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第四の魔女:消えた痕跡  作者: Test No. 55
第2卷 - 大学城編
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4.こんなにも懸命に生きる学生がいたなんて

挿絵(By みてみん)

 原來有這麼努力生活的學生


 まもなく、ラフィエルは大学都市で初めて興味を引かれる人物と出会った。

 ある授業中、先生がグループ発表の課題を出したのだ。

 いつも一人で行動していたラフィエルにとって、これは最初から捨てるつもりの課題だった。

 だがその時、まるで近所の妹のような雰囲気を持った女子生徒が、勢いよく彼の前に立ちはだかり、遠慮もなく言った。

「ねぇ、あんた、うちのグループに入りなさいよ。」

「……」

「聞いてんの?」

「うん、どっちでもいい。」

「よし、決まりね。」


 ラフィエルは特にこだわりもなく、その三人グループに加わった。

 そのグループのリーダーは、先ほどの勢いのある女子生徒であり、彼女は教室の中でもひときわ目立つ存在だった。

 彼女は今回のグループ課題の主導者であるだけでなく、クラス公認の「班長(クラス委員)」でもあった。

 生まれながらのリーダー気質を持ち、自然と人目を引く学生だ。

 彼女はいつも教室の最前列に座っており、努力しなくても注目を集めるような存在感を放っていた。

 授業中の発言でも、試験でも、常に優れた成績を残し、先生からの評価も高かった。

 彼女のそんな姿は、クラスメイトたちの間でも尊敬と憧れの対象となっていた。

 班長は小さなメガネをかけており、その眉間には自信と、どこか他人を寄せつけない威厳が漂っていた。

 昨年、彼女は優秀な成績でこの学校に入学し、自力で奨学金を獲得したという。

 その事実が、彼女のクラス内での地位をより一層揺るぎないものにしていた。

 彼女の「優秀さ」は、誰にも無視できない光のように、周囲を圧倒していた。

 彼女はメガネ越しにラフィエルを鋭く見据え、はっきりと言った。


「授業中、ぼーっとしてるよね? でも出席さえしてくれればいいわ。あんたの分は私がやるから、発表の日だけは絶対に来てよね。」

 そう言うと、班長はすぐに他の二人のメンバーと発表の内容について話し合い始めた。

 その様子をぼんやりと眺めながら、ラフィエルは内心つぶやいた。

 ――なるほど、俺はただの人数合わせってわけか。まあ、単位が取れりゃそれでいいか。



 週末のある日。特に変わり映えのしないその日は、空がどんよりと曇っていた。

 今にも雪が降りそうな雰囲気だったが、なかなかその気配は現れなかった。

 大学都市の冬はマクィス城に比べてずっと短く、雪の季節は二ヶ月にも満たないと言われている。

 退屈していたラフィエルは、冬用の上着を羽織り、気分転換に「城外区」へと出かけることにした。

 ラフィエルは特に目的もなく街を歩き続け、ただこの都市の中をぶらついていた。

 寒さの中でも通りには人があふれ、街は相変わらずにぎやかだった。

 店の灯りがともり、屋台からは香ばしい食べ物の匂いが漂ってくる。

 その賑わいと笑い声は、マクィス城の市場を思い出させるような懐かしさを含んでいた。

 ふと小道を抜けたそのとき、ある香りが鼻を突いた。

 どこかで嗅いだことのある、心を揺さぶる香ばしい匂い――

 彼は思わず立ち止まり、その香りのもとを探して歩き出した。


 小さな路地の角にある屋台から、熱々の「さつまいも団子(地瓜球)」が湯気を立てながら並んでいた。

 揚げ油の中できらきらと輝く金色の皮が、宝石のように魅力的に見える。

 団子が油に落とされる瞬間、「ジュッ」と音が弾け、油面に波紋が広がる。

 それはまるで、さつまいも団子が自分の物語をささやいているかのようだった。

 ラフィエルはじっとその光景を見つめながら、思わず過去を思い出していた。

 幼い頃、トムリンが家族を連れて市場を巡り、様々な屋台の味を楽しませてくれた日々。

 この香りは、そんな温かな記憶の扉をそっと開いた。


「こんにちは、さつまいも団子を一つください。」

「はいはい。」

 腰を曲げたおばあさんは、干からびた老松のような佇まいながらも、にこにこと笑みを絶やさず、揚げたてで湯気の立つさつまいも団子を紙袋に入れて手渡してくれた。

 ラフィエルがそれを受け取ろうと手を伸ばした瞬間、不意に視界の端で何かが目に留まり、思わず動きを止めた。

 そこにいたのは――クラスでもひときわ優秀で、いつも鋭い眼差しと堂々とした態度で知られる女子班長だった。

 彼女が、なんとこの目立たない小さな屋台の裏側で、黙々とさつまいも団子の準備をしていたのだ。


 彼女はうつむいたまま、油鍋の中で跳ねる金色の小さな団子を手早くかき混ぜ、網杓子でカラリと揚げた丸い団子を次々に紙袋へと詰めていく。

 その動作は実に手慣れていて、淀みが一切ない。

 普段、教室で冷静に発言し、指示を飛ばす彼女の姿と重なりながらも、どこか違和感を覚えさせる光景だった。

 彼女の髪はざっくりと後ろでひとまとめにされ、数本の髪は汗で頬や首筋に張り付いている。

 前髪は跳ね上がり、うっすら白い粉がついていた――恐らくはふき残したさつまいも粉だろう。

 体には少し大きめの古びた上着を羽織り、動きやすいように裾は結ばれている。

 布地には油や汗の染みが無数にあり、長年の使用と油煙で色褪せて、もはや元のデザインさえ分からないほどだった。

 この姿の彼女は、あの教室で名簿を片手に眉をひそめる模範生とはまるで別人だった。

 そこにいるのは、威厳に満ちた学業優秀な班長ではなく、夜市の一角で黙々と働く、煙と油の匂いにまみれたひとりの普通の少女だった。


 ラフィエルはしばらく呆然とその姿を見つめていた。視線をなかなか逸らすことができず、何度も心の中で確認した。

 本当に、彼女だった。普段の姿からは想像もつかない、こんな場所で――それでも間違いなく、彼女だった。

 彼は声をかけることもなく、その場に長居することもなかった。

 おばあさんから受け取ったさつまいも団子の袋を抱き、そっと背を向ける。

 湯気の立つその袋を手に、雑踏の中へと歩き出した。

 胸の奥に広がったのは、言葉にできない、妙な感情だった。



 空は次第に暗くなり、街路には灯がともり始め、夜の雰囲気が街を包み込んでいた。

 ラフィエルはぶらぶらと歩き続け、やがて一軒のこぢんまりとした家庭的な食堂の前で足を止めた。

 店の外観は質素で、派手な装飾はなかったが、窓枠も扉もきれいに磨かれており、どこか温もりを感じさせる雰囲気があった。

 ラフィエルは少しだけ立ち止まった後、静かに扉を開けて中へ入った。

 店内は広くはなかったが、ほとんどのテーブルが埋まっており、木の家具を照らす灯りは柔らかく、心地よい空気が漂っていた。

 彼は店員が忙しく立ち回っているのを見て、そっと一枚のメニューを手に取り、空いている隅の席へと腰を下ろした。

 メニューに目を落としながら、ゆっくりと何を頼むか考えていた。


 しばらくして、水を持った店員が慌ただしくやって来た。

 その顔には、少し疲れの色が浮かんでいた。

「お待たせしました。ご注文はお決まりでしょうか?」

「これと、このスープで。」

 ラフィエルは落ち着いた口調で、シンプルに二品を注文した。

 店員は素早くメモを取り、すぐに去っていった。

 ラフィエルの視線はぼんやりと宙を漂い、時間がゆっくりと流れていくのを感じていた。

 料理が運ばれてくるまで、彼は何も考えずにただ座っていた。

「ご注文の品になります……」

 耳に入ったその声に、ラフィエルはふと顔を上げた。

 そして――店員と目が合った瞬間、互いに驚きで動きを止めた。

「……班長?」


 彼がそう問いかけると、そこに立っていたのは紛れもなく、いつもクラスを引っ張っている、あの班長だった。

 彼女はエプロン姿で、口元にはかすかな驚きが浮かんでいた。

 しかし、何も言わず、料理をテーブルに置くと、そのまま足早に去っていった。

 まるで何かを隠すかのように。

 ラフィエルは彼女の背中を見送りながら、ふといたずら心を抱いた。

 彼はゆっくりと食事を取りながら、時折彼女の様子をうかがった。

 この完璧主義の優等生が、慣れぬ場所でどんな顔を見せるのか――

 それを見てみたくなったのだ。


 夕食の時間が過ぎ、店内はがらんとしていた。

 数灯の淡い明かりがテーブルを照らし、外からの物音も遠のいていた。

 最後の扉の音が背後で閉じられたとき、班長が厨房から怒った様子で出てきた。

「……一体、何が目的なの?」

 彼女は腰に手を当て、眉をひそめてラフィエルを睨みつけた。

 ラフィエルは木製のカップを軽く揺らしながら、穏やかに微笑んだ。

「もう閉店の時間?」

 班長はなんとか感情を抑えつつ、水差しを手に取り、彼のカップに水を注いだ。

 そして、勢いよく水差しをテーブルに叩きつけるように置いた音に、ラフィエルは慌てて両手を上げて降参のポーズをとった。

「えーっと……今日、君がさつまいも団子を売ってるのを見たよ。」

 ラフィエルは恐る恐る切り出した。

「わざわざ残って笑いに来たわけ?」

 班長の目がさらに冷たくなる。

「いや、あの……けっこう美味しかったって、言いたかっただけ。」

 その一言で、班長は一瞬ぽかんとした表情になった。

 緊張した顔が少し和らぎ、口元にわずかにためらいがちな笑みが浮かんだ。


 そのとき、厨房から別の声が聞こえてきた。

「お客さんまだいるの?……あら、小菲シャオフェイ、お知り合い?」

 調理場から顔を覗かせたのは、優しげな中年女性だった。

 コック服姿で、表情には人懐っこい笑みが浮かんでいる。

「まぁ……同級生ってところ。」

 班長――シャオフェイは少し気まずそうに答えた。

 どこか居心地悪そうな口調だった。

「じゃあ、ちょうどいいわね。小菲、少し休んで彼とゆっくりお話ししなさいな!」

 女性は返事も待たずにそう言い切り、明るく厨房へと戻っていった。


 厨房の扉が閉まると、二人の間に少しの沈黙が流れた。

 やがて、ラフィエルがその静けさを破るように口を開いた。

「君、昼間は屋台、夜はこの店で働いてるの?」

 シャオフェイはわずかに眉をひそめ、素直に答えた。

「夜は毎日ここで働いてる。昼間は学校、週末だけ祖母の屋台を手伝ってるの。」

「祖母……なのか?」

「見た目でそう思った? 違うわよ。」

 シャオフェイは目をくるりと回し、どこか呆れたように言う。

「私はこの店で働いてるだけ。さっきのおばあさんは、店長の母親。」

 ラフィエルは軽くうなずき、さらに訊ねた。

「勉強する時間はあるのか?」

 シャオフェイは大きく息をつき、少し疲れた目で答える。

「やりくりするしかないわ。店が閉まってからが勉強時間よ。毎日忙しいけど……。

 それより、あんた今日は一日中ぶらぶらしてただけ?」

 その言葉にラフィエルは気まずくなり、思わず照れ笑いを浮かべた。

 シャオフェイの表情がきゅっと引き締まり、声の調子が真剣になる。

「ねえ、大学都市で勉強するのって、すごくお金がかかるんだから。

 あんたの親は、きっと苦労してここまで送ってきたんでしょ? だったら、少しは授業を真面目に受けなさいよ。

 私は働きながらじゃないと、ここで学ぶことすらできないのよ。」


 その言葉に、ラフィエルの胸は不意に締め付けられた。

 自分は今まで、そんなことを一度も深く考えたことがなかった。

 家庭の事情から、金銭に困ることはなかった彼にとって、彼女の生活はまるで別世界のようだった。

 初めて知る「懸命に生きる誰か」の姿に、ラフィエルの中で小さな敬意が芽生え始めていた。

 ラフィエルは、恐る恐る口を開いた。

「えっと……あのグループ発表、俺にも何か担当させてもらえないかな?」

 シャオフェイは彼をじろりとにらみつけ、眉をひそめる。

「……あんたが? 私の目標は学年トップよ。」

「少しだけ、最初は小さな部分だけ任せて。確認してから、続けるか判断してくれていいから。」

 ラフィエルは真剣な表情でそう言った。

 シャオフェイは数秒間じっと彼の目を見つめたあと、ようやく少しだけ笑みを浮かべてうなずいた。

「……わかった。」

 そう答えると、彼女は足早に階段を駆け上がっていった。

 しばらくして、彼女は分厚い資料と本の束を抱えて戻ってきた。

 それをラフィエルに手渡しながら、きっぱりと言う。

「ここ、お願い。わからないことがあったら私に聞いて。」

 ラフィエルは受け取った資料の重みに、少したじろぎながらもうなずいた。

 その腕に抱えた分厚い紙束は、まるでこれから始まる挑戦の重さを象徴しているようだった。

 その夜、彼はその資料を大切に持ち帰り、自室の机の前に座った。

 そして初めて、分組発表という「他人の課題」に心を向けた。

 これまで無関心だった「学び」の世界に、ほんのわずかでも自らの意志で踏み出したこと。

 それはラフィエルにとって、大きな一歩だった。

 彼の心には、期待と少しの不安が混じり合い、

 けれど確かに――彼は、明日を少しだけ真剣に見ようとしていた。

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