表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
第四の魔女:消えた痕跡  作者: Test No. 55
第1巻 - ハンター編(獵人篇)
43/105

23.次々と(1)

挿絵(By みてみん)

 接二連三


 見習いの左腕からは鮮血が流れ、顔は青白く、唇からも血の気が失せていた。

 姐さんはすぐさま傷口を押さえ、応急止血を試みながら、隊長に向かって包帯を急ぐよう促した。

 包帯の巻き作業が半ばに差し掛かったその時、遠くから爆音が連続して響いた。

 廃墟中に轟き渡る爆発音は耳をつんざき、誰もが一瞬、息を呑んだ。

「……今のは?」

 隊長は手を止め、眉間に皺を寄せた。警戒心がその瞳に宿る。

 姐さんも顔を上げ、険しい表情で言った。

「まさか……ガキたちが黒潮に襲われたんじゃ……?」


 ───数分前───


 一方その頃、現場に残っていたガキは両手を動かし続けていた。手元にある簡易的な道具で、オッサンの止血処置をしようとしていた。

「おいおい、ガキ、それじゃ包帯の巻き方が違うっての!」

 オッサンは顔をしかめながら、痛みにうめき、右手を使って若者に何とか指示を出そうとした。

「これで……合ってると思うけど……」

 額の汗をぬぐいながら、ガキは自分の処置に不安そうな声をもらした。

 オッサンは目を閉じ、苦しげに深呼吸した後、地面からゆっくりと立ち上がった。

 左肩の激痛はナイフで切られるように鋭く、左腕をほとんど動かすことができなかった。

 体を揺らしながらなんとか姿勢を整えると、ガキに向かってこう言った。

「とりあえず、今はこれでいい。……“宝物”を探すぞ。」

 二人はすぐに山突獣の残骸の中を漁り始めた。


「見つけたぞ!」

 オッサンが喜びの声を上げ、壊れた杖を高々と掲げた。

 その杖には大地の色をした駆動石が埋め込まれており、滑らかな表面がかすかな光を放っていた。

 この高級な駆動石のサイズと輝きは、それがいかに貴重なものであるかを物語っていた。

「こんなデカい駆動石は、そうそうお目にかかれねぇ……」

 興奮気味に石を見つめるオッサンは、一瞬痛みを忘れたかのようだった。

 一方で、ガキの視線は足元のかすかな光に引き寄せられた。

 彼はしゃがみ込み、残骸から小さな輝きを放つ物体を掘り出した。

「これも……中級くらいのレベルはあるかも――」

 言い終わる前に、彼は気づいた。

 地面に、見慣れぬ三つの影が落ちていることに――

「ドォン!ドォン!ドォン!」

 三連の爆発音が静寂を引き裂き、爆弾が上空から降り注いだ。

 彼らが立っていた場所は、次の瞬間には炎と煙に包まれた。

 オッサンは恐怖に駆られながら、ガキの姿を探して辺りを見渡した。

 そのとき、彼の目に映ったのは――巨大な盾を構えて爆風を受け止めるガキの姿だった。


「お前、そんなことしたら腕が折れるぞ!」

 オッサンは低い声で叫び、焦りを滲ませた。

「大丈夫。体は強化してあるから。」

 右手で重い盾を握りしめ、左手で顔についた灰を拭うガキの声は、驚くほど冷静だった。

 その姿を見て、オッサンは感嘆混じりに舌を鳴らす。

「動き出すの、早すぎだろ……!」

 ガキは盾を降ろし、身をかがめて素早く地面を転がるようにして低い壁の陰へと身を滑り込ませた。

 そして壁の隙間からそっと覗きこみ、敵の動向を探る。

「……あれは……大砲を背負った虎か……?」

 彼が低くつぶやく。


 遠くの高台には、一体の黒潮がじっと戦場を見下ろしていた。

 それはまるで巨大な黒い虎のような怪物で、金属の身体には虎のような縞模様が浮かび上がっている。

 その体躯は恐狼よりもはるかに大きく、背中の砲口からはまだ黒煙が立ち上っていた。

 オッサンは身を低くしながら、警戒を込めて言った。

「間違いねぇ……あれは“コード2級”だ。見たこともねぇタイプだぞ……」

 ガキも小さく頷く。

「僕も初めて見る……」

 そう言いながら、背中の手が静かに弓に伸びる。

 彼はオッサンの方を振り返り、決意に満ちた眼差しで言った。

「隊長たちはもう追撃に出てる。この場は僕らだけでなんとかしないと。」

 オッサンは首を横に振り、不安を隠せない表情で答えた。

「相手はコード2級の黒潮だぞ……命が惜しくないのか?」

 だが、ガキの目には一切の迷いがなかった。

「……このまま煙が晴れたら、こっちの位置がバレて逃げられない。」

 彼の目には、高台にいる焰虎の姿がはっきりと映っていた。

「背中の大砲の横にある2つの突起物……あれが弱点に見える。」

 オッサンは黙った。

 この状況下では、彼も他に選択肢がないことを理解していた。

「煙が晴れたら、お前は飛び出して奴の注意を引いてくれ。」

 ガキはすばやく作戦を口にした。

「僕は側面から回り込んで、急所を狙う。」

 オッサンは一言も返さず、静かに頷いた。

 二人はそれぞれの持ち場へと散り、それぞれの戦いに挑むこととなった。



 黒い巨虎は高台の上に立ち、まるで狩人のように煙が立ちこめる戦場を静かに見下ろしていた。

 その瞳は鋭く冷たく、最後の脅威を探しているかのようだった。

 周囲の動きが完全に静まったのを確認すると、巨虎はゆっくりと歩みを進め始めた。

 一歩一歩が重々しく、まるでこの地を支配する王の行進のようだった。

 爆風の煙が徐々に晴れていく。

 その薄闇の中、ひとすじの淡い光がチラリと閃く。

 その瞬間、煙の向こうから土岩弾が流星のごとく放たれ、巨虎に向かって一直線に飛来した。

 だが、巨虎は即座に反応し、鋭い鉤爪で土岩弾を容易く叩き割った。

 次の瞬間、巨虎は天を裂くような咆哮をあげた。

 その低く重い咆哮は山崩れのように響き、地を揺らし、黒い粉塵が四方に爆発するように広がっていく。


 濃厚な黒塵が空気を覆い、視界をさらに濁らせたそのとき――

「こっちだ、コラァ!こっち来いや、バカ野郎!」

 煙の中から飛び出したのは、巨大な盾を構えて突進するオッサンだった。

 声高に叫び、焰虎の注意を引く。

 焰虎は冷たい目でオッサンを見下ろし、標的を定める。

 背中の火砲がゴゴゴ……と鈍く回転を始め、ギアのきしむような音が響き渡る。

 そして――

「ボン! ボン! ボン!」

 三発の榴弾が放たれた。

 怒りの火焔のように、長い尾を引いてオッサンめがけて降り注ぐ。

 オッサンの瞳孔が縮まり、咄嗟に叫んだ。

「うわっ、マジかよ!」

 転がるように地面を這いながら、辛うじて榴弾の直撃をかわす。

 炸裂した火焔が背中をかすめ、熱風が肌を焼いた。

 だが、オッサンはにやりと笑い、額の汗を拭いながら言った。

「……完璧な囮だぜ。」


 その頃、ガキは静かに身を潜め、廃墟の陰で息をひそめていた。

 右手には短剣を握りしめ、それを足元の魔法陣の中心にそっと差し込む。

 彼の視線は一点を捉えたまま、微動だにしない。

 今が唯一の好機――それを誰よりも分かっていた。

 焰虎があらかじめ計算された位置まで進んできたその瞬間、彼は低く唱えた。

「氷花の開花――」

 短剣に埋め込まれた駆動石が、魔法陣と共鳴し光を放つ。

 蛇のように地面を這う凍結の模様が、静かに、だが確実に焰虎の足元へと伸びていく。

 そして、ついに焰虎の右後脚に触れた瞬間――

 氷の花が一斉に咲き誇るように、霜が爆発的に広がり、その足をがっちりと凍りつかせた。

 焰虎は怒りの唸り声を上げ、脚を振り上げようとするが、凍結がそれを許さない。

 ――これこそ、ガキが待っていた一瞬。

 彼は低い壁を飛び越え、素早く弓を引く。

 狙いは――焰虎の背中、大砲の横にある突起部。

 息を止め、渾身の力で矢を放った。

 矢は弧を描きながら飛翔し、狙いを外すことなく突起に命中――

 轟音と共に背中が爆発した。

 火花が散り、焰虎の体が大きくのけぞる。


 命中が確認されると、ガキはすぐさま次の一手に移った。

 彼の視線は焰虎の頭部、――その鋭い眼に向けられる。

 すぐに二本目の矢を番え、力を込めて引き絞る。

 だがその瞬間――

 焰虎が怒りの唸り声をあげ、こちらへと頭を向けた。

 全身から蒸気が勢いよく噴き出し、空気が震える。

 鋭い金属の爪が、自身の胸元を強く引っ掻いた。

 甲高い金属音とともに火花が散る。

 その火花が、空中に漂っていた微細な粉塵へと触れた瞬間――

「ボゥッ!!」

 巨大な爆炎が一気に広がった。

 それはまるで連鎖爆発のように、三十メートル四方を瞬く間に火の海へと変えた。

 熱風が襲いかかり、炎がすべてを呑み込む。

「ガキィィィィッ!!」

 遠くからそれを目撃したオッサンの悲鳴が、爆音の中にかき消されていった。

 喉が詰まるような思いのまま、叫ぶしかなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ