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第四の魔女:消えた痕跡  作者: Test No. 55
第2卷 - 大学城編
77/105

19.ノックノックカップ(敲敲杯)

挿絵(By みてみん)

 敲敲杯


 私は周囲を見渡した。美女たちはすでにダーニウたちとすっかり打ち解け、笑い声や冗談が飛び交い、個室全体がまるで永遠に終わらないかのような熱狂に包まれていた。

 ダーニウは隣に座った女性と酒のゲームに興じていた。彼にとって酒など水のようなものなのだろう。豪快な笑い声が部屋中に響き渡り、その酒豪ぶりに思わず感心させられる。

 私は皆の注意が自分に向いていないうちに、そっと隅に移動し、少し休憩しようとした。

「ねえ、イケメン君、寂しい思いさせないでよ~」

 あの厚化粧の女がまた近づいてきた。口元に笑みを浮かべ、からかうような目つきで、手にしたグラスをほとんど私の口元に押しつける。

 私は苦笑いしながらグラスを受け取り、どうやって体面を保ちつつこの場を切り抜けるか、頭の中で必死に計算を始めた。だが、作戦を練る暇もなく、ボスの声が響いた。

「来たぞ来たぞ~!“カンカングラス”始めるぞ!」


 個室には酒の匂いが充満し、ライトがちらちらと瞬き、笑い声は次第に大きくなっていった。

 ボスは立ち上がり、箸を高く掲げ、目を輝かせながらテーブルのグラスをコンと鳴らして宣言した。

「準備はいいかーっ!」

 全員がすぐさま輪になって座り、箸を握りしめ、テーブルの上に置かれた十個の酒グラスに視線を集中させる。

 ボスが進行役となり、声を引き延ばしながらリズミカルに歌い出した。

「カンカングラス〜♪ カンカングラス〜♪ このグラス〜♪ このグラス〜♪」

 その最後の一声とともに、全員が一斉にそれぞれの前のグラスをコンと叩く。

 澄んだ音が重なり合い、混沌の中にも一体感のある、小さな交響曲のようだった。

 私は少し緊張しながら、右側のグラスを選んで叩いた。どうかボスと被りませんように、と心の中で祈りながら。


「飲め飲め!」「飲め飲め!」「飲め飲め!」

 ――助かった。今回は回避できたようだ。

 赤いドレスの女性が、運悪くボスと同じグラスを叩いてしまい、皆の囃し立てに応えて迷いなくグラスを持ち上げ、一気に飲み干した。

 その潔い姿に、拍手と歓声が湧き起こった。

 次は彼女が進行役。

 唇の端を上げながら、視線をゆっくりと皆に向け、艶やかな声で歌い出す。

「カンカングラス〜♪ カンカングラス〜♪ このグラス〜♪ このグラス〜♪」

 再びグラスを叩く音が鳴り響き、さっきよりもテンポが早くなり、熱狂の度合いも増していった。

 しかし今回は——

 音が止んだ瞬間、ボスが突然爆笑しながら私のグラスを指差した。

「カウ、お前、俺の女と同じグラスを叩くなよ〜!」

「えっ、俺?」私は一瞬固まり、内心「やばい」と叫んだ。

 気が進まなかったが、ルールはルールだ。

 周囲からまたもやの掛け声が響く。「飲め飲め!」「飲め飲め!」


 仕方なく、私は酒杯を手に取った。

 琥珀色の酒がライトの下でゆらゆらと揺れ、その光景に一瞬見とれる。

 深く息を吸い込み、一気に仰いで飲み干す。

 喉を通った瞬間、烈酒はまるで火のように燃え上がり、体の奥まで熱が駆け巡った。

 重くテーブルに置かれたグラスの音が響き渡り、それと同時に周囲から拍手と歓声が巻き起こる。

 次は私がディーラーの番だ。ゲームは途切れることなく続いていく。

 皆のテンションはどんどん上がり、グラスを叩くスピードもどんどん速くなっていく。

 叫び声と笑い声が入り混じり、包廂の揺れる照明の中で、酒杯が打ち鳴らす澄んだ音がまるで終わりなき狂宴のように響き渡る。

 この「カンカングラス」は、運だけでなく度胸も試されるゲームだ。

 一回一回のグラスの叩き合いが、まるで運命との駆け引きのように感じられる。

 そしてアルコールの力も相まって、この馬鹿げたゲームが、なぜかどこか魅力的に思えてくる。


 何杯目の酒だったかはもう覚えていない。

 頭はぼんやりとして視界が霞み、ライトが長い尾を引くように揺れて、目が回りそうになる。

 それでも私は無理やり笑顔を作り、自分の醜態を隠そうとした。

 酒がまわりはじめ、次々と罰ゲームが襲いかかる。

 一杯、また一杯と酒を流し込み、最初のうちは何とか耐えていたが、やがて足元がふらつき始めた。

 周囲のすべてがぐるぐると回り、ゆがんで見える。

 騒がしい声、ぼやけた顔、すべてが混じり合って悪夢のような混乱となり、胸の奥を圧迫してくる。

 そして、最後の罰が回ってきたとき――

 私はもう、抵抗する力も残っておらず、ただ気力だけでその一杯を飲み干した。

 胃の中がひっくり返るような感覚とともに、抑えきれない衝動が一気に込み上げてくる……。


「オエッ……オエッ……」

 私は腰をかがめて、胃の中の酒と食べ物を吐き出した。

 頭はぼんやりとして視界も霞み、意識が途切れがちだった。ただ、大牛ダーニウが隣で嬉しそうに私を見下ろしているのだけは分かった。

「……中では吐かなかったよな?」

「いや、ギリギリだったけど、俺がすぐ担いで外に出したから大丈夫だ。」

「ありがと……でも、くたばれ……」

 私はそう言って、彼から差し出された水を受け取った。すぐさま口をすすぎ、口中に残った言葉にできないほどの酸っぱくて臭い味を吐き出す。

 冷たい夜風が吹き抜け、私は店の外に立って少しだけ意識がはっきりしてきた。

 胃のむかつきも徐々に落ち着き、あたりはすっかり暗くなっていた。

 夜の空気の冷たさが、酔いをほんの少しだけ覚まさせてくれる。

 私とダーニウはしばらく無言で外に立ち、風に吹かれながら休んでいた。

 ふと彼の方を見ると、顔は真っ赤だった。明らかにかなりの量を飲んでいるはずなのに、本人は平然と立っていた。

 ついに彼が口を開き、挑発的な笑みを浮かべながら言った。

「もう休憩は十分か?」

「だいぶマシになったよ。」

「じゃあ、中に戻ってまた飲むぞ!」

 彼はニヤリとしたまま、一方的に私の肩をつかみ、何の前触れもなく無理やり酒場の中へと引っ張っていった。

 反抗する間もなく、私はそのまま混沌と狂乱の場へと再び引き戻された。

 第2ラウンドの宴が、すでに始まろうとしていた――。


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