19.卒業試験(1)
畢業考
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ラフィールがこの村に来てから三度目の春、ユーリと、ハンターの先輩、そして商業を学ぶ一般の生徒が今日、卒業を迎え、それぞれ新たな旅立ちへと踏み出す。村全体が興奮と名残惜しさに包まれており、ラフィールはその様子を少し離れて見つめながら、複雑な思いに胸を締めつけられていた。
村での彼の生活は単調だった。毎朝の夜明け、訓練場の掛け声、そして夕陽の中での黙想。彼は一度も不満を口にせず、日の出を新たな挑戦として受け止め、黙々と鍛錬を重ねてきた。
その年月の中で、彼は未熟な少年から、狩人としての風格を備えた若者へと成長した。引き締まった長身、風のように俊敏な動き、そして顔には確かな意志が刻まれていた。
アメリンは彼の才能と素質を高く評価しながらも、一流のハンターになるには、まだいくつかの重要な資質を磨く必要があると語っていた。
秋の気配が空気の中に満ち、木の葉が微風に揺れている。まるで彼を応援しているかのようだった。
今日は、彼が長い間待ち望んでいた卒業試験の日だ。訓練場の中央、直径約二メートルの円の中に、アメリンが長槍を手に堂々と立っている。
ラフィールの胸には、興奮と緊張が入り混じった感情が燃え上がっていた。今回の試験の課題は、アメリンをその円の外へと追い出すこと。いつもの訓練とは違い、彼の手には刃を付けていない双剣が握られ、さらに身体強化のためにドライブストーンの使用も許可されていた。
周囲には訓練生や村人たちが集まり、彼らの小声の会話が期待に満ちた雰囲気を作り出していた。好奇心旺盛な村人の中には、すでに賭けを始めている者もおり、この試験に一層の熱気を加えていた。賭けの話題が交わされるたびに、興奮が波のように広がっていった。
ラフィールは深く息を吸い込み、手にした双剣をしっかりと握りしめた。冷たい金属の感触が、同時に強さを感じさせる。
今回は、過去の経験に頼るだけでは通用しない。全力を尽くして、アメリンを円の外に追い出し、自分の成長を皆に示さなければならない。
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あの日の記憶は脳裏に深く刻み込まれ、今もなお鮮明に残っている。前回の模擬戦では、祖母との一騎打ちでまったく歯が立たなかった。
彼女の槍はまるで身体の一部のように自在に操られ、一寸の隙もなく、近づくことすらできなかった。銀色の槍の影に、まるで呑み込まれてしまったかのような感覚だった。
今日、再び祖母と対峙するために訓練場の端に立った瞬間、あの敗北の記憶がよみがえった。思わず腰のドライブストーンに手をやり、無事であることを確認する。
続いて胸元に触れ、今日特別に身に着けたネックレスの存在を確かめる。だが意外にも、緊張感はさほどなかった。こうした勝負に慣れてしまったからか、それとも、祖母を越えたいという願いが心の奥に確かにあるからかもしれない。
双剣の鞘を丁寧に武器架に置き、ゆっくりと訓練場へと歩を進める。この場所は、無数の戦いと勝敗を見届けてきた。そして今日もまた、新たな戦いの舞台となる。
祖母の放つ気迫は、いつにも増して強く、空気が重く感じられるほどだ。かつて伝説の狩人であったことが容易に想像できる。
彼女が手首をひねると、槍の鞘が空を舞い、武器架に突き刺さった。鋭く光る槍刃が露わになり、それは彼女の最強の武器——長槍であった。場の中心に立つその姿は、まるで山のようにどっしりと構えており、彼女の身体と完全に一体化しているようだった。
深く息を吸い込み、体内の古い空気を吐き出す。そして新鮮な酸素を吸い込み、意識のすべてを祖母に集中させた。
心臓の鼓動がはっきりと聞こえる。周囲のざわめきは消え去り、耳に届くのは舞い落ちる葉の音と、自分の血の流れる音だけだった。
「いきます!」
空間にこだまする叫び声とともに、私は叫んだ。
「Speed Up!」
姿勢を低く保ち、一気に地を蹴って左側へと回り込む。狙うは祖母の右背後。しかし彼女は微動だにせず、槍を傍らに立てたまま、静かに構えていた。
あと二メートルという距離に近づいたその瞬間、彼女の身体が素早く回転し、槍が右上から鋭く振り下ろされた。あまりの速さに目が追いつかない。
「ギィン!」
双剣を交差させ、振り下ろされた槍を受け止める。柄を通じて腕に伝わる衝撃があまりにも大きく、私は歯を食いしばった。
その力は、年老いた身体から発せられたとは信じ難いものだった。手首は痺れたが、私は退くことなく、全力で槍を弾き返した。反撃の隙をつこうとするが——
祖母の身体はその場から動いていない。わずかに手首を捻ると、槍が勢いよく引かれ、そのまま嵐のような連続突きが始まった。
私は防御と回避を繰り返すしかなかった。槍の一突き一突きが正確かつ鋭く、一歩も前に出ることができない。刃と槍先がぶつかり、火花を散らし、轟音が場に響く。
三度の攻勢を試みたが、彼女の槍陣は突破できなかった。まるで見えない壁に阻まれているようで、接近の機会は遠いままだ。
再び槍の射程外へと後退し、呼吸を整える。この長槍を突破するには、代償を払う覚悟が必要だ。私はすべての集中を槍に注いだ。
膝を軽く曲げ、再び矢のように跳び出す。今度は祖母の手にある長槍に視線を固定した。彼女は依然として姿勢を崩さず、軽く手首をひねると、鋭い槍の光が私の胸元を狙ってきた。
私は大きく息を吸い込み、その動線に神経を集中させる。そして右手で全力の一撃を放つ。
「ギィン!」
刀と槍が激しくぶつかり、今までにないほど大きな火花が散った。今回は防御ではなく、真正面からの全力の衝突だ。
激しい衝撃により右腕がしびれたが、槍が弾かれたその一瞬、私はすかさず前へ二歩踏み込んだ。左手の刃が冷たい光を放ち、祖母の腰を狙って振り下ろす。
だが、その一撃が届く寸前、祖母は槍を素早く上げて防御。すぐに次の動作へ移る余裕はない——そう判断した私は、この接近戦の好機を逃さぬよう、双剣を嵐のごとく振るった。なんとしても彼女をあの円の外へと押し出したい。
「うあああああああ!」
怒涛のごとく剣を振るい、攻撃を続ける。通常であれば、長槍はこの距離では不利になるはずだが、祖母は冷静に、そして正確にそのすべてを受け止めていた。
その瞬間——
右手の刃がついに彼女の防御を突破し、肩に届きかけた。私は一瞬、勝利を確信し、心の中でほくそ笑んだ。
しかし次の瞬間、全身に言葉では言い表せない違和感が走った。
まるで獲物が罠にかかった瞬間のように、心がきゅっと締め付けられた。
「ドンッ!」
左手に強烈な衝撃が走り、私は数メートル吹き飛ばされた。ようやく体勢を立て直すと、左手の親指と人差し指の間に痛みが走る。
心臓はまだドキドキしていたが、私は思わず声を上げた。
「……あぶなっ……ちゃんと先輩たちの卒業試験、全部見ててよかった……これは“反撃技・リフロー”……でしょ?」
祖母は言葉を発せず、ただ静かにうなずいた。それは、私があの一撃を受け止めたことに対するささやかな称賛だった。
私は心の中で叫んだ。
(ズルすぎるだろ……! あんな至近距離で武技を発動するなんて! 今ここで武技を使って、もし一撃で仕留められなかったら、確実に反撃食らって倒れるぞ……)
鼓動はますます速まりながらも、心は今までにないほど集中し、澄み切っていた。
再び祖母へと向かって走り出し、先ほどと同じ動きで槍を弾いたその瞬間——
「片手剣・中段——スネークバイト!」
心の中で叫びながら、右手の刃を鋭く振るう。空気を切り裂く速度で槍の柄を狙い、その一撃が命中すると、祖母の足がわずかに後退した。柄にはうっすらと刀傷が残る。
たとえ彼女がすぐに反撃してきても、左手でなんとか防ぎ、わずかでも時間を稼げる——そう考えていた私は、思わず勝利の笑みを浮かべ、祖母の顔を見ようとした。
そのとき——
「パキン!」
乾いた破裂音が響いた。下を見ると、腰に装着していたドライブストーンが砕けているのを目にした。
彼女は最初から私の腰を狙っていたのだ! この一連の攻防は、私の強化能力を封じるための策略だった。祖母はしたり顔で微笑み、まるで「これで終わりよ」と言っているかのようだった。
「Speed Up!」
私も即座に叫び返した。声はほぼ同時だった。
その瞬間、私は跳躍する。祖母の槍が振り下ろされたのは、ついさっきまで私が立っていた場所。だが私はすでに空中にいて、攻撃姿勢に入っていた。
これが最後のチャンス——!
「双剣・上段——ホウザンギキッ!」
心の中で叫びながら、双剣を天から雷のように振り下ろす。その力強い一撃は、祖母の槍を押し返し、彼女の体勢を崩させた。
私は円の中に着地した。まだ手の中の刃に、槍を叩いた感触が残っている。
やった……ついに、成功したのだ。
「ラフィール、卒業試験、合格おめでとう。」
祖母が私の目の前に立ち、誇らしげな表情でそう告げた。
「わあああああっ!」
周囲からは割れんばかりの歓声が上がり、見守っていた人々が一斉に私のもとへ駆け寄ってくる。彼らの顔には興奮と驚きが溢れていた。
この光景は、これまで何度も目にしてきた。しかし今回は——
私が、その主役だった。




