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第四の魔女:消えた痕跡  作者: Test No. 55
第2卷 - 大学城編
62/105

6.神秘的な魔法使い一族

 神秘的魔法師家族


「さあ、第一段階の最後の試合に突入だ!」

 アリーナでは、実況の「早口ザメ(快嘴鯊魚)」が大きな声で観客に対戦相手を紹介し、場内を熱狂の渦に巻き込んでいた。

「この試合では、三連勝中で急成長中の〈血に飢えたゾンビ〉ラントルと、本日初登場の女戦士メリアールが激突するぞ!この組み合わせ、どう見る?暴風のローズ!」

 早口ザメは巧みに話題を解説パートナー「暴風のローズ」に振った。彼女も今はランキング外の選手だが、勢いは増しており、多くの人が彼女が姉「暴徒のローズ」のように日輪英雄ランキングに名を刻む日を予想していた。

 暴風のローズは喉を軽く鳴らし、真剣でプロフェッショナルな口調で言った。

「血に飢えたゾンビ、ラントル。大学都市の観客にはもうお馴染みですね。最近の三試合、いずれも圧倒的な勝利を収め、多くの注目を集めています。

 特に、彼のあの奇妙な形をした長剣は厄介な武器です。ギザギザの刃はすでに何人もの皮膚を切り裂いてきました。対戦相手は十分に警戒すべきでしょう。」


 早口ザメはうなずいて同意し、話題を切り替えた。

「では、対するメリアールはどうでしょう?本日が初登場ですが?」

「うーん……」暴風のローズはしばらく考え、慎重に答えた。

「まだ彼女の実戦を見ていませんが、登録されたデータによると、彼女は戦国スタイルの使い手です。このスタイルは“一撃必殺”を重視しており、ラントルのような連続攻撃型とは正反対です。

 彼女が相手の弱点を見抜き、一気に勝負を決められるかどうか……これは見応えのある試合になりそうですね!」

「では、両選手の準備が整いました!審判の合図とともに、試合開始です!」

 早口ザメの声が会場をさらに沸かせた。


 ラフィールは観客席に身を預け、無言で二人の戦士を見つめていた。

「血に飢えたゾンビ」ラントル――痩せぎすで背の高いその姿は、一見すると今にも折れそうに見える。だが、手にしたギザギザの長剣からは殺意が溢れており、冷たい瞳にはすでに勝者としての自信が宿っていた。

 その対面には、自信に満ちたメリアールの姿。騎士剣を握る彼女は、静けさと落ち着きを全身に纏っていた。

 観客席では、試合の結末をめぐってささやき合う声があちこちで聞こえた。ラントルの連勝継続に賭ける者、そして初登場のメリアールに期待する者――。


 審判が腕を上げた瞬間、場内は一気に静まり返った。そして合図と共に、試合が正式に開始された。

「ラントルが魔法陣を描き始めた!」

 早口ザメの声がアリーナ全体に響き渡る。観客たちは息を呑んだ。

「これは普通の選手では考えられない動きだ!アリーナでは、魔法陣を準備する暇もなく、すぐに攻撃されるのが常なのに!」

 その言葉が終わるか終わらないうちに、メリアールが驚異的な速度で動き出す。

「見ろ!メリアールが急接近!これは瞬歩斬だ!」

 早口ザメの実況に、場内の緊張が一気に高まった。全員の視線が、疾風のように駆け抜けるその影に注がれた。

 メリアールは一瞬でラントルの目前に現れ、騎士剣を振り下ろす。その刃は氷のように冷たく、鋭く光る。

 死の一瞬、ラントルは鋸剣を持ち上げ、それを受け止めた。

 刃と刃が衝突し、眩しい火花が散る――。


「おおっ!斬撃はラントルに簡単に防がれた!」

 早口ザメが驚きの声を上げる。剣と剣が交差する金属音が場内に響き渡った。

 メリアールは身軽にバク転して距離を取り、すぐに体勢を整え、再び攻撃の機会をうかがう。

「離れた!メリアールは体勢を立て直している。武技をもう一度仕掛けるつもりだ!」

 早口ザメが続ける。観客は息を殺して見守っている。

「だがラントルの動きの方が速い!」

 実況の声がさらに早くなる。

「――炎虎!」

 ラントルの叫びと共に、彼の前方に灼熱の炎が立ち上がる。猛虎の如き咆哮と共に、火炎がメリアールに襲いかかる。

 その激しさに、彼女が炎に呑まれそうになる瞬間、観客席からは悲鳴にも似たどよめきが上がる。

「跳ねた!かわしたぞ!」

 早口ザメが即座に報告する。メリアールの身のこなしは軽やかで、炎をかすめるようにすり抜けた。観客たちは冷や汗を拭いながら安堵する。

 だが――まだ安堵する暇もない。

 炎の中からラントルが飛び出し、メリアールの足取りを追うように怒濤の攻撃を浴びせる!

「なんという連携!ラントルの攻撃はまさに完璧だ!」

 早口ザメは椅子から立ち上がりそうな勢いで叫んだ。


 二人は一瞬にして激しく斬り結ぶ!

 メリアールの騎士剣と、ラントルの鋸剣が空中で火花を散らし、鋼鉄のぶつかり合う音がアリーナ全体に響き渡る。

 観客の目は一瞬たりとも逸らせなかった。

 メリアールは徐々に防戦一方となり、炎と剣による連続攻撃に追い詰められていく。

 ここで、ようやく暴風のローズが口を開いた。

「ラントルの戦い方は非常に賢明です!魔法を攻撃のカバーとして使い、相手を一気に自分のペースに引きずり込んでいます。」

 早口ザメはその隙に一口水を飲み、実況を続ける。

「ラントルは攻撃を止めない!メリアールに一瞬の隙も与えない、まるで獣のようだ!」


 ――と、そのとき、場内の空気が一変した。

 メリアールがラントルの鋭い横薙ぎを身を翻してかわし、その流れるような動きで反転、持っていた騎士剣の柄を勢いよく突き出し、ラントルの胸を強打!

「なんと!?ラントルが吹き飛ばされた!?」

 早口ザメが跳ね上がる勢いで叫ぶ。

「見事な返し!空きができた!メリアールが攻める!」

 暴風のローズも興奮気味に叫ぶ。

 メリアールはその隙を逃さず、騎士剣を振りかざした。

「迎風一刀!」

 彼女が必殺技の名を叫ぶと、観客の期待が一気に膨らむ。

 その剣は霜のように鋭く、空気を裂く音すらも生み出していた。

 その瞬間――。

 場内に強烈な閃光と煙が広がった。観客席の歓声は一気に途絶え、驚きと困惑のざわめきに変わる。


 一瞬、早口ザメは言葉を失うが、すぐに実況を再開する。

「待って、今のは一体何が起きたんだ!?」

 煙が徐々に晴れていく中、彼の声には驚愕の色が滲んでいた。

「なんと!メリアールが倒れている!手からは血が流れているぞ!」

 場内は一瞬で凍りついたかと思うと、すぐに絶叫に近いどよめきが巻き起こる。

 一方のラントルは、血に染まった剣を持ち、不気味な笑みを浮かべながらアリーナ中央に立ち尽くしていた。

「まさか……ラントルはまだ何かしようとしているのか!?」

 早口ザメの声が震える。


「血に飢えたゾンビ」の本性が、ついに露わになった。

 彼は剣を持ち直し、刃についた血を舐め取りながらさらに笑みを深め、倒れたメリアールへと猛然と突進する。

 まるでこの試合に残酷な終止符を打とうとしているかのように――。

 だが、刃が落ちる寸前、審判がまるで影のようにラントルの側に現れ、その手首をがっちりと掴んだ。

「試合は終了した。」

 審判の声は冷たく、威厳に満ちていた。

「チッ……」

 ラントルは舌打ちして審判の手を振り払うと、唾を吐き、陰鬱な表情のまま休憩エリアへと引き下がっていく。

 その手首には、審判の掴んだ痕がくっきりと残っており、彼は内心でその速度と力に戦慄していた。

「……あの審判、いったい何者だ……」

 ラントルは低く呟きながら、手首の痛みを感じていた。それが、相手の恐ろしさを物語っていた。


 そのとき、暴風のローズが真剣な表情で、先ほどの危険な場面について解説を始めた。

「もしラントルが遅延型の魔法を使ったとすれば……いや、その可能性は低いでしょう。おそらく――彼は火系の“熒惑星一族”の出身です。」

「熒惑星一族だって!?」

 早口ザメが思わず叫ぶ。目は好奇心で輝いていた。

「長らく姿を見せなかった伝説の一族だぞ!今日は観客の皆さん、本当に貴重なものを目にしましたよ!魔法陣を必要としない魔法、これは滅多に見られるものじゃない!」

 その一言が火をつけたかのように、アリーナは一気に沸騰した。

 観客たちは騒然となり、さっきの光景が本当に彼女の言った通りなのか、確かめようとざわめきが止まらなかった。

 興奮する者、信じられないという者、そして――ラントルの方を見つめ、畏怖の表情を浮かべる者。

 彼が休憩エリアに向かって歩くだけで、誰もが圧倒されるような気迫を感じた。それはまるで、彼の一歩一歩がその実力と神秘性を証明しているかのようだった。



 長い歴史の中で、かつてこの世界には「御三家」と呼ばれる三つの家系が存在した。

 その名は――炎雷の家系、寒氷の家系、大地の家系。

 それぞれの家系は、計り知れない力を持ち、名の通りの神秘的な“守護霊”を祀っていた。

 その存在は伝説と神話に包まれ、真実を知る者はごくわずかだった。


 炎雷の家系――別名「熒惑星一族」。

 日誉王朝の王族と深く関わるこの一族の守護霊は、嵐の中に燃える炎のように猛り狂い、炎と雷を司っていた。

 時に暴風のようにすべてを焼き尽くし、時に鋼鉄のように冷静に敵を打ち砕く。

 その名はかつて天をも轟かせ、人々を震え上がらせたが――

 王国の崩壊とともに姿を消し、今や古の伝説として語られるのみとなっていた。


 寒氷の家系――通称「ストレル氷熊一族」。

 代々、大学都市を守護してきた彼らは、冬の極致のような力を持ち、天地を凍てつかせることができる。

 その守護霊は極地の冷気そのものであり、感情を表に出すことはないが、全てを破壊する恐るべき力を秘めている。

 最も知られているのは、二十年前の「氷河期事件」での活躍。

 終末の魔女を討伐するため、一族の血をほとんど燃やし尽くし、勝利と引き換えに姿を消した。

 その英雄的な行動は、今もなお語り継がれる伝説の一部である。


 大地の家系――別名「石獅子一族」。

 現在も戦国を統べる皇族であり、大地そのものから力を得る彼らは、岩のように動かず、だが世界の根幹すら揺るがす力を秘めている。

 その守護霊は、地の底から響く震えのように無言で在り続ける。

 彼らは、いまだに歴史の舞台で生き続けている唯一の御三家であり、その影響力は深く広く、誰もが一目置いている。


 王朝の崩壊とともに熒惑星一族の王族は姿を消し、寒氷の家系は終末の戦いで散り――

 今や、御三家と呼ばれる名は、大地の家系ただ一つに帰した。

 だが、人々が炎雷の一族はすでに滅びたと思っていたその時、突然ある情報が広まった。

 ――熒惑星一族の継承者が現れた、と。

 その知らせは雷鳴のように世界に轟き、会場を揺るがした。

 かつて滅びたと思われていた一族の再来に、人々は衝撃を受けた。

 そして誰もが予想できなかった。

 この継承者が、これからの世界に、どのような嵐を巻き起こすのか――。


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