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第四の魔女:消えた痕跡  作者: Test No. 55
第3卷上 - 逃亡編
96/105

8.1 正面対決(2)

挿絵(By みてみん)


「ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ――」

 濃い黒煙が鼻腔に侵入し、肺が焼けるように痛んだ。私はキッチンの隅に身を縮め、木製のキャビネットを盾にして隠れていた。さっきの衝撃か、部屋中に立ち込める黒煙のせいか、喉がかゆくなり、つい咳き込んでしまった。

「!」

 危険を察知した鋭い感覚が背筋を突き刺し、私は本能的に跳び出した。次の瞬間、隠れていたキャビネットが炎に飲み込まれ、焦げた破片となって飛び散った。

 息を整える間、私は手に握った唯一の武器――平凡な菜刀を強く握りしめた。磨かれた刃が揺れる炎の光を映していた。

 アリーの声が濃煙の中から響き、狂気的な愉悦を帯びていた。

「どうしたの、ラファエル君? 出てきて私と向き合ったら? 私を殺さないとここから出られないよ。」

 彼女は杖を掲げ、周囲の空気が再び無数の火の玉に点火され、燃える星のように彼女の周りを回転した。彼女の笑い声は傲慢さと決意に満ちていた。

「君の心に刻まれるなら、君の手で死んでも構わないよ。」

 炎がミサイルのように私のいた場所を再び攻撃した。私はキッチンのドアを押し開け、リビングに逃げ込んだ。キッチンの清潔さとは対照的に、ここは埃だらけで、テーブルも椅子もボロボロで、何年も放置された空間のようだった。

 アリーの声がすぐに爆裂したドアの向こうから響き、狂った歌のように聞こえた。

「ラファエル君、どこに隠れるつもり? 炎の熱と濃煙で、すぐに息ができなくなるよ。」

 彼女の言う通りだった。灼熱の空気が喉を切り裂くように焼き、濃煙は呼吸のたびに苦痛を増した。さらに悪いことに、ドライブストーンを使っている私は大量の体力と酸素を消耗し、長く戦うことはできなかった。


「よし、短期決戦だ。」

 私は心の中で決意し、傷口から流れ出る血を指で左腕に書き込んだ。全身が弱っているなら、身体を限界まで追い込むしかない。

「Overclock!」

 負荷の紋様が呪いのように全身に広がり、まるで黒い蛇が四肢を締め付けるようだった。肌のあらゆる部分が焼けるように熱く、血液が体内で沸騰し、熱い空気の中で蒸気となって立ち上った。しかし、力が湧き上がり、両足に再び支えが戻った。

 その瞬間、炎でできた虎の影が近くのソファを飲み込んだ。熱波が襲い、私は「Power up」に切り替え、脇のティーテーブルを足で蹴り飛ばし、アリーの方向へ向けた。

 アリーは軽く手を振るだけで、ティーテーブルは瞬時に炎に包まれ、木っ端微塵に砕けた。煙が私の姿を隠し、一瞬の隙を作ってくれた。

 私は壁を支えにし、足を雷のように壁面に滑らせ、残影となって無数の火の玉を軽やかにかわした。


 翻身の瞬間、私は再びアリーの背後に現れた。

「今だ!」

 心の中で叫び、タイミングへの直感を頼りに、彼女の背後へと回り込んだ。一気に踏み込み、刃を彼女に突き立て、勝利の感触をほぼ感じ取っていた。

 だが、次の瞬間、瞳孔が急に縮んだ。彼女がゆっくりと振り返り、杖がすでに私のいる位置を向いているのが見えた。上方から眩しい光を放つ火球が、私に向かって襲いかかってきた。

「もう一発隠していたのか!」

 心の中で叫んだが、避ける時間はもうなかった。

 避けられないその瞬間、私は左手を前にかざし、火球に正面から突っ込んだ。激しい焼けつく痛みが脳に突き刺さり、骨まで燃えるような感覚だった。痛みで意識が飛びそうになったが、最後の意志で耐え抜き、持っていた菜刀を無理やり前に突き出した。


 刀の刃は正確にアリーの左胸を貫き、鮮血が泉のように溢れ出し、瞬く間に私の右手を染めた。

「終わった……」

 私はそう思い、ホッと息を吐いたが、目の前の光景に呆然とした。

 アリーの服はすでに血で真っ赤に染まり、鮮血が蛇行するように流れ落ちていた。だが、彼女の杖は私の左胸の前で止まり、何の動きも見せなかった。

 私は硬直し、額の汗が頬を滑り落ち、目の前の赤と混ざり合った。頭の中は混乱でいっぱいで、この異様な状況を理解しようと必死だった。

 間違えた――自分の速度を誤算していた。体内に残る薬の影響で、動きは重く、普段の敏捷さとは程遠かった。この一刺しは遅すぎ、鈍すぎた。

 つまり――アリーには避ける、あるいは反撃する十分な時間があったのだ。彼女は杖を振り上げ、私を簡単に死に追いやることもできたはずだった。


 アリーは胸に突き刺さった刃をじっと見下ろし、ゆっくりと口元を歪め、奇妙な微笑みを浮かべた。狂気的な眼差しには、満足と解放の色が浮かんでいた。

「ラファエル君……これで……私のことはずっと心に残るよね……」

「俺は……」

 彼女の声は柔らかく、囁くようだったが、まるで呪いのように私の意識に深く刻み込まれた。私は沈黙し、喉が何かに詰まったように声が出なかった。

「まだ足りない! 君の心に消えない刻印を残すよ!」

 その瞬間、彼女の杖が突然光り、眩しい赤い光が迸った。直後、胸に焼けつくような激痛が走った。

 私は苦痛に低く唸り、胸を見下ろすと、そこにはまるで焼きつけられたような傷跡が現れていた。複雑な魔法の紋様のようで、微かな赤い光を放ち、余熱がまだ皮膚に染み込んでいた。

「君……」

 アリーの手は力なく垂れ下がり、息は次第に弱まっていったが、目の奥の狂気は少しも薄れていなかった。彼女の唇が震え、最後の言葉を呟いた。

「君が闇に眠るとき、私は夢の中で君と出会う……

 君が陽光に浴するとき、私は君の記憶の中で蘇る……

 私は永遠に君の心に生き続け、決して消えない存在となるよ。」

 彼女の言葉は最後の息とともに消え、狂気的な微笑みが青白い顔に残った。私の心の底には、まるで種が植えられたように、言葉にできない重さと影が芽生え始めた。空気には血の匂いと焦げた煙の臭いが残り、息が詰まるほど濃厚だった。

 私は地面に膝をつき、胸を押さえ、その傷跡の余熱を感じた。それはまるで私の心臓の鼓動に合わせて脈打つようで、彼女の呪いが永遠に私に付きまとうことを思い出させた。


 アリーは私の腕の中で静かに横たわり、呼吸はすでに止まっていた。私は彼女を見下ろし、どんな気持ちでこれに向き合えばいいのかわからなかった。怒りか? 悲しみか? 解放感か? それとも名状しがたい虚無感か?

 あらゆる感情が絡み合い、ぐちゃぐちゃになって、どれが本当なのか判別できなかった。胸の焼けるような痛みだけが、これが夢ではないことを私に思い出させた。

 炎の低い唸り声が近づき、熱波が床を舐め、周囲のすべてを飲み込み始めた。濃い煙が鼻腔に流れ込み、視界は徐々にぼやけていった。私は顔を上げ、周囲を見渡した。燃えるオレンジ色の光が壁に映り、まるで終末の炎が踊っているようだった。

 もうここに留まるわけにはいかないとわかっていた。

「行かなきゃ……」

 私は呟き、声は嗄れて力なかった。

 ついに、私はアリーの体をそっと下ろした。彼女の表情には、まるで最後の別れを告げるような、捉えどころのない微笑みが残っていた。指先が無意識に彼女の頬に触れたが、そこは氷のように冷たかった。

 炎が四方から迫り、壁が崩れ始め、巨大な木の梁が轟音とともに倒れ、破片が飛び散った。私はよろめきながら立ち上がり、胸の激痛と体の疲労が一歩ごとに地獄を歩むようだった。それでも、私はまだ歩けた。煙に侵された空気を深く吸い込み、心に渦巻く混乱と絶望を抑え、ほぼ力尽きた体を引きずって外へと向かった。


 頭の中では、彼女の笑顔、涙、狂気的な告白、そして炎と死が交錯した最後の瞬間が、断片的にフラッシュバックし続けた。それらはすべて重い影となり、胸にのしかかり、あの傷跡とともに、決して振り払えない重荷となった。

「アリー……」

 低く呟いた私の声は弱々しく、言葉にできない深い悲しみと矛盾を帯びていた。憎しみか? 後悔か? たぶんその両方で、もっと多くの感情が入り混じっていた。

 炎の咆哮がますます大きくなり、私は最後にもう一度彼女を振り返ることはせず、前だけを見つめることを強いた。焦げた瓦礫を踏みしめ、炎の光に染まった出口へ一歩ずつ進んだ。この悪夢はついに終わった。

 燃える家から踏み出した瞬間、冷たいそよ風が顔に当たり、胸の焼けるような熱はまだ脈打っていた。それは私に、アリーがまだそこにいることを思い出させた。彼女の笑い声、彼女の影、そしてあの傷跡は、呪いのように、永遠に私と共にあるだろう。


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