?」

「ばあちゃんの家だ。」トムリンは目を伏せ、かすかな決意を込めて言った。

「モラが連れて行ってくれるよ。」

 トムリンの視線は足元の恐狼に注がれた。その名は「モラ」。イヴェットの長年の戦友であり、今、二人を逃がす唯一の頼りだった。

 秋冬の変わり目、モラの毛は雪白色に変わり、月光の下で霜のような輝きを放っていた。その姿は流麗で、驚異的な速度だった。今、モラは誰も追いつけない白いスポーツカーのように、無人の暗い道を爆走していた。



 空が徐々に明るくなり、薄光が降り注ぐ中、モラの足取りがようやく少し緩んだ。彼女は川辺で立ち止まり、身を伏せて大きく喘ぎ、狼の吻を冷たい川の水に浸し、冷涼な流れをゴクゴクと飲んだ。

 トムリンは片手でイリサを抱き、もう一方の手で地図を広げ、視線を路線図の上で行き来させながら、つぶやいた。

「この道を行く……大通りは避けて……この森に迂回するんだ……」

 ルートを確認すると、彼は地図を丁寧に折りたたみ、胸元の服の中にしまい、モラの方を向いて低い声で言った。

「モラ、頼むよ。」

 モラは頭を上げ、濡れた狼の吻を振って水を払い、低く息を吐いた。まるで応えるかのようだった。

 トムリンはイリサにそっと言った。

「二日以内にはばあちゃんの家に着けるはずだ。」

 イリサは唇を噛み、か細い声で尋ねた。

「ママもばあちゃんの家に行くの?」

 トムリンは無理やり微笑みを浮かべ、彼女の小さな頭を優しく撫でた。

「ママは少し遅れるかもしれないよ。」

 彼の手は優しく、しかし確固として、イリサの不安を和らげようとしていた。

 トムリンがモラを再び走らせようとしたその時、モラが突然動きを止め、耳を立て、低く唸りながら警告の声を上げた。彼女の鋭い視線は前方の林に向けられ、毛が一瞬にして逆立った。まるで大敵を前にしたかのようだった。

「急げ!」

 トムリンの表情が引き締まり、素早くイリサを抱き上げ、モラの背に飛び乗った。

 モラは低く唸り、猛然と振り返ると、全速力で駆け出した。トムリンはイリサをしっかりと抱き、風の音に背を向け、身を低くして彼女を後方からの不安と脅威から守ろうとし



 正午の陽光は本来なら大地を照らすはずだったが、厚い雲層に遮られ、冷たい風が果てしない草原を無情に吹き抜けた。蒼茫とした原野の中央を、一本の大通りが孤独に、荒涼と貫いていた。その大通りの一角で、異様な緊張感が漂っていた。

「包囲しろ!」

「矢に気をつけろ!」

 叫び声と馬蹄の音が耳をつんざくように響き、約三十人の騎兵が巨大な恐狼を追いかけていた。モラの四肢は重々しく地面を叩き、荒々しい喘ぎ声とともに、雪白の毛皮はすでに鮮血に染まっていた。

 通常なら、全速力で走る恐狼を馬が追い抜くことは不可能だったが、今、彼女の脇腹には三本の矢が深く刺さり、血が毛を濡らし、草原に滴り落ちていた。

 トムリンは狼の背にしがみつき、身を低くして、顔には焦燥が満ちていた。彼は振り返り、敵がますます近づいてくるのを見た。さらに悪いことに、大通りの反対側から別の騎兵隊が現れ、進路を完全に塞いでいた。

 トムリンはモラの首を軽く叩き、低い声で言った。

「モラ、まだ走れるか? 左に曲がるぞ!」

 モラは咆哮も応答もせず、わずかに体を傾け、トムリンの指示に従って大通りを外れ、左の広々とした草原へと突進した。

 彼女の足取りは重く、それでもなお前に進み続けた。しかし、一分も経たないうちに、草原の様子が不気味に変わった。足元の土が微かに光り始め、モラの目が大きく見開かれたが、反応する間もなく、地面全体が一瞬にして氷の層に変わった。

「バキッ!」

 モラの四肢はまるでしっかりとつかまれたかのように動かなくなり、背中のトムリンとイリサを乗せたまま、氷の上に激しく転倒した。

 倒れた瞬間、トムリンは全身がバラバラになったような痛みに襲われたが、自分のことは顧みず、すぐに身を起こしてイリサの様子を確認した。

「イリサ! 大丈夫か?」

 彼は手を伸ばして小さな少女を起こし、青ざめた彼女の顔を焦って見た。イリサは小さく咽び、頷いたが、目は恐怖でいっぱいだった。しかし、彼らの荒い息が落ち着く間もなく、危機が迫っていた。

 周囲で馬蹄の音が轟々と響き、さっきの騎兵たちが合流し、彼らを完全に包囲していた。


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