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第四の魔女:消えた痕跡  作者: Test No. 55
第1巻 - ハンター編(獵人篇)
33/105

18.格闘訓練

 格鬥訓練


「はぁ……はぁ……」

 呼吸が荒く乱れていくのを感じる。胸の奥が火に焼かれているように熱く、さっきの連続攻撃で溜まった疲労が、なかなか治まらない。

 ユリが、目の前に立っていた。

 彼は、これまで一度も勝てなかった相手。

 拳にはグローブ、脚にはレッグガードを装備しているのに、それでも彼の俊敏さはまったく衰えていないように見える。

 いつも通り、ユリは一定のリズムで安定した足取りを保ち、一歩一歩がまるで計算されたかのように正確だった。

 彼はすべての訓練項目に精通していて、卒業も間近だろう。

 私はその姿を目で追いながら、心の中にたった一つの願いを抱く。

 ——彼がこの場を去る前に、一度だけでいい。どの種目でも構わない。彼に勝ちたい。それさえ叶えば、もう思い残すことはない。


 練習試合が始まったとき、私は迷いを捨てることに決めた。全力でいく。

 出し惜しみは一切せず、ユリに向かって突進し、拳と蹴りを嵐のように繰り出した。

 スピードで彼のリズムを崩し、不意を突こうとしたのだ。

 ……だが、現実は甘くなかった。

 私の一撃一撃は、まるで読まれているかのように軽やかにかわされ、空を切るだけ。

 たまに当たっても、彼の熟練した防御で完全に吸収され、まったく効果がない。

 その防御はまるで岩のように堅く、逆に私は猛攻の隙を突かれて何度も反撃を受け、一度は足払いで派手に転ばされ、情けない姿で地面に倒れ込んだ。

 もし防具がなかったら、今ごろ顔は腫れ上がっていたかもしれない。


 私は荒い息を吐きながら、頭の中の雑念を必死に振り払い、目の前の状況に集中しようとした。

 ゆっくりと、一歩ずつ前へと歩を進め、ユリとの距離を詰めていく。

 攻撃範囲に入ったそのとき——

 彼は頭部を守るそぶりさえ見せず、どこか見下すような目で私を見つめてきた。まるで「お前なんか相手じゃない」と言わんばかりに。

 その態度に、胸の奥で何かが燃え上がった。

 私はすかさず一歩踏み込み、左手でジャブを繰り出す。狙いは彼の顔面——だったが、彼はわずかに身をひねるだけで、拳は空を切った。

 だが、問題ない!

 すぐさま逆の手でストレートを打ち込む。今回は狙いも完璧。

「これで防御を崩せれば……!」と願ったが、ユリは肩を回転させて、軽々とその拳を受け流す。拳は彼の肩をかすっただけで、決定打にはならなかった。

 しかし、まだ終わらない!

 最初の二発はあくまで誘い——本命は次だ。

 私は素早く腰をひねり、右脚を高く振り上げた。狙いは彼の頭部。

 高速のハイキックが唸りを上げ、まさに命中寸前——そう思った瞬間。

 ユリは、まるで時間が止まったかのように、上体をギリギリまで後ろに反らした。

 信じられない角度だった。

 私の足先は、彼の顎のすぐ前をかすめるように通り過ぎ……あとほんのわずか、届かなかった。

 しまった!

 大きくバランスを崩した私は、すぐに体勢を戻せなかった。

 次の瞬間、支えとなっていた左足に強烈な衝撃。

 ユリのスイープキックが直撃し、私は一気に体の重心を奪われ、そのまま無様に地面へと倒れ込んだ。

 倒れた私は、悔しさと屈辱で胸がいっぱいだった。

 歯を食いしばり、疲労と怒りを押し殺して、すぐに立ち上がる。もう一度攻撃を仕掛けるために。

 ……だが、どれほど必死に挑んでも、ユリは余裕のある動きで防ぎ続けた。

 私の攻撃はまるで水に石を投げたかのように、何の反応も返ってこなかった。決して一撃を通すことができなかった。


 さらにもう一度、怒涛の連撃を放つ——だが、呼吸は完全に乱れ、心臓の鼓動はまるで壊れた太鼓のように乱れていた。

 胸の中は鉛のように重く、両手は次第に言うことをきかなくなっていく。

 振るう拳はどれも、まるで重い鎖に繋がれているかのようだった。

 額からは汗が滝のように流れ、目に入り、視界を刺す。

 それを拭おうと手を伸ばしたそのとき——ユリの口元が目に入った。

 ……彼は、笑っていた。

 その瞬間、私はようやく気づいた。

 自分の疲労が、どれほど顔に出ていたかを。

 足は重く地面に縫い留められ、もう前に進む力さえ残っていなかったのだ。

 この場面の息詰まる緊張感と、ラフィールの悔しさがしっかり伝わるよう丁寧に訳しました。

 この後の展開も翻訳が必要でしたら、どうぞご遠慮なくお知らせください。


 もう、動けなかった。

 私はただ、なんとかその場に立ち続けているだけだった。

 そのとき、ユリのジャブが素早く迫ってきた。

 拳が防御の上に次々と叩き込まれ、「パン、パン、パン」という音がグローブ越しに伝わってくる。

 どれも探りを入れる程度の軽い打撃だったが、それでも確かに拳の圧力は感じ取れた。

 頭の中で直感が叫ぶ——次はボディだ。

 これはよくある攻撃の流れ。だからこそ、私はすぐに一歩後ろへ下がり、腕を少し下げて胴体を守った。

 果たして、その予感は的中した。

 ユリの拳がちょうど私の腕に当たり、右下腹部にかすかな痛みが走る。

 もしこの一撃を防げていなかったら、今頃もっとみっともない姿になっていただろう。


 ふっと息をついた、その瞬間だった。

 ユリが腕を振りかぶり、後ろ手のパンチを繰り出そうとしているのが見えた!

 脳内で警報が鳴り響く。

 私は反射的に頭を下げ、顔をグローブの後ろに隠し、心の中で祈った——

 どうか、この一発はしっかり防げますように……!

 だが、何かがおかしかった。

 期待していたような強烈な衝撃は来なかった。

 鉄槌のような一撃が、なぜか……感じられない。

 そのとき、不意にアゴに衝撃が走った。

 ユリの拳が、想定外の角度から私の防御をすり抜けてきたのだ。

 ——アッパーカット!

 鋭く正確なアッパーが、私のアゴを突き上げた。

 防具が衝撃をある程度抑えてくれたとはいえ、その一撃は十分すぎるほど強く、私は頭をのけぞらせた。

 バランスを失った身体は、次の瞬間、ドシンと尻もちをついて地面に倒れた。


 耳がキーンと鳴り、頭の中はぼんやりと霞んでいた。

 世界が遠く、曖昧になっていく感覚。

 防具のおかげで衝撃はかなり抑えられていたはずなのに、身体からは力が抜けていくような感覚が残っていた。

 見上げた先には、ユリの姿。

 そこに立つ彼の周囲には、勝者としての風格が目に見えるほど漂っていた。

「勝者、ユリ!」

 審判の声が耳に届く。

 その響きは、あまりにも明確で、容赦なかった。

 私は地面に座り込んだまま、心の中でただ一つの問いを繰り返していた。

 ——また……負けたのか……?

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