20.1 空から降ってきた幸運(2)
それから数日、五人はそれぞれ任務の情報を集めるため奔走し、最終的にハンターギルドのロビーで集合することとなった。
ラフィールはどこか元気のない様子で公会の門をくぐった。
だが、そこで目に飛び込んできたのは、見覚えのある男の姿だった。
「おやおや、これはこれは……城主のご子息じゃないか?」
刺のある声が聞こえた。
その主は、マルコム傘下の部隊「強襲の猛虎」の隊長、「強襲の大剣」と呼ばれる男――その本名はユーリ。
ラフィールにとっては馴染み深い因縁の相手だった。
本名まで知っているほどで、ここ三年間、二人は常に反発し合い、一度たりとも友好的になったことはなかった。
ユーリはラフィールより先にハンターとなり、アメリンの厳しい訓練を経て実力を磨き、マルコムの目に留まり、急速に頭角を現した。
今や彼は一部隊の隊長としても認められている。
「鋼鉄の心の小僧だろ? 聞いたぞ、お前らが“あの任務”の情報を探してるって。……ムダだ。」
ユーリの声には明らかな侮蔑がにじんでいた。
ラフィールは足を止め、視線だけで彼を横目に睨んだ。
その胸中には嫌悪の感情が強く渦巻いていた。
「酔っ払いどもが口を滑らせなきゃ、外部の連中に任務の話なんて漏れるわけない。
あれは本来、俺たちがマルコム様のために片付けて、ついでに報酬を節約してやる予定だったんだ。」
自信満々の口調でそう言い切るユーリ。
まるでラフィールの行動が滑稽だと言わんばかりだ。
ラフィールの心は沈んだ。
この数日、どれだけ情報を集めても手がかりは得られず、父親に相談しても無駄だった。
情報が意図的にマルコムのチームによって封鎖されていたのは、もはや明白だった。
「わかってんなら、おうちに帰っておままごとでもしてな。場違いなんだよ、ここは。」
そう言い捨てると、ユーリはわざと肩をぶつけてすれ違った。
ラフィールの怒りが爆発寸前まで高まり、拳を握りしめて反撃しようとしたその瞬間――
「よっ、チビ! 情報集めはどうだった?」
明るく響く声とともに、姐御が彼の首に腕を回し、にっこりと笑いかけた。
その瞳はまるで三日月のように細く、太陽のような輝きと親しみをたたえていた。
怒りに燃えていたラフィールも、彼女の距離感ゼロの接触に思わずバランスを崩しそうになる。
彼女の腕に抱き込まれる形で、彼はそのまま一緒に歩かされる羽目になった。
逃げたい気持ちはあったが、顔の横に触れる「柔らかさ」を考えると……抵抗する気も徐々に失せていった。
やがて、全員がギルドのロビー横にある木製のテーブルに集まった。
隊長が口を開く。
「有力な情報はあったか?」
だが、返ってきたのは意外なほどに一致した答えだった。
「たいした情報はなかった。」
隊長も姐御も、ラフィールも、声には少し落胆の色がにじんでいた。
しかしオヤジだけは、にやりといやらしい笑みを浮かべながら、意味深に言った。
「俺の広~い人脈によれば、信頼できる情報筋からあの赤いサントゥビーストを目撃したって話があるぜ。」
隊長は眉をひそめ、半信半疑の表情を浮かべた。
姐御はすかさずツッコミを入れる。
「オヤジ、またホラ吹いてるの? 誰があんたにそんな情報渡すってのよ!」
二人の言い争いが始まり、火花がバチバチと飛び交う。
互いに一歩も譲らず、テーブルの空気がぴりぴりと張り詰めていく。
そんな中、オヤジが突然、声を潜めて言った。
「……みんな、ちょっと近づいてくれ。今から大事な話をする。」
彼はわざとらしく声を低くし、その雰囲気をさらに怪しげにした。
「信頼できる筋から聞いた話によると――
ベンブロール(Benbrol)の廃墟の北側、あのあたりらしい。」
隊長は少し考え込むように眉をひそめて言った。
「南西側のあの廃墟都市のことか?」
オヤジは大きく頷き、その目には期待の光が宿っていた。
隊長はしばらく沈黙し、やがて座り直して平静な声で言った。
「不可能ではない……けど、俺たちの戦力であそこに近づくのは危険だ。」
チビはあっけらかんとした調子で言った。
「オヤジが言ってたのは北側でしょ? 黒潮に会ったら戦うだけだよ、やるしかないって!」
彼の声には若さ特有の衝動と、冒険への無邪気な期待があふれていた。
隊長は頭を垂れたまま、内心で判断を迷っていた。
――本当にその獣がいる保証はない。だが、もし本当なら……。
そのとき、彼の視界の端に、見習いがそっと手を挙げるのが見えた。
「どうした? 言ってみな。」
見習いは恥ずかしそうにしながらも、勇気を出して言った。
「私が得た情報も、オヤジさんと同じでした。」
その声は静かで優しかったが、確かな確信がこもっていた。
一瞬で場が静まり返る。
「よっしゃああ!」
姐御とオヤジがほぼ同時にテーブルを叩き、声を揃えて叫んだ。
「決まりだ! 行くっきゃないでしょ!!」
その瞬間、チーム全体の空気が一気に熱を帯びた。
興奮と期待が火花のように弾け、次の冒険への意志がひとつになった。
夜明け前の空にはまだかすかな薄明かりが広がり、雲の切れ間から差し込む光が、眠れる街にわずかな活気を与えていた。
マークィスの南門前には、「鋼鉄の心」の五人が静かに集まっていた。空気にはほんのりとした冷気が漂い、緊張感と期待が入り混じっていた。
風がそっと吹き抜け、彼らのマントの裾を揺らす。
それはまるで、これから始まる旅が平穏ではないことを告げているかのようだった。
誰もが黙々と装備を確認し、万全を期していた。
彼らは、オットーの野営地へと続く道を進み始めた。
チビは周囲をきょろきょろと見回し、少し不思議そうな顔をした。唇をすぼめ、眉をひそめる。
「なんかさ、この数日、左の方に向かう隊、多くね?」
姐御はそれを聞き、頷きながら視線を遠くの隊の背中に向けた。
「そうそう、私も気づいた。しかも、かなりの高ランク部隊ばっかりよ。」
隊長は一瞬沈黙し、城門で耳にした噂を思い出す。
「どうやら、南東に目撃情報があったらしい。多くの隊がそっちに向かってるみたいだ。」
その言葉に、チビの顔はぱっと明るくなり、目が好奇心で輝きだす。
「じゃあ、俺たちは行かないの? オヤジ、アンタの情報って本当に大丈夫?」
オヤジはまだ少し眠そうに目をこすり、あくびを一つすると、のんびりと答えた。
「俺の情報源は確かだ。南西側って聞いてる。他の連中が東に向かってるなら、むしろチャンスだろ。」
隊長は少し考え、やがて声を張り上げた。
「全速前進だ!」
その合図とともに、五頭の逞しいサンダーウルフが矢のように飛び出し、隊を南へと導いた。
風が耳元でうなりを上げ、後方の草木が緑の軌跡として流れていく。
分岐路に差しかかると、隊長は迷うことなく腕を振り、隊を西へと導いた。
その道は比較的静かで、黒潮と遭遇する可能性も低くなる。
だが、全員が理解していた。この地域に危険がないわけではない。
だからこそ、彼らは誰一人気を緩めることなく、警戒を怠らずに前へと進んでいった。




