27.1 ハンターの結末(2)
姐御に関して、トムリンはギルドの記録を確認し、彼女が孤児であり、身寄りがないことを伝えた。
その死を悼む者は誰もいなかった。彼女の葬送は、ギルドの手によって粛々と進められることとなった。
見習いの少女の事情は、さらに胸を締め付けるものだった。
彼女には、重病を患う父親が一人残されているだけだった。
トムリンは、その老いた父が娘を失った悲しみにどう耐えるのか、想像すらできなかった。彼自身がその訃報を伝えに訪れたとき、老人の目に溜まった涙はすべてを語っていた。言葉は、もう必要なかった。
トムリンは決断した――この老人を城内の療養院へ迎え入れ、最善の看護を受けられるようにすることを。何も埋め合わせることはできなくても、せめて彼の最期の時が少しでも穏やかなものであるようにと。
老兄のことは、ラフィルが自ら手配した。
屋敷の庭には、ふたりで過ごした日々の痕跡がまだそこかしこに残っていた。草の間を通る風は、まるでかつての記憶を語りかけてくるようだった。
ラフィルは、老兄をその場所に埋葬した。ふたりが遊び、育ち、絆を深めた大地――太陽と風と笑いが交差したその庭に。
今、その笑い声は消え、思い出だけが風の中に残っている。庭を吹き抜ける風音だけが、彼の唯一の語り相手となっていた。
寒風は刃のように肌を切り裂き、骨の奥まで染み渡ってくる。マルクス城の外――「栄誉の丘」と呼ばれるその地には、空の色すら沈み込んでいた。まるで空さえ、この日を悼むかのように、薄く灰色の霧に覆われていた。
その丘は、城外にひっそりと佇んでいる。名前こそ壮大だが、実際は静けさと荘厳さに包まれた場所である。丘の上には無数の石碑が並び、それぞれに一人ひとりの無名のハンターたちの物語が刻まれていた。
その日、一つの新しい石碑の前に、小さな集まりができていた。風の音が耳元で泣くように吹き抜け、まるで天地そのものが彼らの死を悼んでいるかのようだった。
新たな石碑には、簡素な言葉が刻まれていた。
狩猟隊 鋼の心
アクセル(Axel)
エリノア(Eleanor)
デレク(Derek)
ジャナ(Jana)
勇敢なる狩人たち――その魂は、恐れを知らぬ精神と共に。
骨壺と遺品は静かに安置され、神官の祈りの声が寒風に震えながら響いた。質素で静かなハンターの葬儀は、厳かに、そして淡々と終わりを迎えた。
イヴェットは静かにアクセルの両親を馬車に乗せた。多くを語ることはなかったが、その一つ一つの動作が深い慰めとなっていた。
一方、トムリンはデレクの妻と幼い二人の子どもたちを気遣いながら、手を添えて馬車に導いていた。
車輪が軋みを上げながら動き出す。人々は静かにその場を離れ、再び「栄誉の丘」は静寂に包まれていった。
その中で、ラフィルだけが石碑の前に立ち続けていた。
動かず、ただその石碑を見つめていた。まるで、その冷たい石に魂を縛られてしまったかのように。
そこには、彼の心に刻まれた無数の思い出が浮かび上がっていた。ともに笑い、戦い、そして失った仲間たちの顔――それらがまるで石の中から現れてくるかのように。
現実がまだ信じられない。ともに歩んだ仲間たちが、ここに眠っているという事実を、どうしても心が受け入れられなかった。
家族は彼の背後で、黙って寄り添っていた。何も言わず、ただ静かに、そばにいた。彼らにはわかっていた。これはラフィルと彼自身の悲しみとの対話であり、乗り越えるには時間が必要だということを。
冷たい風が衣の裾をそっと撫で、空からは細かい雪が舞い始めた。白い粉雪が、すでに冷え切った大地をさらに静かに覆い尽くしていく――まるで哀しみの帳のように。
トムリンは静かにラフィルのそばへと歩み寄り、ゆっくりと傘を広げた。降りしきる雪から、彼の肩をそっと守るように。
その声は穏やかで温かく、まるで冷え切った心を呼び戻そうとするかのようだった。
「……もう、言いたいことは全部言えたか?」
ラフィルは答えなかった。ただ、石碑を見つめ続けていた。
トムリンはその沈黙を理解していた。だから無理に答えを求めず、優しく続けた。
「……俺たちは待ってる。気持ちが整理できたら、戻ってこい。」
そう言って、彼はラフィルの肩を軽く叩いた。その何気ない仕草には、深い思いやりと静かな支えが込められていた。
家族は雪の中、じっと彼のそばに立っていた。風は強くはなかったが、その景色は深く胸に染み入るような静寂に満ちていた。
その沈黙を破ったのは、イリーザの声だった。
あどけなさの残る声に、疲労と哀しみが滲んでいた。
「……お兄ちゃん、わたし、つかれた……。さむいよ。……かえろ?」
彼女の小さな手が、ラフィルの手をぎゅっと握った。
その瞬間、ラフィルはようやく現実に戻ったように、はっと我に返った。
下を向くと、そこには自分をじっと見つめるイリーザの瞳があった。彼の視線に、微かな優しさと痛みが交錯する。
ラフィルは、力なく微笑んだ――それは妹への唯一の返事だった。
彼はイリーザに手を引かれるまま、石碑から一歩ずつ遠ざかっていった。
その足取りは重く、しかし確かに前へと進んでいた。
背後では、風と雪が静かに舞い、別れの時を無言で見送っていた。
それからの半年間、ラフィルはまるで抜け出せない影の中に閉じ込められたかのように過ごしていた。
毎日を、彼は家の中に閉じこもり、まるで外の世界が意味を成さなくなってしまったかのようだった。
食事の時間には家族と同じ席についたし、ときおり妹のイリーザに手を引かれて散歩に出ることもあった。だが、その姿は、魂を失った亡霊のようにしか見えなかった。
彼の目は虚ろで、言葉はほとんどなかった。
家に戻れば、ベッドに倒れ込むように寝転がり、天井を見つめては沈黙し続けるか――あるいは、老兄がかつて過ごしていた小さな小屋の屋根に登り、そこでただ時が過ぎるのを待っているだけだった。
父・トムリン、義母・イヴェット、そして祖母のアメリンは、交代で何度も彼を励まそうと声をかけた。優しい言葉、時に厳しい言葉――しかし、どれも彼の心の闇には届かなかった。
その痛みは、まだ十五歳の少年には到底抱えきれないほど大きすぎた。
彼の胸の奥には、言葉では届かない重みがのしかかっていた。誰がどれほど努力しても、彼は悲しみの記憶から抜け出せずにいた。
日に日にやつれていくラフィルを見て、家族の不安は募る一方だった。
そんなある日、祖母アメリンが一つの提案を持ちかけた――ラフィルを〈大学都市〉へ留学させるというものだった。
この悲しみに満ちた土地を離れれば、彼の心にも少しは安らぎが訪れるかもしれない。新たな環境、新しい出会い、新しい生活が、若い魂に再び生きる意味を与えてくれるかもしれない。
トムリンは慎重にその提案をラフィルに伝えた。
すると、誰もが予想しなかったことに――ラフィルはほとんど感情を見せなかった。
ただ静かに話を聞き、そして小さくうなずいただけだった。
その姿はまるで、どこに行こうと何も変わらない――そんな諦めにも似た空虚さに包まれていた。
家族はその静かな反応に、ある種の安堵すら感じていた。だが、思わぬところで、心が大きく揺れる出来事が起きた。
それは――イリーザの涙だった。
ずっと兄に甘えてきた小さな彼女は、ラフィルが遠くへ行くと知った瞬間、大声で泣き始めた。
「やだ……やだよ、おにいちゃん、いかないで……!」
すすり泣きながら、彼の手をぎゅっと握り、必死に首を振る。大粒の涙が次から次へと零れ落ちて止まらなかった。
その泣き声は家中に響き、空気をいっそう重く、張りつめたものに変えていった。
ラフィルは彼女を見下ろし、目にかすかな優しさを浮かべた。しかし、何も言葉を返さなかった。
彼はそっと手を伸ばし、イリーザの涙を拭おうとしたが、最終的にはただその小さな手を静かに握り締めただけだった。
言葉はなかった。
それが、ラフィルにとって――この痛みから逃れる唯一の道だったのかもしれない。
しかし、イリーザにとって、それは受け入れ難い、もうひとつの別れとなった。




