26.アクセルの走馬灯
阿克賽爾的跑馬燈
*アクセル(Axel)
爆発音が響いた瞬間、世界が一秒だけ静止したように感じた。……爆弾の数が、思ったより少ない?
そんな妙な考えが頭をよぎった。意識はまるで濃霧に包まれたようにぼやけ、身体は凍りついたかのように動かず、かろうじて残った微かな意識だけが、今の自分を支えていた。他の感覚は、すべて奪われてしまったようだった。
なんとか力を振り絞って左目だけを開けた。右目は何も見えない。血と埃で塞がれているのだろう。視界は酷く曇っていて、汚れた灰色の空が広がっているだけだった。
「この薄汚い空……見るだけで嫌になるな。」
そう心の中で呟いてから、ふと気づいた。
「ん? 俺、生きてるのか?」
そういえば、爆発の直前に――エリノアが俺を突き飛ばしたような……。あの乱暴者め、また俺に何も言わず勝手に決めやがって。少しムカつくな……。
一緒に逝けたら、それはそれでロマンチックだったのに……どうせ、思い切り蹴り飛ばしてくれたんだろ。あいつらしいよ、まったく。
視界の端に何かが映った。あの黒潮……あの巨大な黒い怪物が、まだ遠くに見える。どうやってこんな化け物に抗うことができたんだ? だが……なぜだ? あれ、なんだかふらついてるように見えるぞ?
必死に目の焦点を合わせると、かすかに人影がその怪物の上を動き回っているのが見えた。視界がぼやけていてはっきりしないが――そいつは……飛んでくるミサイルを十発、一閃で斬り落としたように見えた?
あり得ない。だが、あの黒潮は爆発を繰り返しながら後退しているようにも見える。まるで、何かに追い詰められているような……。
それはあまりに現実離れしていて、まるで夢でも見ているようだった。
目をこすったり、自分をつねって確認できればよかったが、俺の意識はもう左目しか動かせない。耳には耳鳴りしか響かず、世界は遠く、ぼやけていた。
……まさか、黒潮が逃げてる? 一人の人間に、撃退されるなんて――そんなバカな話があるか?
どれくらいの時間が経ったのか分からない。気がつけば、空はもう暗くなっていた。
「そろそろ……限界か。」
まぶたがどんどん重くなっていく。意識が遠のき、全てが俺を闇の中へと引きずり込んでいくようだった。
視界は霞んでいき、霧がかかるようにぼやけていく。その中で、次々と断片的な映像が頭の中に流れ込んできた。まるで走馬灯のように――人生の記憶が駆け抜けていく。
懐かしい顔たち。もう取り戻せない日々。
これが……走馬灯ってやつか……
「父さん、母さん……親不孝な息子でごめん。先に行くよ。」
心の中で呟く声は、遠い過去への別れの言葉だった。悔しさと謝罪の気持ちに満ちていた。
来世では、ちゃんとそばにいるから――許してくれ……
次に浮かんだのは、城主夫人の姿だった。あの微笑みが、記憶の奥にぼんやりと残っている。
……俺、ちゃんとしたハンターになれたのかな。育ててくれてありがとう。任務は果たせなかったけど、本当にごめんなさい。どうか……約束通り、うちの両親を頼みます……
そして最後に浮かんできたのは、エリノアの名前だった。
その名は、羽のようにふわりと心の中に舞い落ち、やがて消えていった。
――そのとき。
狭まっていく視界の中に、一つの人影がふいに現れた。
彼女はそこに立ち、じっとこちらを見つめていた。その目は冷たくも、どこか言葉にできない感情を含んでいた。審判のようであり、哀れみにも似ていた。
俺は必死にその輪郭を見ようとした。銀色の短髪が、闇の中でかすかに光を反射していた。その顔立ちは彫刻のように整い、冷たく、完璧だった。
声を聞きたかった――だが、耳鳴りが全てをかき消していた。世界には、もう音がなかった。
彼女の唇がかすかに動いた。何かを語りかけていた。でも、俺にはそれが何なのか分からない。
彼女は、一本の細身の剣を掲げた。
銀白の刀身が、かすかな光を受けて煌めく。その動作はゆっくりとしていながら、奇妙なほどに優雅だった。
剣の切っ先が闇を裂くように、細い隙間を生み出す。
そして、剣が振り下ろされた――
その瞬間、俺の意識は、糸がぷつりと切れたように途絶えた。
無数の記憶が灰のように崩れ落ち、無音の闇の中に、静かに消えていった。




