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第四の魔女:消えた痕跡  作者: Test No. 55
第2卷 - 大学城編
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8.古代のえっちな書物

挿絵(By みてみん)

 古代小黃書


 廊下は人であふれ、生徒たちは三々五々集まっては談笑していた。

 僕は人の流れに身を任せてゆっくり歩きながら、次の空き時間にどこをぶらつこうか考えていた。

「オットーくん!」

 声が背後からかかった。わざと声を潜めたような、どこか秘密めいた響き。振り返ると、案の定、ランディがいつものずるそうな笑顔を浮かべていた。

「お前か。」

 僕は眉をひそめ、歩く速度を緩めた。ランディのいかにも怪しげな様子に、思わず呆れがこみ上げる。

「いいモノがあるんだ!」

 彼はさらに近づいて声を潜め、キョロキョロと周囲を見回す。

「なんだよ、そんなコソコソして……」


 ランディは答えず、僕の腕を引っ張って廊下の隅へ連れていくと、バッグから何かを取り出して差し出してきた。

 下を見ると、僕の目が思わず大きく見開かれた。

「こ、これは……!」

「しーっ! バラすなよ!」

 ランディは慌てて口に指を当てて、僕に黙るようジェスチャーをした。

「どうしてこんなもんを……」

「特別に君のために取っといたんだよ!」

「……売りつけようってだけだろ。」

 僕は目を細めて睨みながらも、思わず苦笑した。

「やれやれ、ランディ……やっぱり君ってやつは。」


 その本は、この年頃の男子なら誰でも抗えない“例のブツ”――エロ本だった。

 表紙には、ぼかされながらもドキドキさせられる絵が描かれていて、それだけで顔が熱くなる。

 しかもこれは、古代の書物の復刻版。内容は言うまでもなく、血の巡りが加速するようなものばかりだ。

 校長メヴィアの厳格な統治のもと、この手の本は校内どころか市販でも一切出回らない。

 だが、だからこそ、こういった“禁忌の品”は密かに珍宝扱いされていた。

 古文書のレプリカともなれば、特別なルートでもない限り手に入るわけがない。

 ……ランディの腕前には、本当に感服するしかない。


「これは……誰もが夢見る宝だな……」

 僕は思わず低く呟き、その本から目を離せなくなっていた。

 最終的に、ポケットから数枚の硬貨を取り出し、ランディの手のひらに乗せる。

「取引成立だ。」

 ランディはニヤニヤと猫のように笑いながら金を受け取り、

「俺だってまだ読んでないのに、先に君に差し上げちゃうなんてさ。」

「嘘ばっかり。」

 僕は本をそっとカバンにしまいながら、あっさりツッコミを入れる。

「オットー君には敵わないな、ははは!」

 ランディは暴かれたことなど気にもせず、むしろ楽しげに笑った。

「中身、よさそうだったか?」

 彼はいやらしくニヤけながら親指を立てる。その表情には妙な含みがあった。

 僕らは目を合わせて笑い合い、廊下の隅っこで大声をあげて笑ってしまった。まるで世界に二人だけしか知らない秘密を共有したように。


 余韻にひたっていた僕に、ランディが急に声を落として話し出した。

「そういや……」

「ん?」

「“血塗れゾンビ”ラントルのこと、覚えてるか?」

 その声は、さっきまでの浮かれた調子とは一転、低くて真剣な響きに変わっていた。

「昨日の、あの闘技場の?」

「そう、それ。昨日の試合、やばかったろ? 魔法陣も使わずに魔法を放って、みんな“熒惑星の末裔だ”って騒いでたけど……」

「うん、確かに印象に残ってる。」

 僕はうなずいた。あの圧倒的な強さは確かに衝撃的だった。

「……その彼が死んだ。」

 ランディが口にしたその一言に、空気が一変した。

「……死んだ?」

「そう。今朝、城壁の外れにある裏路地で、焼け焦げた遺体が見つかったんだ。

 しかも、あの競技場で使ってた奇妙な長剣が、胸を貫いて壁に突き刺してあったらしい。」

 全身に寒気が走った。昨日の彼の凄まじい姿と、今の無残な末路とが頭の中で交錯する。


「……恨みでも買ってたのか?」

 僕は、少しでも理屈の通る理由を探そうとする。

「可能性はあるな。あの性格だし、敵は多そうだし。」

「それにしても……変だよな。」

 僕の脳裏を、昨日の闘技場での戦いがフラッシュバックする。

 ラントルの強さは、常人とは一線を画していた。そんな彼が、こんなにもあっさりと殺されるなんて――普通ではない。

 むしろ、あの残酷な殺され方は、まるで“見せしめ”のようだ。


 闘技場では、使用できるのは身体強化系の「Boost」のみで、体を傷つける「Overclock」は固く禁じられている。

 つまり、真の強さは魔法ではなく、体力や剣技で勝負しなければならない。

 実力者ほど、その制限に縛られて力を出し切れない――ラントルも、きっとその一人だったのだろう。

 そして彼の長剣、あの奇妙な形状の武器にも、何かまだ知られていない秘密があったのかもしれない。

 だが、その剣が今、彼の胸を貫く凶器になっていたとは……。

 一つひとつの情報が異様に思えるのに、繋がる理屈が見つからない。


 ――でも、こんなに考えて気づいた。

「……これ、僕に関係ある?」

 そう思った瞬間、妙な肩の力が抜けた。

 こんな謎に頭を悩ませるくらいなら、家に帰ってさっき手に入れたエロ本でもじっくり研究した方がずっと有意義じゃないか。

 ……何といっても、今の僕にとって最優先なのは、そっちなのだから。


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