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第四の魔女:消えた痕跡  作者: Test No. 55
第2卷 - 大学城編
70/105

短編 氷河の遺跡

 挿絵(By みてみん)

 短篇 冰河遺跡


 月初めの朝、教室の窓から柔らかく温かな光が差し込んでいた。

 だが、そのほのかな陽光も、教室内に漂う重苦しい空気を拭い去ることはできなかった。

 一限目の授業が始まろうとする頃、学生たちは誰もがまばたきをしながら眠気と戦っていたり、下を向いてノートを必死に見返していたり、あるいはぼんやりと窓の外を眺めていたりした。

 その時、教室の扉が開き、教師が厳しい表情で中に入ってきた。

 一歩一歩、重々しく歩く彼の足取りは、無言の威圧を伴っていた。

 生徒たちは無意識に背筋を伸ばし、ささやかな私語も一瞬で消えた。

 教室内は何か見えない力に抑えられたように、静まり返っていた。


 教師は教壇の中央に立ち、教室全体を見渡した後、低く厳かな声で話し始めた。

 その声には、作られた威厳がにじんでいた。

「第四の魔女が大学都市で起こした事件、諸君も耳にしたことがあるはずだ。」

 その一言で教室は再び静まり返り、紙の上を走るペンの音だけがかすかに響いた。

 外では陽光がまぶしく降り注いでいるのに、教室内には目に見えない重圧が漂っていた。

 教師の口調はさらに厳しくなり、その言葉はまるで空間に打ち鳴らされる警鐘のようだった。

「改めて強調しておく。大学都市内で不審な人物を見かけた場合、あるいは魔女に関する噂を広めたり、密かにその研究をしている者を知った場合、必ず学校に報告するように。」

 数人の学生が目配せを交わし、その警告に驚く様子はなかったが、どこか緊張を隠せないようだった。

 教師は一呼吸置き、再び全員の注意を自分に向けるようにして言った。

「“魔女狩り”の目的は、学園の平和を守るためだ。それは学校の責任であると同時に、生徒一人ひとりの義務でもある。」

 その言葉は警告とも訓戒ともとれるものだったが、僕にとってはいつもの決まり文句でしかなかった。

 教室の中央に座る僕は、教師の繰り返す言葉に特に感情を抱くこともなかった。

 こんな通達はもう何度も聞かされてきた。毎月のように繰り返され、まるでこの都市の隅々が伝説の魔女の再来を恐れているかのようだった。



 数日後――

 僕は馬に乗り、大学都市を後にして東へと進んでいた。

 馬の蹄音が、広々とした野原に高く響く。

 風景はゆっくりと流れ、僕の心はもっと遠く、あの神秘的で古の「氷河遺跡」へと向かっていた。

 かつて「氷河時代」と呼ばれたその場所の名を思い出すだけで、背筋が凍るような感覚を覚える。

 数年前、災厄の魔女・メクロが歴史を変えるほどの戦いで、その最終魔法を発動した場所だ。


 戦場とその周辺の村々は、一瞬にして凍りついた。

 彼女を討伐しようとした数百の戦士、そして数千の村人が、厚い氷に閉じ込められた。

 まるで精緻な彫刻のように、静かに、そして永遠にその地に立ち尽くしていたという。

 その氷の地は五年もの間、溶けることなく続き、ようやく解けた時、そこには破壊の爪痕と無言の遺構が姿を現した。

 その凄惨な戦場を想像すると、僕は思わず背中を丸め、寝袋を体にしっかり巻きつけて、焚き火のそばでつぶやいた。

「……とりあえず、寝るか。明日に備えよう。」


 その後の道のりは、驚くほど穏やかだった。

 風に揺れる木々や草原、空に漂う白い雲、時おり空を横切る鳥の姿。

 かつて血と氷に染まった場所とは思えないほど、平和な風景が続いていた。

 そしてついに、僕は遺跡の近くまで辿り着いた。

 目に入ったのは、静まり返った廃村だった。

 打ち捨てられた家々、草が生い茂る道、長年誰にも触れられていないその村は、寂しさと同時に時の流れを感じさせた。

「……ただの廃村にしか見えないな。」

 そう独りごちて、僕はさらに足を進めた。

 村を抜けると、目の前にぽっかりと開いた巨大なクレーターが現れた。

 こここそが、メクロが「氷河時代」を発動した中心地――伝説の地だった。

 馬をクレーターのそばに繋ぎ、軽くその首を撫でて休ませると、僕は注意深くその穴の中に飛び降り、静かな足取りで中央へと歩き始めた。


 クレーターの真ん中に横たわりながら、僕は空を仰ぎ見た。

 空は青く澄み、陽光が顔に優しく降り注いでいた。

 陰鬱な遺跡の中にあって、その陽射しだけが奇妙にあたたかかった。


「……メクロはあのとき、どんな気持ちで“氷河時代”を放ったんだ?」

「父さんが知っていたメクロと、伝説の魔女は……本当に同一人物なのか?」

「父さんは言っていた……あの人は魔法なんて使えないって……」

 そんな疑問たちが、無数の糸のように脳内を渦巻く。

 だが、静寂と陽光のぬくもりの中で、次第に眠気が押し寄せてきた。

 まぶたが重くなり、疑問は波が引くように遠ざかる。

 そして僕は、氷河遺跡の中心で、静かに夢の中へと落ちていった。


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