16.パンドラの製品
潘朵拉的產品
キャンパスの片隅、陽の光が金色の落ち葉の山に差し込んでいた。私は手にホウキを持ち、言うことを聞かない葉っぱたちと格闘していた。
掃除なんて初めての私は、ただただこの葉っぱの存在が厄介で仕方なかった。「なんでこんなに木を植えたんだ? こんなゴミを量産して……」内心で学園に文句を垂れ、まるでわざと私に嫌がらせしてるんじゃないかと疑い始めていた。
理由は単純——私は食堂でゾコを半殺しにしたせいで、罰として労働奉仕を言い渡されたのだ。当時は「まぁ、あいつを殴れたなら安いもんだ」と思っていたが……今となっては、この罰のしんどさを完全に見くびっていたと痛感していた。
私は上体を起こし、額の汗をぬぐって落ち葉の海を一望しながら、ふと考えがよぎった。
「風魔法で全部吹き飛ばせばいいんじゃないか?」——だが、その考えを実行に移す前に、遠くに見覚えのある三人の姿が現れた。私は慌ててその危険な発想を押し殺した。
「オットーくん。」
三人の声が同時に響いた。フィクソ、ジャネット、エミリーだ。
「よぉ。」私は気だるげに返事をした。声には少し冷たい、やる気のない響きが混ざっていた。
三人は何も言わず、私のそばまで歩いてくると、道具を手に取り掃除を始めた。私は眉をひそめながら問いかけた。
「なにしてんの?」
「掃除手伝ってるの。」
フィクソは明るく笑ってそう言った。あまりにも軽い口調で、冗談なのか本気なのか判別しづらい。
「なんで?」
「えっと……」
フィクソが口を開きかけたが、すぐに言葉を飲み込んだ。
その代わりにジャネットが先に続けた。
「あなたが小フィのために一発かましてくれたから、彼女ちょっと気まずく感じてるのよ。それで私たちも巻き込まれたってわけ。」
「ジャネット!」
フィクソの耳がみるみるうちに真っ赤になり、怒ったような声で抗議した。
ジャネットとエミリーは目を合わせ、すぐにクスクスと笑い出した。その様子にフィクソはますます顔を赤くしていた。
私は彼女に目を向け、淡々と言った。
「わざわざ礼を言う必要はないよ。あいつを殴るのは、もともと俺の予定に入ってた。」
フィクソはその言葉を聞いて、顔の赤みが少し引いた。代わりに、声のトーンが真剣になった。
「ラファエル、暴力で物事を解決する癖、そろそろ直したほうがいいよ。」
「俺、マークイス市育ちだし。」
私はあっさりと答えた。
「……私だってバレン市で育ったよ? でもだからって、ハンマーや武器で問題解決するわけ?」
フィクソのツッコミに言葉を詰まらせた私は、無言のまま再び掃き掃除を続けた。横でジャネットとエミリーが堪えきれない笑いを押し殺している。その空気がむしろ心地よく感じられた。
三人が手伝ってくれたおかげで、果てしなく思えた落ち葉の掃除は予想以上に早く終わった。私はホウキを置き、手の埃をはたいてから三人を見上げた。
「ありがとう、これで十分だよ。」
「じゃあ、他にお礼とか欲しいものないの?」
フィクソが突然そう言い出した。少しぎこちない声で、彼女は私の前に立ち、両手を背中に回して、つま先で地面をトントンと突いていた。どこか照れくさそうだった。
「ない。」私は正直に答えた。
「ちゃんと考えてみてよ。でも高いものはダメだからね。」
「お礼にまで条件つくのかよ。」
「いいから、早く!」
少し考えた後、私はフィクソとジャネット、エミリーの顔を順に見渡し、口を開いた。
「じゃあ、明日空いてる?」
「何のために?」彼女は警戒したように即座に聞き返す。
「ちょっと付き合ってよ。」
「えっ?」
彼女が驚いた声を上げるよりも早く、隣のジャネットとエミリーが茶々を入れてきた。
「ラファエル、けっこう大胆〜!」
「それってデートのお誘い?」
私は小さくため息をつき、真っ赤になっていくフィクソの頬を見ながら説明した。
「買い物に行きたいだけで、フィクソに手伝ってほしいんだよ。」
「ふ〜ん?」ジャネットはわざとらしく声を伸ばし、からかうようにこちらを見た。
「小フィ、了承〜!」
「ちょっと!」フィクソの声が一段と大きくなり、顔の赤みもさらに濃くなった。
「まあまあ、たまには買い物でリフレッシュもいいじゃん。」
ジャネットは陽気に彼女の肩をぽんと叩いた。フィクソは反論の言葉を見つけられなかったようで、代わりにジロリとジャネットを睨みつけた。
「決まりだね!」
ジャネットが大きく手を振って話をまとめた。私はその流れに乗って、翌日の集合時間と場所を告げ、簡単に挨拶してその場を離れた。
「じゃあ、また明日!」
「うん、また明日。」
手を振って別れた後、私は学務課へ行って労働奉仕の完了を報告し、そのまま商業地区へ向かった。
日が傾き始めた頃、私は古びた小屋の前で立ち止まった。風で今にも飛ばされそうな看板を見上げ、心の中でぼやく。
——この看板、次の強風で確実に吹っ飛ぶな。
私はノックもせず、ギィッと音を立てて木製の扉を開けた。鈴の澄んだ音が空気に鳴り響く。
店内は意外にも整理されており、簡素ながらも雑然とはしていなかった。棚には用途不明の小物が並び、隅には封をされた箱がいくつか積まれている。私はカウンターへ歩み寄り、視線を壁際へ移すと、ちょうど見慣れた人影がリクライニングチェアからゆっくりと起き上がるところだった。
「用件は?」
彼はあくびをしながら、気だるげな声でそう言った。
「ランディ。」私は余計な挨拶もせず、名を呼んだ。
彼は目をこすりながら、私が汗だくで働いていた頃に昼寝でもしていたかのような顔をしていた。
「おや、オットーくんじゃないか。」
「いい昼寝だったみたいだな?」
「おかげさまで。」
彼はにこやかに立ち上がり、私に椅子を勧めて水を一杯差し出してくれた。
「それで、今日は何の用で?」
「眼鏡、どこで買えるか知らないか?」
ランディの笑顔が一瞬凍りつき、眉をひそめてしばし黙った。
眼鏡。それは〈パンドラ〉シリーズの製品の一つだった。
「パンドラの箱」は大学都市最大にして、全大陸屈指の研究チームである。
彼らは時代の進歩を牽引するだけでなく、古代技術の復元にも成功し、多くのドライブストーンの新たな応用法を開発した。この設立からわずか一年のチームが残した成果は誰にも追いつけず、世界の技術地図を一変させたと言っていい。
だが、その輝かしいチームの中には「世界を滅ぼす魔女」と呼ばれる一人の人物がいた——メクロ。
当時、彼女の発明は大学都市中を騒がせ、生活水準を一気に数十年分引き上げた。
大胆かつ創造性に満ちた発明家として、彼女は一時期、都市の誇りとまで称えられた。しかしその革新的すぎる思想と、独特な行動はやがて当局との軋轢を生み、最終的には大学都市から追放されるに至った。
それでも〈パンドラ〉の技術は今なお世界中に影響を与えている。だが、倫理問題や潜在的危険性を理由に、多くの発明品は禁制品とされ、生産・流通は禁止された。
それでも一部の製品は、代替不可能な実用性を認められ、使用が許されている。その代表例が眼鏡だ。
一見普通に見えるこの製品も、実は高度な技術の結晶であり、大学都市では高級品として流通している。
ただし、それらが第四魔女・メクロの開発品であるがゆえ、当局は厳しく制限をかけており、生産・販売は厳重に監視されている。その結果、眼鏡は非常に高価になり、一般市民には手の届かない贅沢品となっていた。
だからこそ、私はランディの店を訪ねた。彼の情報網と、都市内外にまたがる人脈を考えれば、ここ以上に頼れる場所はない。
品質よし、値段よし、あるいは多少「合法ではない選択肢」まで——知っているのは彼しかいない。
ランディは少し黙り込んでから口を開いた。
「それって……自分用じゃないよな?」
「俺は目、悪くない。」
「ってことは、小フィにプレゼント?」
彼の口元に、いたずらっぽい笑みが浮かんだ。
「……やっぱ、お前に聞いて正解だったな。」
ランディはくすっと笑いながら、部屋の中を一瞥し、何かを思案しているようだった。
「内壁側と外壁側に一軒ずつある。ただし……君の財力じゃ、内壁の店に行くのが無難だね。品質は保証されてるし、無駄なトラブルも避けられる。」
そう言うと、ランディはカウンターの下から紙片を取り出し、腰をかがめてペンを取り出し、ルートを書き始めた。ペン先が紙を走る音が心地よく響き、あっという間に行き先とルートが記された地図が出来上がった。
「はい、できたよ。」
「いくらだ?」私は紙を受け取りつつ、財布に手を伸ばした。
「今日はオトナのお客様、初来店ってことで無料!」
彼はまるで商人のように、わざとらしい笑顔でそう言った。
「西の空に太陽でも昇ったか?」
「いつもご贔屓に。」
「じゃ、遠慮なく。」
私は腰を上げて立ち去ろうとした——そのとき、彼の声が再び背中から飛んできた。
「ちょっと待った。」
「何だよ?」振り返ると、彼は意味ありげな笑みを浮かべていた。
「ラファエルくん、ついでに『面白い本』でもどう?」
一瞬の沈黙。私たちは目を見合わせる。
すぐに察した私は、苦笑しながら口元を引きつらせた。
ランディは慌てることなく、カウンターの下から派手な表紙の小さなエロ本を一冊取り出し、目の前に置いた。そしてやけに真面目な顔をして言った。
「お買い上げありがとうございます。」
「……買う。」
私は即答し、金を払った。
「まいどあり!」
ランディは上機嫌に笑い、まるで大きな商売でも成功したかのようだった。
紙片と本を手に、私は店を出る。鈴の音がもう一度響き、背後からは彼の陽気な鼻歌が聞こえてきた。




