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第四の魔女:消えた痕跡  作者: Test No. 55
第3卷上 - 逃亡編
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7.1 天国か地獄か(2)

挿絵(By みてみん)


「お願いを聞いてもらえるかな?」

 彼女はベッドの端に座り、両膝を抱え、純真な少女のよう頭を傾げ、口元に微笑みを浮かべていた。

「ラファエル君のお願いなら、私にできることなら何でも叶えてあげるよ。」

「じゃあ、俺を自由にしてくれる?」

 その言葉を口にした瞬間、彼女の笑顔が一瞬凍りつき、瞳がわずかに縮こまった。しかし、すぐにまた甘い笑顔に戻った。

「それはダメ!」

「そっか。じゃあ、せめて意識がはっきりした状態で君を見させてくれない?」

「……意識がはっきり?」

 彼女は少し眉をひそめ、私の言葉の意味がわからないようだった。

 私はため息をつき、まるで不満をこぼすように、あるいは妥協するような口調で言った。

「そう。毎回、何が起こったか思い出せなくて、なんか大事なことを見逃してる気がするんだ。せめて……君が喜んでる姿をちゃんと覚えておきたいんだ。」

 彼女は一瞬呆然とし、目には意外な喜びが浮かんだ。

「私のことを覚えておきたいの?」

「君を忘れるなんて、簡単にはできないよ。」

 この言葉は、わざと曖昧に言った。彼女の心に寄り添いつつ、自分のための道を切り開くためだ。彼女がどう解釈するかはわからないが、この言葉が彼女の心の柔らかい部分を確実に揺さぶったのは確かだった。

 案の定、彼女はしばらく固まった後、頬に赤みが差し、興奮してその場で何度もくるくると回った。スカートの裾が花が咲くようにふわっと揺れ、彼女は満足げに笑った。まるで最高の贈り物を受け取ったかのようだった。

 その陶酔した様子を見て、私は心の中で冷笑した――第一歩は成功だ。


「第四ラウンド」

 初めて、私は完全に意識がはっきりした状態で彼女と対峙した。四肢は依然としてベッドにしっかりと縛り付けられていたが、今回はこれまでとは状況が違った。私は彼女の思いのままに操られるおもちゃではなく、逆転を狙うプレイヤーだった。

 部屋の中は薄暗く、わずかに揺れる数本のろうそくの明かりだけが壁に映り、歪んだ影を投げかけていた。その光景は静かで、どこか不気味な雰囲気を漂わせていた。

 彼女は大学の制服を着ており、長い髪は無造作に垂れ、前髪が顔の半分を覆っていた――まるで陰気な優等生のような姿だ。しかし、その無害そうな外見とは裏腹に、彼女の行動は全く別物で、その強いギャップに背筋が寒くなった。

 彼女はどこか恥ずかしそうで、いつもより動きにためらいが見えた。少し身をかがめ、猫のよう静かに私の下に滑り込むと、冷たい肌と制服の粗い生地が私の胸に擦れ、微妙で敏感な刺激を与えた。

 彼女はそこで動きを止め、頬を私の胸にぴったりとつけ、まるで何かを聞き取ろうとしているようだった。

「心臓、ドキドキしてないね。」

「天井見ててどうやってドキドキするんだよ?」

 彼女の鼻息が私の肌に当たり、羽が胸を撫でるような感覚で、くすぐったさが波のように襲ってきた。私は思わず身をよじってその奇妙な感触を避けようとしたが、四肢がしっかり縛られていて、ただ無駄にもがくだけだった。

 彼女はそれに気づいた。

 彼女の身体はゆっくりと上に移動し、ますます私の首に近づいてきた。彼女の息遣いははっきり感じられ、温かくリズミカルで、一呼吸ごとに私との距離を試すように縮めていく。

 そして、彼女は軽やかに私の上に跨った。

 その動きは軽快だったが、無視できない圧迫感を伴っていた。長い髪が垂れ、すでに弱いろうそくの光をさらに遮り、彼女の顔は朧げな影に隠れた。鼻先は私の顔とわずかな距離しかなく、彼女の視線がまるで実体を持ったかのように私を捉えているのを感じた。

 彼女の息が私の頬を撫で、温かく静かだったが、そこにはどこか捉えどころのない暗い感情が潜んでいるようだった。微かな光を通じて彼女の表情を捉えようとしたが、ぼやけた輪郭しか見えず、影に隠れたその目は、どうやっても読み解けなかった。

 彼女の心が読めず、次の行動も予測できない。その未知の感覚が、私の神経をさらに張り詰めさせた。

 突然――彼女が動いた。

 何の前触れもなく、彼女は急に顔を近づけ、柔らかい紅い唇が私のやや乾いた唇に乱暴に押し付けられた。

「ん~」

 これはキスとは呼べない。むしろ、何かを主張するような粗々しい行為だった。唇と歯がぶつかり、動きは急で乱雑、秩序もなく、完全に不意を突かれた。彼女の指は無意識に力を込め、指先が私の肌に微妙な圧力を残し、まるで私の存在を確認するかのようだった。


 その瞬間、ひらめきが走った。

 私は一つの策を思いついた――ある意味で、エフィーヌに感謝しなければならない。さすが「サキュバス」と呼ばれるだけあって、彼女の技術は自然で熟練していた。そして、彼女の相手を務めた私も、否応なしにいくつかのことを学ばされていた。

 彼女には遠く及ばないが、この状況ではそれで十分だった。

 私は力を込めて首を振って、彼女の拙いキスを振りほどき、一息ついた。すると、鋭い視線が私をしっかりと捉えているのを感じた。彼女の呼吸が一瞬止まり、私の抵抗に不満を感じたのか、あるいは何かに挑発されたように思えた。

「俺に任せて。」

 彼女は一瞬呆然とし、明らかにそんな言葉を予想していなかったようだ。彼女は少し身を乗り出し、私の口調が本気かどうか確かめようとしているようだった。

 私は自ら頭を上げ、ゆっくりと彼女にキスをした。

 今度はリズムを私が支配した。私は意図的に動きをゆっくりとし、柔らかい唇で彼女をそっと包み込むように、優しく輪郭をなぞった。それは慰めるようでもあり、誘導するようでもあった。

 彼女の身体が小さく震え、指先が無意識に縮こまり、呼吸が急に速くなった。慣れない感覚に戸惑っているのが明らかだった。

 彼女の反応は一つの事実を証明していた――彼女は本当の「キス」を知らない。キスの本質すら理解せず、ただ本能のままに占有しようとしていただけだ。だが、相手をその中に溺れさせる術を知らなかった。

 そしてこのキスは、私の計画のほんの始まりにすぎなかった……。


「第四ラウンド」は私の計画どおりに無事終了し、私は主導権を奪い返すことに成功した。いくつかの重要な発見により、今後の勝算がさらに高まった。

 まず、私の推測は正しかった――彼女には経験が全くなかった。

 今回、私は過去の経験を活かし、状況を完全に掌握した。彼女にとってこれまでにない体験を演出し、過去三回の彼女の一方的な支配とコントロールを完全に覆した。

 この優位性は、エフィーヌを思い出させた。あの「サキュバス」と対峙したとき、私はいつも彼女の手のひらで弄ばれていた。それに比べ、この「狂った同級生」は恋愛の初心者の子鹿のようで、私に簡単に手なずけられた。

 彼女が絶頂に達し、快楽の渦に浸っている瞬間、私はそっと彼女の名前を引き出した。意識が朦朧とする中、彼女は無意識に呟いた。「アリー(Allie)」。

 その瞬間、彼女の身体は小さく震え、静かに私の胸に倒れ込み、呼吸が次第に落ち着き、深い眠りに落ちた。

 私は眠るアリーを見下ろした。彼女の頬にはまだ快感の余韻が残るほのかな赤みが差し、長い睫毛が微かに震え、まるで夢の中にいるようだった。この時の彼女は、以前の狂気的な姿とはまるで別人のようだった。

 私はある細かい点に気づいた――彼女は肌を露出することに慣れていないようだ。私の腕の中で汗だくになっても、服の襟をしっかり握り、ボタンを一つも外さなかった。

 私の視線は閉ざされたドアに向かい、心の中の決意がますます明確になった。この場所から逃げ出せる。


 アリーが目を覚ますと、彼女の私に対する態度に微妙な変化が見られた。これまでの狂気が薄れ、代わりに恥じらいとためらいが少しずつ現れていた。時折、彼女は無意識に私を盗み見し、目が合うと慌てて視線をそらし、頬に羞恥の赤みが差した。

 私は確信した。彼女の警戒心が少しずつ解け始めている。これは私のチャンスだ。

 今、私は準備を整え、アリーが「第五ラウンド」の挑戦を仕掛けてくるのを待っている。


 アリーが私に食事を食べさせているとき、私は自ら口を開き、できる限り誠実で率直な口調を心がけた。

「アリー、君のことをもっと知りたいんだ。」

 彼女は一瞬動きを止め、スプーンを宙に浮かせたまま、垂れた前髪越しに私をじっと見つめた。私の意図を探るような視線だった。数秒後、彼女の口元がわずかに上がり、どこか考え込むような表情を浮かべた。

「私のこと? 本当に知りたいの?」

「もちろん。」私は頷き、目をできるだけ真剣に見せた。

「君はいつも一緒にいるって言うけど、俺は君のことをほとんど知らないんだ。もし君が俺にこの状況を受け入れてほしいなら、せめて君のことを知る必要があるよね?」

 彼女はすぐには答えず、頭を下げてスプーンでスープを軽くかき混ぜた。スープの表面に小さな渦が広がり、微かなろうそくの光がその中で揺らめいた。彼女の沈黙は数秒続き、私の言葉を慎重に吟味しているようだった。やがて彼女は顔を上げ、先ほどより柔らかい目つきと口調で答えた。

「うん……いいよ。実は、私もずっと君に私のことをもっと知ってほしかったの。」

 彼女が折れた。

 その後の会話で、私は多くの重要な情報を得た。アリーはこの別荘が確かに彼女の住まいであり、彼女一人で暮らしていると話した。

 さらに重要なのは、彼女が上の階の状況について話したことだ――別荘の規模、部屋の配置、置いてある物、さらには薬をどこから手に入れたかについても、時折触れた。彼女は自分のペースで話し続け、私はその細かい情報を心の中でしっかりと記憶した。

 この会話は、脱出の鍵となるかもしれない。


 夕飯の後、アリーは再び私のそばに寄り添ってきた。今回は「挑戦」を仕掛けてくることなく、代わりに一冊のノートを手にベッドの端に座り、何かを丁寧に書き込んでいた。部屋のろうそくの明かりが彼女の横顔を照らし、その集中した表情は驚くほど穏やかだった。

「何を書いてるの?」

 私は好奇心から尋ねた。

「君のことを書いた日記だよ。」

 彼女はペンを止めることなく、まるで当たり前のことを話すような軽い口調で答えた。

「俺の日記?」

「そう。君と過ごす毎日を記録しておきたいの。もし、いつか君がいなくなっても、一緒にいた日々を思い出せるように。」

 彼女は当然のように言ったが、その言葉に私の背筋は凍った。

「いなくなっても?」

 その言葉に潜む可能性に、私の心は急に重く沈んだ。彼女の狂気は、単なる占有欲にとどまらず、もっと深い危機を隠しているのかもしれない。

 だが、私は動揺を見せるわけにはいかなかった。内心の不安を抑え、平静な口調を保ち、ほのかな笑みさえ浮かべて口を開いた。

「そんなに詳しく書いてるなら、ちょっと興味が出てきたよ。」

 彼女は顔を上げ、ほんの少し恥ずかしそうな目をして、口元に小さな微笑みを浮かべた。

「本当にずっと一緒にいられるようになったら、君が見たいなら見せてあげるよ。」

 彼女の声は柔らかい、まるでロマンティックな誓いの言葉のようだったが、私にはこれまでにない危険な響きに聞こえた。


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