8. 正面対決(1)
正面對決
薄暗い部屋の中は静寂に包まれ、心臓の鼓動さえ聞こえるほどだった。私は天井を見つめ、四肢を縛る束縛と、胸に徐々に広がる鈍い痛みを無視しようとした。
アリーが部屋を去ってからしばらく経ち、私に残された時間は多くなかった。
私は首を動かし、枕の下に隠していたベルトを慎重に歯で引き出した。これは「第八ラウンド」でアリーが両手を縛るロープの代わりにベルトを使うことを許してくれた際、彼女の不注意に乗じて隠しておいたものだった。
「Overclock!」
私は低く呟き、ドライブストーンを起動した。腕にコードを刻むことができない状況で、ベルトに埋め込まれたドライブストーンを直接起動したのだ。
瞬間、馴染みのある灼熱感が洪水のように全身を駆け巡った。
期待していた力の奔流は訪れず、代わりに体温が急激に上昇し、汗が泉のように湧き出し、体内に残っていた薬物と共に体外に排出された。皮膚から蒸気が滲み出し、まるで沸騰する釜の中に放り込まれたようだった。
これはウォルサットが教えてくれた技――オーバークロックを使って毒素の代謝を加速させる方法だ。全身から熱気が立ち上り、まるで燃えているかのようだった。一分も経たないうちに、疲労感が潮のように押し寄せたが、すぐに未体験の清涼感がやってきた。
四肢はまだ少し力が入らなかったが、脱出には十分だった。私は目を閉じて呼吸を整え、乱れた息を落ち着かせた後、目を開けた。
「Power up!」
低く唸るように叫ぶと、久しぶりに力が腕にみなぎるのを感じた。私は力強くベルトの束縛を引っ張り、体のすべての拘束を解き放ち、近くにあったタオルを手に取り、腰に巻いた。長く閉じ込められていた筋肉と骨を動かし、ほぐした。
部屋のドアまで歩き、拳を振り下ろして錠を粉々に砕いた。ドアは私の力で勢いよく開き、まるで解放の匂いが空気中に漂っているようだった。 私は部屋を抜け出し、通りがかったトイレをちらりと見下ろし、周囲の安全を確認した後、階段へと向かった。
足音はこの静まり返った建物の中でひときわ目立った。私は息を止め、慎重に階段を上った。
最後の障害は重厚なドアだった。金属のドアノブに手をかけて力強く回すと、目の前には広々とした書斎が現れた。
ボロボロのカーテンの隙間から眩しい陽光が差し込み、埃が光の柱の中で舞い、この場所の荒涼さを物語っているようだった。私は書斎を抜け、広いホールに出た。周囲は埃に覆われ、生活の痕跡は一切なく、まるでこの場所が世界に忘れ去られているかのようだった。
突然、カチンという鋭い音が死のような静寂を破った。
私は瞬時に振り返り、音の出どころに視線を固定した。アリーがすぐ近くに立っていて、驚愕と痛みに満ちた動きで、足元には割れた皿と散らばった食べ物が広がっていた。
最悪の事態が起きてしまった。
アリーがゆっくりと口を開いた。
「それでも私を置いて行くの?」
私は冷静を保ち、答えた。
「マルキス城に戻らなきゃ。家族が待ってるんだ。」
彼女は首を振って、私をその場に釘付けにするような鋭い視線を向けた。
「もう遅いよ。」
「遅いって何だ?」
私の心は急に重く沈み、直感がこれから聞く言葉は悪い予感しかないと告げていた。
「オットー家はもう打倒された。今、マルキス城を支配しているのはマルコム家だよ。」
「……」
私は呆然とし、胸の内が空っぽになったような感覚に襲われた。一瞬、言葉が出ず、ただ黙ってその場に立ち尽くした。
彼女は一歩近づき、声を少し和らげた。
「ここに残ってよ、いいよね?」
「俺は戻る。」
私の声は自分でも驚くほどしっかりしていたが、内心はすでに嵐のように乱れていた。
「それは死にに行くようなものよ!」
彼女は突然声を荒げ、感情が抑えきれず拳を握りしめた。
「ここに残れば、私がずっとそばにいるのに……」
「俺は……」
言葉を言い終える前に、彼女の視線が冷たくなり、肩が小さく震えた。そして、彼女は背を向けた。
「行けばいい。」
一瞬、空気が氷のように冷え込み、アリーの周囲の温度が急に下がった気がした。彼女は背を向け、低く曖昧な声で呟いた。
「でも、ラファエル君を離すつもりはないから……」
その独り言のような呟きは空気中に漂い、完全には聞き取れなかった。
彼女の背中が遠ざかるのを見ても、私は追いかけて問いただすこともできず、足は硬直したまま出口へと向かった。両手でドアノブを強く握り、力いっぱい押したが――ドアはびくともしなかった。
「くそっ!」
私は低く悪態をつき、横の窓に目をやった。埃まみれのカーテンを開けると、目の前の光景に心が沈んだ――窓の外は太い木の板で何重にも封鎖され、まるで見えない牢獄のようだった。他の窓も急いで確認したが、どれも同じく閉ざされていた。
ここから逃げ出す方法がない? そんなはずはない。
「Power up!」
私は怒号し、残された力を右拳に集め、窓に全力で叩きつけた。ガラスが飛び散り、耳をつんざくような破砕音が響いたが、外側の木の板にはわずかなひびが入っただけだった。
反動で腕がしびれ、右拳の皮膚が擦りむけ、かすかに血が滲んだ。私は眉をひそめ、アリーの薬の効果がまだ完全に抜けていないことを悟った。ドライブストーンの力はフルに発揮できていなかった。
突然、背後から熱波が襲いかかり、危険を察知した直感で私は本能的に横に転がった。次の瞬間、私が立っていた場所は猛烈な炎に飲み込まれ、焦げた床から濃い煙が立ち上った。
私は呆然とし、信じられない思いでアリーを見た。彼女は遠くに立ち、冷たい表情で、目に燃えるような殺意がはっきりと宿っていた。彼女は髪を簡単にまとめ上げ、精緻だが危険な雰囲気を漂わせる顔を露わにした。その狂気的な眼差しに、私は背筋が凍る思いだった。
「待って……」
「ラファエル君、私と一緒に、ずっとここにいよう。」
アリーの口元がわずかに上がった。
「アリー、聞いて――」
「黙れ!!!」
私は彼女を落ち着かせようとしたが、アリーの表情はさらに狂気を帯び、彼女は大声で笑い始めた。その笑い声は鋭く耳をつんざき、空間のすべての理性を焼き尽くすようだった。
彼女が握る短い杖が天井を向き、冷たく言い放った。
「烈焰旋律!」
瞬間、彼女の周囲に無数の燃える火の玉が突如として現れ、炎が踊るように揺れ、彼女をまるで歩く災厄のように映し出した。
「魔法陣がない!?」
私は衝撃で足を止めそうになった。考える暇もなく、すぐに「Speed up」を起動し、危機を脱しようとした。しかし、体の虚弱さは明らかで、ドライブストーンの効果は普段より大きく減退し、起動速度も遅かった。
背後では炎がカーテンを飲み込み、燃え上がる火の海が形成され、濃い煙が天井に押し寄せた。アリーは杖を握り、視線を私にしっかりと固定し、手首を鋭く振ると、彼女の周囲の火の玉が弾丸のように私に向かって飛んできた。
「くそっ!」
私は低く悪態をつき、必死に足を速め、全力で走った。火の玉が体をかすめ、耳元で空気を焼き焦がす爆裂音が響いた。
私は長いテーブルを飛び越え、階段を駆け上がり、二階の廊下を必死に走った。後方から濃い煙が押し寄せ、私は息を止めて一気に跳び降り、空中で体をひねり、正確に彼女の背後に着地した。
アリーに反応する時間を与えず、私は素早く彼女に近づき、杖を奪おうとした。しかし、彼女は私の動きを予見していたかのように、素早く振り返り、杖を再び私に向けた。
彼女の目に一瞬の躊躇が閃いたが、それはほんの一瞬だった。彼女は目標を変え、杖を目の前の床に向けた。
「烈焰衝撃!」
ドン――! 床で炎が爆発し、巨大な衝撃波が瞬時に私を吹き飛ばした。体は制御を失い、空中を飛び、壁に激突した。激しい痛みが襲い、私は思わず息を呑んだ。
着地したとき、視界はぼやけ、耳鳴りが周囲の音を遮った。濃煙と火光が交錯し、アリーの狂気的な笑い声だけがはっきりと聞こえ、まるで世界全体が彼女の織りなす炎の牢獄に閉じ込められたようだった。




