13.期末試験
期末考
期末試験の日がついにやってきた。これは毎学期末に行われる、最も緊張感のある総合テストだ。
朝の陽射しが教室の窓から差し込み、生徒たちの真剣な表情を照らしていた。教室内は静まり返り、聞こえるのはペン先が答案用紙を走る音だけ。生徒たちは全力を尽くし、この試練に立ち向かっている。
ラファエルは自分の席に座り、ペンを軽く滑らせて答案を書いていた。普段から授業に対して情熱を見せない彼だが、それでも精一杯答えている。フィクソのざっくりとした評価によれば、彼はクラスの下位から中位レベルまで成績を伸ばせそうだった。
彼にとって、それは十分に良い結果だった。一方、クラスメイトのフィクソは、常に一位を目指しており、それに疑いの余地はなかった。
試験の最中、ラファエルはふと気が散った。教室に一人の見慣れた姿がいないことに気づいたのだ——フィクソである。この状況は異常だった。優秀生である彼女が、大事な試験の日に遅刻するはずがない。
時間が一分一秒と過ぎ、筆記試験はちょうど半分ほど進んだ頃、突然、廊下から急ぎ足の音が聞こえてきた。教室のドアが慌ただしく開けられ、全員がそちらを見た。
入ってきたのはフィクソだった。しかし、いつもと様子がまるで違っていた。制服を着ておらず、私服姿で、灰青色の髪は乱れたまま肩にかかっており、顔には焦りと気まずさが浮かんでいた。
「ごめんなさい、ごめんなさい!遅刻しちゃった!」
フィクソは息を切らしながら謝り、自分の席へと急いで向かい、すぐに答案を書き始めた。
ラファエルは眉をひそめ、心の中で思った。
「寝坊か?……あいつらしくないな。」
彼は素早く彼女に一瞥をくれると、再び気持ちを切り替え、試験に集中した。
フィクソの遅刻によって一時的に教室の静寂は破られたが、すぐに元通りになり、またペンの走る音が空間を満たしていった。ラファエルは首を軽く振り、気を取り直して真剣に解答を続けた。
期末試験の終了を告げる鐘が鳴り響くと、教室内には安堵の空気が広がった。生徒たちは次々と答案を提出し、数人ずつ教室を出ていった。中には午後の予定について楽しげに話す者もいて、試験の重圧は一瞬で消え去ったかのようだった。
しかし、教室の隅でフィクソだけは微動だにせず、どこか寂しげに座っていた。
ラファエルは立ち上がり、彼女の異変に気づいて、思わず歩み寄った。口元には軽くからかうような笑みを浮かべていた。
「今日は寝坊か?」
いつものように冷静な切り返しが返ってくると思っていた。
しかし、フィクソは答えなかった。うつむいたまま、何とも言えない感情に沈んでいるようだった。ラファエルは一瞬戸惑った。こんなフィクソは初めて見る。
これまでどんな状況でも冷静かつ自信に満ちていた彼女の沈黙は、逆にとても脆く見えた。
ラファエルは彼女を励まそうと、軽い口調で言った。
「まあ、大丈夫だよ。一回くらい試験がうまくいかなくても、君は十分すごいんだから。」
その言葉が終わるか終わらないかのうちに、フィクソは突然顔を上げ、目には涙が光っていた。どうやら長い間、感情を抑えていたようだ。
「なにが分かるっていうのよ!」
彼女は怒りに震えながら叫んだ。目には悔しさと憤りが浮かび、ラファエルをきつく睨みつけた。
ラファエルは呆然とした。こんなにも取り乱したフィクソを見たのは初めてだった。言葉を失い、ただ彼女が怒りに任せて立ち去るのを見送るしかなかった。不安な気持ちが胸の奥に残った。
翌日、成績がついに発表された。教室内は歓声で賑わっていた。教室の一角からはゾコとその取り巻きたちの声が響いてくる。
「さすがゾコ様!」
「今回も一位だなんて!」
「ゾコ様、ほんとにすごい!」
彼らの喜びは教室全体に広がっていった。一方、フィクソは静かに自分の席に座っていた。かつて彼女のものだった“第一位”は奪われたのだ。彼女はうつむき、両手を固く握りしめ、一言も発さなかった。
午後の陽が廊下に差し込み、空気にはどこか張りつめた雰囲気が漂っていた。ラファエルは角を曲がったところで、聞き覚えのある声を耳にして足を止めた。どうやら試験に関する話のようだった。
「先生に訴えればいいじゃない!」
ある女子生徒が焦ったように言った。
「訴えても意味ないよ。ゾコには後ろ盾があるけど、私は……」
フィクソの声は悔しさと諦めに満ちていた。
「一位を取られて、奨学金まで失って……これからどうするの、小フィ?」
もう一人の女子の声には、心配の色が濃かった。
ラファエルはそっと近づいた。見ると、フィクソと彼女の二人の友人が言い争っていた。声は次第に大きくなり、内容はどうやら試験とゾコに関することのようだった。
「やっぱり小フィに対して不公平だと思うよ、少なくとも――」
「シッ、あいつ来た!」
フィクソはラファエルの気配に気づき、慌てて話を止め、彼を警戒するように見つめた。
ラファエルはそれに気づいて、わざと飄々とした態度で言った。
「続けなよ、俺が聞いちゃまずい話でもある?」
その声はまるで不良のようだったが、わざとふざけたように言っているのは明らかだった。
フィクソも負けじと冷たく返した。
「関係ないでしょ、あなたには!」
ラファエルは気にせず、他の二人に向き直って軽く尋ねた。
「なに、小フィに何かあったの?」
今やラファエルの名前は学内でも広く知られており、彼が「有名人」と親しい関係にあることもあって、多くの生徒は彼を恐れていた。普段はのんびりして見えるが、その存在感は否定できない。
だが、フィクソと仲の良い彼のことを知っている友人たちは、ラファエルが本物の不良ではないことを理解していた。
「言っちゃダメ、彼ゾコと仲悪いんだから、また喧嘩になるよ!」
フィクソは慌てて止めようとし、彼女の前に立ちはだかった。まるで壁のように立ちはだかり、怒ったようにラファエルを睨みつけていた。彼女はこの件にラファエルを巻き込みたくなかったのだ。
ラファエルはその必死な様子を見て、思わずおかしくなった。彼女の焦りと防衛心は明らかで、それが逆に彼の好奇心を煽った。
彼は少し身をかがめ、金色の瞳でじっとフィクソを見つめた。その視線は真っすぐで揺るがなかった。
彼の目が彼女の顔に移ると、フィクソの眼鏡のレンズに小さなヒビが入っているのに気づいた。日差しの中ではっきりと目立っていた。
「うるさいんだよ、君。」
彼は静かに、しかし強い口調で言った。
フィクソは一瞬たじろいだが、すぐにさらに怒りを募らせた。
「なにそれ――」と言いかけたその時、自分の体がふわっと浮く感覚を覚えた。
彼女の言葉が終わる前に、ラファエルは躊躇なく彼女をひょいと肩に担ぎ上げた。まるで軽い荷物のように。フィクソは驚き、必死に抵抗しながら叫んだ。
「なにするのよ!!!」
彼女は猫のように暴れ、足をばたつかせ、手でラファエルの背中を叩きながら必死に逃れようとしたが、彼の肩の上ではその抵抗も無力だった。
「二人とも、何があったのか教えてくれないか?」
ラファエルの声は驚くほど真剣で、彼の行動とのギャップが強烈だった。その顔には一切のふざけた様子はなく、ただ真摯な表情が浮かんでいた。
フィクソの友人たちは顔を見合わせ、驚きと戸惑いを隠せない様子だった。乱暴なようでいて誠実なラファエルの態度に、しばらくどう答えればいいのか迷っていた。
しかし、やがて二人は口を開き、経緯を語り始めた。声には怒りと悔しさが混じっていた。
「試験の前に、ゾコとその取り巻きが小フィの登校ルートをわざわざ塞いでたの。」
一人の女子生徒が低い声で言い、怯えと怒りが混ざった眼差しを浮かべた。
「彼女を見つけると、いきなり大きなバケツで汚水をぶっかけたの。彼女がどう反応するかなんてお構いなし。」
もう一人が早口で続けた。
「それだけじゃないわ。彼女を地面に突き飛ばして、散々なじって……それで時間ギリギリになってから、やっとその場を去ったの。」
話すうちに彼女の拳はぎゅっと握られ、友達への怒りと無念が込み上げてきたようだった。
「小フィは全身が臭くて、急いで家に戻って着替えて……だから制服じゃなかったし、髪もぐちゃぐちゃだったの。」
その言葉は廊下に静かに響き、空気が一気に重くなった。ラファエルの肩に担がれたフィクソは、すでに抵抗をやめ、力なく両手を垂らしていた。屈辱と重圧が彼女を押し潰しているようだった。
彼女はうつむき、表情は見えなかったが、肩がかすかに震えていた。感情を必死に堪えているのが伝わってくる。
すべてを聞き終えたラファエルは、静かに息を吸い込み、フィクソをそっと肩から下ろした。その動作はまるで壊れやすい物を扱うかのように優しかった。
彼は軽く彼女の頭に手を置いてポンポンと叩き、まるで慰めるようにしたが、何も言わなかった。
フィクソは相変わらず俯いたままで、誰とも目を合わせることができず、内に秘めた感情はまだ消化しきれていないようだった。しかし、ラファエルは無理に言葉をかけなかった。今の彼女に言葉は必要ないと感じたのだ。
「話してくれて、ありがとう。」
ラファエルは二人の女子生徒に向き直り、静かにそう言ったが、内に秘めた怒りは徐々に燃え上がっていた。
「これからは、“ラファエル”って呼んでくれていいよ。」
彼は微笑を浮かべ、軽く会釈をした。
「ジャネットです(Jannet)。」
「わ、私はエミリー(Emily)。」
「……ねえ、ゾコってドゥク城の名家の留学生だって知ってる?」
ジャネットは少しためらいながらも、心配そうにそう口にした。
「みんな俺のこと“オットー君”って呼んでるけど、“オットー”ってどこの姓か知らないの?」
ラファエルはさらっと答えた。その口調には自然体の自信があり、ゾコの後ろ盾すら気にしていないようだった。
三人の少女がぽかんとした表情で見送るなか、ラファエルは勢いのある足取りで教室へと向かっていった。




