20.酔いのあとで
酒醉之後
「今夜は月が見えないね。」
私は独り言をつぶやき、大学城の入り口近くにあるベンチに横たわり、暗く光のない夜空を見上げていた。頭の中はまるで絡まった糸の塊のようで、考えることができない。
覚えているのは、ひどく酔っ払って、気持ち悪くなるまで吐いたことだけだ。そして、あの酒豪の怪物たちはバーでの狂乱の宴を終えた後、驚くべきことに私をここまで送ってくれる余裕さえあった。目が覚めた後、また元気いっぱいに飲み直しができるようにと配慮してくれたのだ。彼らの酒の強さには本当に感服する。常人を超えている。
胃の中の酸が喉を焼き、眉をひそめながらベンチから這い上がろうとしたが、四肢は鉛の玉を括り付けられたように動かない。
ふらふらと立ち上がり、頭はまだ多少清醒だったが、体は完全に制御を失い、足取りは泥濘を踏むように重く、一歩一歩が困難だった。学院区の平坦な歩道が、今の私の目にはまるで険しい山道のようだった。
どれくらい歩いたかわからない。足元がよろめき、膝がガクッと折れ、地面に倒れそうになった瞬間、冷たい地面と親密な接触を覚悟したその時、突然一対の手が私を支えた。
その手の感触は驚くほど柔らかく、続いて漂ってきたのは淡く優雅な香りだった。その香りは軽やかで、バーに充満していた安物の香水の刺激的な匂いとは全く異なるものだった。
その香りは一瞬にして私の感覚を呼び覚まし、彼女の支えによって体も一時的に安定したようだった。彼女の腕が私を包み込み、しっかりと支えてくれ、みっともなく倒れるのを防いでくれた。
彼女の顔をはっきり見ようと顔を上げたが、アルコールと疲労で視界がぼやけ、何も見えない。それでも、彼女の存在は感じられた――柔らかく温かい体は、夜の冷たい風と鮮やかな対比を成していた。彼女の息がすぐ近くに感じられ、安心感をもたらした。
彼女は一言も発せず、ただしっかりと私を支え、軽やかで安定した足取りで歩いた。夜風がそよそよと吹き、冷たさが骨まで染み込み、アルコールと夜風が私の頭の中で主導権を争い、意識は綱引きの状態だった。
彼女がどこに連れて行くのか、どれくらい歩いたのかわからない。周囲の世界は次第に遠ざかり、彼女の温もりと香りだけが現実的で鮮明だった。
私たちは通りをゆっくりと進み、街灯の光が彼女の知らない顔に映し出される――私は彼女を知らない。彼女の輪郭は光と影の間に隠れ、夢のような幻影のようだった。
その後の記憶は薄いベールに覆われているようだ。ぼんやりと覚えているのは、見知らぬ部屋に連れ込まれたことだ。体は柔らかいベッドにそっと置かれ、その柔らかな感触と清新な香りが一瞬意識を取り戻させた――ここは絶対に私の部屋ではない。
空気にはほのかな香りが漂い、女性特有の清々しい気配が感じられた。起き上がろうともがいたが、重い瞼と力の抜けた四肢はそれを許さなかった。
朦朧とする中、ベッドの片側がわずかに沈むのを感じ、誰かがそっと座ったようだった。
冷たい感触が指先に軽く触れ、掌、腕へとゆっくり広がり、最後に胸元で止まった。その冷たさは、アルコールで熱く火照った私の体と鮮烈な対比を成し、一瞬で驚きを覚えた。
混沌とした意識が目の前の情景を組み立て始め、触れ合いが続くにつれ、彼女と私の間に何の隔たりもないことに突然気づいた。その親密な距離、肌が触れ合う温度差は、かつてないほどの驚きと信じがたさをもたらした。
私はハッと驚き、必死に目を開けた。目の前の光景はぼやけ、彼女の長い髪が滝のように垂れ落ち、シャワーを浴びたばかりの清香を放ち、髪の毛が私の頬や首を軽く掠め、かすかなくすぐったさを残した。
視線は定まらず、彼女の顔をもう一度はっきり見ようとしたが、薄暗い光と彼女が身をかがめる角度のせいで、彼女の顔は依然として神秘的で知らないままだった。
私は呆然とした――知らない美女に拾われたのか?
彼女は依然として無言で、私の胸に寄り添い、誘惑的な重みと彼女の息遣いが、私が言葉にできない状況にいることを意識させた。彼女の肌の冷たさが私に密着し、まるで冷たい小川が熱い砂石の上を流れるように、氷と火の矛盾がこの瞬間、強い緊張感を生み出していた。
視線を動かそうとしたが、心の奥の衝動が私を誘い、つい視線を下げてしまう。彼女の誇らしい曲線が目に入り、胸に密着する柔らかさが一瞬、私の心臓を止めた。
私はその深淵を見つめ、深淵も私を見つめ返している――こんな美女に拾われるなら、死んでも悔いはない。
言葉にできない欲望が心の奥で燃え上がり、体内の熱波がゆっくりと高まり、すべての躊躇を追い払った。彼女の唇の端がわずかに上がり、薄暗い中でその微笑とも嘲笑ともつかない表情がひときわ魅惑的に見えた。
彼女に誰かと尋ねようとした瞬間、彼女が突然身をかがめ、柔らかな唇でそっと私の唇を覆い、すべての言葉をそのキスの中に消し去った。
そのキスは雨粒が池の表面に落ちるように優しく、だが抗えない力を持ち、私の理性を一瞬で崩壊させた。彼女の舌先が私の唇に軽く触れ、心の弦を弾く鍵盤のように、奥底の欲望を一瞬で燃え上がらせた。
酔い、欲望、知らない息遣いが空気中で渦を巻き、思考はぼやけ、混乱したが、体は彼女のリズムに合わせて無意識に応えた。その知らない雰囲気は抗えない魔法のようで、私はその中に溺れ、抜け出せなくなった。
彼女のキスは次第に優しさから熱烈なものへと変わり、烈焰が瞬く間に広がるように、私は枯れ草のようになり、その炎に一瞬で点火され、抵抗する力はなかった。
アルコールで全身が麻痺し、体は私の支配を離れ、彼女に導かれるままにこの深海に浮沈した。清醒のわらをつかもうとしたが、その冷たい感触は催眠のように私の抵抗を弱らせ、虚しくさせた。
彼女の体は依然として私に密着し、元は冷たかった肌も私の影響を受けて、徐々に熱を帯びてきた。そんな朦朧とした絡み合いの中で、意識は次第にぼやけ、だが感覚はますます鮮明になった。
すべての触れ合いは潮のように私の理性を打ち、波の後にもう一波が続き、最後の防衛線を完全に打ち砕いた。その知らなさと誘惑は見えない網のようで、私を彼女の世界にしっかりと閉じ込め、逃れることも、逃れたいとも思わなかった。
再び目を開けた時、周囲はすべて知らないものだった。薄暗い部屋、窓のカーテンの隙間から漏れる微かな光が、壁の淡い色をほのかに照らしていた。
頭が割れるように痛み、まるで強烈な一撃を受けたばかりのようだ。昨夜の狂乱は暗闇に散らばった破片のように、ぼやけて不鮮明だった。
ここはどこだ?
空気には知らない香水の匂いが漂っていた。私は体を軽く動かし、滑らかな綿の布団に包まれているのを感じた。この感触は私の普段の粗末な寝具とは全く違う。
苦労して体を起こし、昨夜の出来事を思い出そうとしたが、友達との狂乱の後、酔い潰れた断片的な記憶しかなく、まるで頭の中の散らばったパズルのようだ。
あの人は……誰だった?
その疑問に思考が止まったまま、部屋を見回した。すべてが知らないものだった。部屋の隅の椅子には女性のコートが無造作にかけられ、反対側の化粧台には瓶や缶が整然と並び、微かな香水の匂いがそこから漂ってくる。
眉をひそめた。ここは明らかに女性の部屋だ。床には私の服が散乱し、昨夜何が起こったのか疑念が湧いてきた。
起き上がろうとした瞬間、耳元でかすかな寝息が聞こえた。
そっと布団の端をめくると、長い髪が布団の下から現れ、柔らかく枕に広がっていた。私の隣に寝ているのは女性だった。息を止め、心臓が急に速く打ち始め、内心はパニックに陥った。
慌てを抑え、この知らない状況から一刻も早く逃げ出そうと決めた。
慎重に布団をめくり、音を立てないよう細心の注意を払いながら、彼女を起こさないようにした。つま先で立ち、床に散らばった服を静かに集めた。
だが、服を急いで着ようとしたその時、背後から怠惰な声が聞こえ、軽やかなからかいのニュアンスを帯びていた。
「誰か、黙って逃げようとしてる?」
「温かいスープを飲むと楽になるよ。」
柔らかな声がキッチンの方から聞こえ、部屋の静寂を破り、私はビクッと飛び上がった。視線を声の方向に瞬時に向け、心臓が速く打ち、緊張しながらドアのそばに立つ女性を見た。
今、私は知らないリビングに座っている。周囲のすべてが不慣れだ。
リビングとキッチンは一体化した小さな空間だが、丁寧に飾られている。壁の装飾、隅の小物、窓辺の草花まで、住人の生活へのこだわりとセンスが感じられる。視線をさまよわせ、昨夜の記憶の断片をつなぎ合わせようとした。
キッチンのドアに立つ女性はゆったりした部屋着をまとい、怠惰で自然な魅力が漂っていた。昨夜のぼやけた記憶とどこか一致しない。
今の彼女はより現実的で、私は眉をひそめ、彼女の顔を記憶の断片と結びつけようとしたが、依然として彼女が誰かわからない。彼女は私の困惑と不安に気づいたようで、温かいスープを二つ持って私に近づき、向かいに座った。
スープの香りが空気に漂い、温かさを感じさせたが、同時に得体の知れない圧迫感ももたらした。私は彼女がスープを私の前に置くのを見、彼女自身もスープを軽く吹いて一口飲むのを見た。
私はしばらく呆然とし、震える手でスプーンを取り、頭の中で昨夜の断片を必死に振り返ったが、完全な絵はつながらない。彼女の口調は柔らかく穏やかで、敵意は全くなかったが、その平静さが逆に不安を煽った。
「昨夜……」
「昨夜、道であなたが倒れそうだったから、転ばないようにここまで連れてきたの。」彼女は小さく微笑んだ。
「…ありがとう。」
しばらくの沈黙が続き、スープを飲むことでその気まずさを隠した。温かいスープは野菜の淡い風味があり、胃に滑り込むと一瞬で吐き気を和らげ、気分が少し楽になった。
スープを飲みながら、つい彼女をちらりと見ずにはいられなかった。彼女の外見から何か手がかりを得ようとした。
彼女はきりっとしたポニーテールに結い、化粧っ気のない顔は自然な美しさがあり、明らかに見逃せない美人だった。ゆったりした服を着ていても、彼女の曲線的な体型、特に胸の起伏は隠せなかった。
私は思わず彼女をもう一度じっくり見た。彼女の完璧さに内心驚いた。容姿が優れているだけでなく、振る舞いも優雅で堂々とし、こんな場面でも落ち着きを保っていた。
これまで見た中で最も完璧な女性だ、欠点がない……待て!突然、頭に閃くものがあった。
どこかで彼女を見たことがある。
「スープを飲んで少し良くなった?」目の前の美女が心配そうに言った。
「だいぶ楽になった、ありがとう。」
「……」
「じゃあ、そろそろ帰るよ。」
「気分が良くなったなら、いつでも帰っていいよ。ウォサルトたちが心配してると思うけど。」
その言葉で体が凍りついた。彼女が「ウォサルト」と言った。それはボスの名前だ。
一瞬で全ての謎が解けた――目の前のこの女性は、ボスの元カノの一人で、多くの人に「サキュバス」と呼ばれていた魔女だ。噂では、ボス一行は全員彼女に「味わわれた」とか。そして私も、昨夜その一人になったのか?
頭がフル回転し、この状況をどう対処するか考えたが、彼女が私の思考を遮った。
「あなた、彼女いないよね、ラファエル?」
「私の名前を知ってる? 調べたの?」
「私が誰でも手当たり次第に手を出してると思わないで。ちゃんと下調べしてるのよ。」
この女、ただものじゃない。頭の中で警報が鳴り響き、早くこの危険な女から逃げろと叫んでいた。
「私の彼氏にならない?」目の前の女性が再び口を開いた。
「何!? …え?」
「彼女いないんだよね?」
「一晩寝ただけで付き合うって決めるの?」
「あなた、結構気に入っただけよ。」
「気に入った?」
彼女が突然立ち上がり、私の前に歩み寄った時、心臓が一気に速く打った。反応する間もなく、彼女は軽やかに私の膝に座り、まるで全てが予定されていたかのように自然だった。体が硬直し、頭が真っ白になり、どう対処していいかわからなかった。
「昨日、ベッドでのあなたはこんな反応じゃなかったよ。」
「……」
言葉に詰まり、逃げる口実を探そうとした。だが、彼女は考える暇を与えず、突然身をかがめ、柔らかな唇で再び私の唇を覆った。
そのキスは柔らかく、圧倒的な迫力があり、私は抗えなかった。体は制御を失い、彼女に応え、理性は彼女の息遣いの中に消えた。
「エフェヴィン(Ephevin)、よろしくね、新彼氏。」
彼女は私の耳元で囁き、勝利の喜びを帯びた声で、まるで所有権を宣言するようだった。私はゾクッとした。
「え…ラファエル、よろしく。」
事態はここまで来て、もはや私がコントロールできるものではなかった。単なる酔った夜の事故だったはずが、なぜか彼女ができてしまった――いや、危険な女に絡まれたと言うべきか。
エフェヴィン、この女は想像以上に恐ろしい。すべての行動、すべての言葉が自然で、強引だ。昨夜から今まで、彼女の行動はすべて精密に計画されたようで、私は抵抗する力すらなかった。
これからどう向き合えばいいのか、次に何が起こるのかわからない。確かなのは、私の人生はもう平穏ではいられないということだ。エフェヴィン――噂の「サキュバス」――が私の人生に正式に介入してきたのだ。




