7. 天国か地獄か(1)
天堂還是地獄?
意識がはっきりと浮上したとき、身体はまるで巨大な波に洗われたかのように疲れ果て、四肢は力なくだらりとしていた。しかし、その疲労の中には言葉にできない微かな快感が混じっていて、まるで曖昧な余韻が体内に残っているかのようだった。
ついさっき何が起こったのかはわかっているのに、頭の中は空っぽで、具体的な経緯は一切思い出せなかった。
目覚めた瞬間、目の前の世界が再び鮮明になり、すぐに不安を掻き立てる事実に気づいた――私は再びベッドに固定され、四肢を大きく広げた状態でしっかりと縛られ、身動きがまったく取れなかった。抵抗しようという考えが頭に浮かんだ瞬間、四肢から伝わる束縛感に無情にも押しつぶされた。
視線を部屋の隅に移すと、彼女が机の前に座り、頭を下げ、灰赤色の長い髪が顔を覆っていた。彼女は大学の制服を着ていて、昨夜の雰囲気とはまるで別人のようだった。
その見慣れた制服のデザインと姿に、記憶の断片が呼び起こされた。私は彼女の背中をじっと見つめ、頭の奥で遠い記憶の光景が徐々に浮かび上がってきた。
彼女だ。
かつて道端で助けたあの少女。数人のチンピラに絡まれていた彼女を、私は何気なく助け、振り返りもせずその場を去った。その後、確かにクラスで彼女を見かけたことはあったが、いつも静かに存在しているだけで、特に目立つこともなく、私の心にはほとんど残っていなかった。
だが今、彼女のその姿は私の脳裏に鮮明に刻み込まれ、無視できないものとなっていた。
私の視線に気づいたのか、彼女はゆっくりと顔を上げたが、垂れた前髪が表情を隠し、依然としてその顔ははっきり見えなかった。
「目が覚めた?」
彼女は机のそばに立ち、淡々とした口調で、返事を急ぐ様子もなく言った。
私は彼女を見つめ、黙り込んだ。どう切り出せばいいのかわからなかった。
「何か飲む?」
彼女は静かに尋ね、手に持ったグラスの水が、照明の下でわずかに揺れていた。
私は本能的に拒否しようとした。水に何か薬が混ぜられているのではないかと疑ったのだ。しかし、四肢が縛られ動けない状況では、拒むことが賢い選択とは思えなかった。
仕方なく小さくうなずき、彼女に水を口元に運ばせた。液体は喉を滑り落ち、冷たく無味だったが、心の中の不安はさらに深まった。
「いつ私を殺すつもり?」
彼女は一瞬驚いたように固まり、すぐにくすっと笑った。まるでばかばかしい冗談を聞いたかのように。
「殺す? そんなわけないよ。」
「じゃあ、なんで私を誘拐したの?」
「あなたを守るためよ。ここなら、誰もあなたを見つけられない。それに、ラファエル君は私とずっと一緒に暮らせるんだから。」
彼女はグラスを置き、ベッドの端に腰掛けた。前髪が表情を隠し、彼女の顔は見えなかった。声は優しかったが、その言葉の端々に漂う執着に、私の心は重く沈んだ。前髪の向こうの表情は見えずとも、彼女の口調に背筋が凍るような恐怖を感じた。
私は深く息を吸い、なんとか冷静さを取り戻した。今、選択肢はない。生き延び、家族に会うためにも、まず彼女の信頼を得る方法を考えなければならなかった。
その時、長時間の空腹で胃がぐぅと鳴った。彼女はすぐにそれに気づき、微笑んで立ち上がった。
「すぐ何か食べ物を用意するね。」
しばらくして、彼女は豪華な食事の皿を手に戻ってきた。そして、まるで壊れやすいペットを世話するかのように、丁寧に一口ずつ食べさせてくれた。
その動作は優しく、慎重だった。
腹を満たした後、私の頭は急速に動き始め、脱出の機会を探し始めた。
「トイレに行きたい。」
「え? 私が好きな男はトイレなんかいらないと思ってたのに。」
「……私だって人間だよ。」
「冗談よ。行こう。」
彼女はくすっと笑い、ベッドのそばに移動すると、慣れた手つきでいくつかの仕掛けを操作し、私を縛っていたロープの一部を解いた。ただし、上半身の拘束はそのままで、足にはさらに足枷が加えられていた。
彼女は私の手首を掴み、まるで囚人を護送するように部屋の外へ連れ出した。
部屋を出た瞬間、ここが地下室だとすぐにわかった。壁や天井の照明は薄暗く、わずかに光を放つだけだった。私は素早く周囲を観察し、何か使える手がかりを見つけようとした。
しかし、彼女は私の考えを見透かしたかのように、軽蔑するような口調で言った。
「ここは私の別荘の地下室。誰も見つけられないよ。」
トイレに入る前、彼女はわざと足を止め、穏やかだがどこか不気味な口調で忠告した。
「汚さないでね。いい匂いのラファエル君が好きだから。」
「……だったら、縛りを解いてくれよ。」
私の抗議を無視し、彼女は軽く背中を押して中に入るよう促した。私は身体の限界に挑戦するかのように、苦労して用を足した。
終わると、彼女は素早く私を部屋に連れ戻し、再びベッドに固定した。その手際はあまりにも慣れており、何度も練習したかのようで、抵抗の余地すら与えてくれなかった。彼女はそのまま部屋を出て行き、私は空っぽの部屋に一人、取り残された。
薄暗い天井を見つめながら、どれだけの時間が過ぎたのかわからなかった。部屋は恐ろしいほど静かで、時折聞こえる自分の息遣いと心臓の鼓動だけが耳に響いた。
意識が朦朧とし始めたその時、階段から急な足音が聞こえてきた。聞き慣れた軽やかな足取りに、私は一瞬で覚醒した――彼女が戻ってきたのだ。
ドアが開き、彼女の明るく弾んだ声が響いた。
「会いたかった、ラファエル君?」
「……水が飲みたいだけだよ。」
「私はすっごく会いたかったよ。」
言葉が終わるや否や、彼女はベッドに飛び乗り、両膝で私の両側を押さえつけるように跨ってきた。彼女の顔が私の胸にぴったりとくっつき、深く息を吸い込む。まるで私だけの特別な香りを味わうかのように。
「はぁ――匂いが薄い。全部遮られちゃってるね。」
「だったら、縛りを解いてくれよ?」
「ほら、水飲んで。」
彼女は私の言葉を無視したふりをして、そばにあったグラスを手に取り、微笑みを浮かべた目で私を見た。
「これ、薬が入ってないよね?」
私は冷たく問い返した。捕らわれている身ではあるが、警戒心は完全に失っていなかった。
彼女は眉を上げ、若干苛立った口調で答えた。
「そんな根性があるなら、喉が渇いて死んじゃえば?」
私は一瞬言葉に詰まり、返す言葉が見つからなかった。ただ、彼女のわずかに得意げな表情を睨みつけるしかなかった。
「まだ入れてないよ。こんなことで私を疲れさせたいの?」
彼女の言葉に心臓がドキリとした――まだ? つまり、いつか本当に水に何か仕込むつもりなのか? そう考えると、仕方なく素直に水を飲んだが、心の警戒はむしろ強まるばかりだった。
水を飲み終えると、彼女は立ち上がり、スカートのしわを軽く払い、気楽な口調で言った。
「夕飯の準備しなきゃ。」
そして、ゆっくりと部屋を出て行き、ドアが静かに閉まった。再び、私は静寂の中に取り残された。
明るい天井を見上げ、頭の中は混乱でいっぱいだった――彼女の言葉は、今がもう夜だという意味なのか? ここで気を失っている時間が長すぎて、陽の光を見ていないせいで、時間の流れすら曖昧になっていた。
私は完全に時間の感覚を失っていた。
天井には何もなく、ただ単調な灰白色が広がっているだけだった。
どれくらい時間が経ったのかわからないが、彼女が再び現れた。手に持った夕飯の皿からは湯気が立ち上り、彼女の足取りは軽やかで、顔には控えめな笑みが浮かんでいた。
心の中は警戒でいっぱいだったが、今の私には拒否する権利などないことを理解していた。だから、従うしかなかった。彼女が一口ずつ丁寧に食べさせる、悪くない味の食事を、私はただ受け入れた。
「ラファエル君、今日の私が何か違うって気づかなかった?」
彼女の声には期待が込められ、まるで私が何か重要な変化に気づくのを待っているようだった。
「げっぷ――」
夕飯を終えた後、思わずげっぷが出てしまい、私の視線は自然と天井に戻った。彼女が次に何を言うか無視しようと、意識をそらしたかった。
面倒くさくて、私は黙り込んだ。聞こえなかったふりをして、目の前の単調な灰白色の天井に集中した。
「ふふ、いいよ。すぐにでも私に気づくことになるから。」
その言葉から間もなく、身体に異変が起きた。体内から見覚えのある熱い感覚が湧き上がり、頭がぼんやりとし始め、呪わしい欲望が再び洪水のように押し寄せてきた。前回の経験から、すぐにわかった――またやられたのだ。
「俺……水、飲んでないのに……。」
「水に入れる必要はないんだよ。」
彼女はベッドのそばに立ち、ますます輝く笑顔で、眉間に少しだけ狡猾な光を宿していた。
私の頭に、夕飯の熱々のスープが一瞬にして閃いた――あれだ! あのスープだ!
怒りと体内を駆け巡る焦燥が交錯し、私の視線は再び彼女に強制的に引き寄せられた。そして、彼女の今日の服装をはっきりと見た瞬間、心臓が激しく跳ねた――彼女はメイド服に着替えていたのだ。
黒と白のコントラストが彼女の細い腰を際立たせ、短いスカートの下から覗く白いレースのガーターベルトは、目を離すことを許さない。彼女は軽く身体をひねり、スカートの裾がふわりと揺れて、繊細な肌がわずかに見えた。その仕草には、なんとも言えない誘惑が込められていた。
「どう? 今日の私は特別に違うと思わない?」
彼女は静かに尋ね、声には自分の仕上がりに満足するような愉悦が滲んでいた。
私は必死に歯を食いしばったが、抵抗する力は急速に失われ、理性は熱い欲望に飲み込まれていく。心は警戒でいっぱいだったのに、彼女の動きを追う視線を止めることはできなかった。
彼女はゆっくりと近づき、指先を私の胸に滑らせ、柔らかいがどこか抗えない圧迫感のある口調で囁いた。
「ラファエル君、この服、私に似合ってると思う?」
この暗闇に閉ざされた部屋で、時間はゆっくりと流れ、清醒と混沌の境界はますます曖昧になっていった。二度目の制御不能は、まるで猛獣のような洪水に飲み込まれるようで、私を再びのみ込んだ。あの息の詰まるような欲望の中で、彼女の操りに完全に抗えなかったことをはっきりと覚えている。
目覚めた後、心の中の不満は次第に不安に取って代わられた。記憶を呼び戻そうと必死になったが、まるでナイフで削り取られたように、頭の中は真っ白だった。身体の疲労と微かな痛みだけが、何かがあったことを私に知らせていた――だが、その内容は一切わからない。
「第二ラウンド」はこうして終わった。
短く偽りの「安全な」時間の中で、彼女はわざと私の拘束を緩め、柔らかな囁きで話しかけてきた。表面上は、まるで互いに調和しているかのような幻想を築こうとしていたが、私はそれが嵐の前の静けさにすぎないことを知っていた。
案の定、「第三ラウンド」は予想以上に早くやってきた――今回はまた水だった。あの無害に見える、透明で澄んだ水に仕掛けられていたのだ。
再び意識を取り戻したとき、どれだけの時間が過ぎたのかわからなかった。記憶はまたしても空っぽにされ、心は沈み始めた。底の見えない恐怖と屈辱が私の意識を掻き乱した。
三回。記憶の空白が三回、抵抗できない無力さが三回。
このままでは、私は彼女の檻に閉じ込められた鳥になり、決してこの不気味な牢獄から逃れられないだろう。そんな結末は絶対に受け入れられない――私は操り人形のペットではないし、この暗い地下室に一生閉じ込められ、彼女の玩具になるなんて耐えられない。
だが、彼女の支配はあまりにも完璧で、脱出を考えることさえ笑いものに思えた。
それでも、私は屈服するつもりはなかった。
薄暗い天井を見つめ、手足は依然として固定されていたが、心の奥では久しぶりに抵抗の火花が灯った。何か行動を起こさなければならない。「第四ラウンド」が来る前に、主導権を取り戻さなければならなかった。




