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第四の魔女:消えた痕跡  作者: Test No. 55
第1巻 - ハンター編(獵人篇)
31/105

17.1 武技の習得(2)

挿絵(By みてみん)


 明日はトムリンとイヴェットが引退ハンターの村を訪れる日だった。

 今夜のラフィールは、いつもとはまったく違う気持ちで、興奮のあまり眠れなかった。

 なぜなら、明日――長い間会っていなかった妹、イリサに再会できるからだ。

 最後に会った時、イリサはまだ寝たきりで、ぼんやりと彼を見つめていた。

 その光景を思い出すと、ラフィールは思わず微笑んだ。

 今では、彼女は家の中を走り回れるようになっている。

 ラフィールの脳裏には、元気に動き回る彼女の愛らしい姿が浮かび、

 その期待感で胸がいっぱいになり、何度も寝返りを打っては眠れずにいた。


 太陽がゆっくりと昇り始める頃、ラフィールは村の門の前で落ち着きなく歩き回っていた。

 その様子に、彼の祖母であるアメリンはついに堪えきれず、厳しい口調で叱りつけた。

「そこに座りなさい。嫌なら訓練に行け!」

 ラフィールはビクッとし、すぐにおとなしく座り込み、

 じっと森の奥を見つめながら、心の中で「早く来てほしい」と何度も願った。


 やがて、森の中から泣き声と騒ぎ声が聞こえ、

 ラフィールの心臓は一気に高鳴った――トムリン一家がついに到着したのだ。

 今回はこれまでとは違い、イヴェットが馬車の中でイリサをあやしていた。

 待ちきれなかったラフィールは、馬車が止まるや否や矢のように飛び乗り、扉を勢いよく開けて叫んだ。

「お父さん、やっと――!」

 だが、その言葉が最後まで言い切られる前に、

 馬車の中から突然、小さな影が流星のように飛び出してきて、

 彼の顔面に思い切り飛び蹴りをくらわせた。

「もう限界!降りるーっ!」

 イリサが大声で叫びながら、まるで小さな爆弾のように馬車から飛び出し、

 顔を押さえて地面に転がるララ(ラフィール)を見下ろして睨みつけた。

「さっき“お父さん”って言った?あんたがラフィール?あたしの兄ちゃん?」

 その声には驚きと挑戦的な響きが入り混じっており、

 そう言い終えると、彼女は身軽に馬車のステップから飛び降りた。

 地面に倒れたままのラフィールは目を開け、必死に妹の顔を見ようとした。

「イリサ……? 君、ほんとに……」


 しかし、その言葉が終わる前に――

 イリサは空中から勢いよく落下し、彼の“とある部位”を思い切り踏みつけた。

 まるで完璧な着地パフォーマンスのようだった。

 両手を高く上げて誇らしげに「やったーっ!」と叫び、勝利を祝うかのようにニコニコしている。

 その後、彼女は冷たくラフィールを一瞥し、猫のように小声で挑発した。

「ママにひどいことした罰よ!」

 ぷいっとそっぽを向いたイリサは、それ以上ラフィールに構わず、スタスタと先へ歩き出した。

 ラフィールは苦しげな悲鳴をあげ、その声が村の空に響き渡った。

 その場にいた人々は一斉に彼に同情の視線を向けた。

 トムリンとイヴェットは馬車を降りるなり、慌ててラフィールの元へ駆け寄った。

 ラフィールの心は複雑な思いに満ちていたが、

 それでも彼は分かっていた――これこそが、ずっと待ち望んでいた「家族の再会」の始まりなのだ、と。



 今回、トムリン一家は村に三日間滞在した。

 初対面こそ「惨劇」だったものの、ラフィールはしつこくイリサに付きまとい、一緒に遊んであげた。

 そのおかげで二人の距離は少しずつ縮まり、やがて互いの存在を心から楽しむようになっていった。

 その背景には、アメリン祖母の威厳が少なからず関係していた。

 初日に見せたイリサのあまりに衝撃的な行動は、村の皆を唖然とさせた。

 これにはさすがのアメリンも黙っておられず、きつく叱責した。

 怖さに泣きじゃくるイリサ。

 だが、そんな彼女を笑顔に戻したのはラフィールだった。

 彼が懸命にあやしたことで、イリサは再び笑顔を取り戻し、兄妹の間には確かな絆が生まれていった。


 別れの時がついにやって来た。

 イヴェットは何度も呼びかける。

「リリ、行く時間よ!」

 イリサはぷくっと頬をふくらませながら、ラフィールにしがみついて離れなかった。

 たった三日間の交流――

 それでも、この小さな少女は最初の反抗心をすっかり忘れ、今は名残惜しそうに兄に抱きついていた。

 ラフィールは、まるで年上の兄のように優しく彼女の頭を撫でながら、やさしく言った。

「来月、リリが兄ちゃんに会いたくなったら、また遊びにおいで。」

 イリサの目にはうっすらと涙が浮かんでいた。

 彼女は小さくうなずき、ようやくラフィールから手を離し、手を振りながらゆっくりと後ずさった。


 そのとき、イリサはふと何かを思い出したように足を止め、

 視線の端でアメリン祖母の姿を捉えた。

 この数日、彼女は何度も祖母に叱られてきた。

 そのため少なからず距離を感じていたが――

 それでも、彼女は勇気を振り絞って、小さな足でトコトコと祖母の元へ駆け寄り、そっと抱きついた。

「おばあちゃん、ばいばい!」

 彼女はそう言って、甘えるような声で別れを告げた。

 アメリンは一瞬、目を見開いた。

 このいたずらっ子が自ら別れを言いに来るとは思ってもみなかったのだ。

 その胸には、温かい感情がじんわりと湧き上がっていた。

 アメリンは優しく答えた。

「ばいばい、リリ。帰ったら、パパとママの言うこと、ちゃんと聞くのよ。」

 こうして、イリサの名残惜しさを残しつつ、トムリン一家は村をあとにした。

 村には再び静けさが戻り、

 ラフィールは訓練の日々に戻っていった――

 だがその胸には、妹との再会というかけがえのない思い出が温かく残り、

 次なる再会を心待ちにしていた。


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