短篇 兄は成長した
老哥長大了
夕日が差し込み、森を深い秋色に染めていた。枯葉を踏む音が兄貴の足取りとともに林の中に響き渡り、私は彼の背に乗り、彼の筋肉が走るたびに緊張と緩和を繰り返すのを感じていた。
兄貴は勢いよく駆け抜け、私を乗せたまま、まばらな木々の影をいくつもくぐり抜けていく。見覚えのある池が視界に入るまでスピードを緩めなかった。彼はようやく歩みを緩め、鼻から短く息を噴き出した。
今日の授業は騎乗訓練だったが、私にとっては造作もないことだった。先生の指導は退屈で、私は一人で練習することにした。兄貴と一緒に森の中を自由に駆け回る時間の方が、ずっと楽しかったから。
兄貴は、私が幼い頃から育ててきた恐狼の相棒。今では小さな山のように逞しく成長している。
兄貴の成長速度は目を見張るものがあった。風船が膨らむよりも早く、わずかな間に、幼い仔狼だった彼は、堂々とした巨体の恐狼へと変貌した。背は真っすぐに伸び、四肢は力強く、全身から凛々しい風格が滲み出ている。
黄色と白が入り混じった毛並みは、動くたびに陽の光を受けてやわらかく輝く。少しばかり乱れてはいるが、もうすぐ成狼になる威厳を隠しきれない。
祖母がこう言っていた――
「毛の生え変わりが終われば、あの子も立派な成狼さ。」
それが成狼のしるしなのだと。もうすぐこの混ざり毛がすべて抜け落ち、純白の姿になるという。
私はくるりと背から降り、背中の水袋を外して池のほとりにしゃがみ、水を汲んだ。水面に陽の光が踊り、水袋は徐々にふくらんでいく。その重さが、これを兄貴の鞍に取り付けねばと私に思い出させた。
最初の袋を固定したあと、私はふと、今にも抜けそうな黄色い毛を一房摘み取り、指先で転がしながら見つめた。思わず口元が綻ぶ。
「真っ白な兄貴、きっとかっこいいだろうな……」私は小さく呟いた。
すると兄貴は、それがわかったかのように鼻からふっと息を吐き、首をかしげてこちらを見た。金と青、左右で色の違う瞳には少し不満げな光が浮かんでいる。そしてぺろりと舌を出し、池に近づいて首を低くする。喉が渇いたとでも言いたげな様子だった。
私は彼の首筋をぽんと叩き、くすっと笑って言った。
「おばあちゃんが言ってたでしょ。生水は飲んじゃダメって。あんただって例外じゃないよ。帰ったら飲ませてあげるから。」
彼は素直に頭を上げ、その場でおとなしく立ち止まった。私は続けて二つ目の水袋に水を汲み、それを鞍の反対側にしっかりと固定した。準備が終わると、私はひらりと身軽に彼の背に跳び乗り、肩を軽く叩いて叫んだ。
「行こう!」
私の一声で、兄貴は再び疾風のごとく森の中を駆け抜けた。
一歩一歩に力強さがあり、地面の落ち葉を砕きながら進む。風の音は低くうなり、兄貴の荒い呼吸がその旋律の主旋律を奏でていた。向かい風は爽やかで心地よく、秋の香りを私のもとへ運んでくる。吸い込むたびに、まるで森の物語をひとつずつ飲み込んでいるような感覚に包まれた。
森を抜けたとき、空の太陽はすでに傾きかけており、大地をあたたかい金色に染めていた。
村へ入ると、私は兄貴のたてがみを軽く引いて歩調を緩めさせ、その背からひらりと降りて彼を引きながらゆっくりと歩き始めた。
――そのとき、兄貴が突然足を止めた。
その動きは実にきっぱりとしていて、まるで何かを決意したかのようだった。私は気づかずに数歩進み、ようやく後ろが静かなことに気づいて振り返る。
「どうしたの?」
兄貴は短く一声吠えたかと思うと、ためらうことなくその場に座り込んだ。そして、その異なる色の瞳でじっと私を見つめ、「ちょっと待ってて」と言いたげな表情を浮かべていた。その仕草に思わず私も首をかしげ、彼が何をしようとしているのかを注意深く見守る。
すると、村の方角から風が吹き抜け、私の髪をかき乱し、村の匂いを空気に乗せて運んできた。
ちょうどその瞬間、兄貴が頭を高く上げ、低く長い遠吠えを放った。
「アオオオ〜ン……」
その声は深く力強く、まるで何かを呼び寄せるかのようだった。
しばらくして、村の反対側から応えるように遠吠えが聞こえてきた。いくつもの声が重なり合い、低音と高音が入り混じった独特な合奏となって、村と森のあいだに響き渡る。
そして私は、息をのむ光景を目にした――
兄貴の体が微かに震え、全身の力を内に集めているように見えた。
その瞬間、彼の体の黄色い毛がふわりと浮き、風に乗って空へ舞い上がっていった。それはまるで、綿毛の種が空へ解き放たれていくかのようだった。
夕陽の金色の光が舞い上がる毛に差し込み、一筋一筋がまるで光を宿したかのように輝いていた。
私はその場に立ち尽くし、まるで時間が止まったかのように、息をすることさえ忘れて見入っていた。
我に返ったとき、目の前の兄貴はすでに別人のように生まれ変わっていた。
その身体は変わらず大きく逞しかったが、あの混じり合った黄白の毛はすっかり抜け落ち、代わりに全身を覆っていたのは、純白の冬毛だった。
清らかで輝くその毛並みは、まるで彼のために仕立てられた冬のコートのようで、その凛々しさと威厳を一層引き立てていた。
彼は堂々と胸を張り、首を高く上げて立っていた。左右で異なる瞳には自信と誇りが宿り、「どうだ」と言わんばかりに私を見つめていた。
「兄貴……めちゃくちゃカッコいいよ。」
私は思わずそう呟きながら、彼のふわふわの冬毛に手を伸ばし、指先でそっと撫でた。特に柔らかい、あの特徴的な折れ耳をくにくにとつまみながら――その触り心地に、つい何度も手が伸びてしまう。
兄貴は小さく首をかしげ、まるでこの触れ合いを楽しんでいるかのようだった。その仕草に、私の胸には言葉にできないほどの誇らしさと喜びが、そっと芽生えていくのを感じた。
村の風が静かに吹き抜け、私の頬を優しく撫でた。それは兄貴の純白の毛もまた、そっと揺らしていく。
私の心臓は、その風のリズムに合わせるように鼓動しはじめ、兄貴の変化と共鳴しながら、知らぬ間に新たな拍子を刻んでいた。




