2. 巨獣の前で、ちっぽけな人間(2)
夜の帳が下り、星々がきらめく中、静寂な荒野には微風が木の葉を揺らす音だけが残っている。
五人のハンターが焚火の周りに座っていた。炎が温かく揺らめき、オレンジ色の光が彼らの顔を照らし出し、昼間の狩猟による疲れを和らげていた。焚火の中央では薪がパチパチと音を立て、火の粉が時折空中で瞬きながら消えていく。
彼らは焚火を囲むように座り、一日の狩猟と戦いを振り返りながら、わずかな休息を取っていた。炎の光が彼らの疲れたが満足そうな表情を映し出し、苦難と勝利を物語っていた。
隊長と呼ばれる男性ハンターは、焚火のそばに座っていた。彼は背が高く痩せており、冷静で落ち着いた表情をしている。彼の隣には無色の宝珠が飾られた杖が立てかけられており、かすかに光を放っていた。
彼の手には古びた書物があり、表紙には年月の痕跡が刻まれている。それは「古代の遺物」として知られる複製本だった。彼はそのページをめくりながら、まるで別の世界に浸っているかのように集中していた。
隊長は決断力に優れており、どんな危機が迫っても、常に最善の突破口を見つけ出し、チームを危険から救い出してきた人物だ。
彼はふと顔を上げ、本のページから視線を外し、仲間一人一人の状態を確認するように見渡した。そして、低く威厳のある声でこう告げた。
「明日、黒潮をもう一体狩れば帰還しよう。」
大剣を手にする女性ハンター「姐御」は、重い鎧を脱ぎ捨て、滑らかな岩に寄りかかっていた。手甲を外した瞬間、彼女の全身から緊張が抜けたようだった。彼女は膝の上に置いた大剣を丁寧に磨き、その刃の一部始終が光り輝くよう気を配っていた。
その大剣は膝の上で微かに光を放ち、彼女は今日の戦いを思い返していた。
「今日の山突獣、まだ運動不足って感じだな。」
一方で、焚火のそばに座る双剣のハンター「小僧」は、その幼い性格が顔に表れており、いつもどこかいたずらっぽい笑みを浮かべている。彼は焼き立ての肉串を得意げに掲げ、姐御に差し出しながら自信たっぷりに言った。
「これ、今日の俺の力作なんだ!」
「へえ?本当にお前が焼いたのか?それとも食べるだけ担当だったんじゃない?」
「ちゃんと大叔を見張ってたんだぜ!焦がさないようにな。それに、味付けの秘訣も俺が考えた!」
「味付け、ねえ?」
姐御は肉を一口かじり、慎重に噛みしめた。数秒後、彼女は微笑みながら軽く頷き、驚いたような口調で言った。
「ふーん、なかなか美味しいじゃない。」
そう言うと彼女は大剣をそっと横に置き、小僧の茶色い髪をくしゃくしゃに撫でながら、気軽で楽しげに笑った。
「やるじゃないか、小僧。少しは成長したみたいだね。」
小僧の顔はみるみる赤くなり、口では「ふん」と気取ってみせたが、手にはもう一串の肉がしっかり握られていた。そして、ちらりと姐御を盗み見る目には、隠しきれない憧れと好意が宿っていた。それは、火の光の中でなお一層輝いて見えた。普段は悪戯好きで自由奔放な彼も、姐御の前では無意識に自分の一番良い面を見せようとしていた。
「小僧、お前が一人で全部やったみたいな顔するなよ。」
その場の空気を破ったのは「大叔」だった。彼は焚火の向こう側に座り、燃える薪に近い場所にいた。彼は口元に爽やかな笑みを浮かべ、年長者らしい貫禄を漂わせていた。
彼の背後には分厚い盾が立てかけられており、その手は器用に肉串をひっくり返していた。肉の表面はこんがりと焼き上がり、ほんのりと油が光り、香ばしい匂いが火の跳ねる音とともに漂っていた。
小僧は大叔に向かって鋭い目を向け、口を尖らせながら反論した。
「だったら俺の秘伝の味付けを試してみろよ!」
大叔は笑みを深め、彼が焼いた肉を一口食べると、まるで遠い記憶に浸るような表情になり、ぽつりとつぶやいた。
「確かに美味いな……これを食べると、家の子供たちを思い出すよ。あいつらもこれが大好きでね。」
彼の動作が一瞬止まり、目には懐かしそうな色が浮かんだ。彼は粗い手で濃い霧のような青い髭を軽く撫でながら、暖かい笑みを浮かべた。やがて子供たちが食べ物を取り合う様子を話し始め、その笑い声は家族への思いに満ちていた。
焚火のそばには、チームの中で最も若い女魔法使い「見習い(みならい)」が座っていた。彼女は小柄で控えめな性格をしており、普段からあまり話さない。このときも調味料の瓶を両手で握りながら、焚火の揺れる炎をじっと見つめていた。その頬には微かな赤みが差している。
彼女は仲間たちの会話に耳を傾け、ときおり恥ずかしそうに微笑みを浮かべていたが、自分から話に加わることはほとんどなかった。大叔が家族の話を始めると、彼女の表情は少し柔らかくなり、その温かい話に静かに感動しているようだった。
一方で、小僧は手に持った肉串の匂いを嗅ぎ、嫌そうな顔を浮かべた。彼は双剣を使って肉串からピーマンを器用に外し、ぶつぶつと不満を漏らした。
「なあ、なんでピーマンなんか入れるんだよ?せっかくの美味い肉が台無しじゃねえか。」
見習いも自分の肉串からピーマンをそっと外し、無言で横に置いていた。その動作にはほんの少しの困惑が感じられる。
「うん……私もピーマンの味はあまり好きじゃない……」
それを見た大叔は眉をひそめ、少し厳しい声で言った。
「おいおい、子供たち。そんなわがままは許されないぞ!ここでは好き嫌いを言っている余裕なんてないんだ。」
小僧は反発するように眉を上げ、口の中で何かをもごもご言いながら答えた。
「だってさ、大叔。こんなの、どうやったって肉には敵わないだろ?見てみろよ、この緑色の悪魔みたいなやつをさ!」
大叔は目を細め、手に持っていた肉串を置き、焚火の光の中でわざと神妙な顔を作りながら語り始めた。
「お前ら、知ってるか?実はこのピーマンには恐ろしい話があるんだよ。昔々、とある村では誰もがピーマンを嫌っていて、みんなそれを森に捨てていた。ところがな、その捨てられたピーマンが森の中で変異して、恐ろしい『ピーマン妖怪』になっちまったんだ。」
見習いの目が丸くなり、焚火に少し身を寄せて大叔の話に聞き入った。彼女はおずおずと尋ねた。
「妖怪……それって……何をしたんですか?」
大叔は声を低くし、不気味な雰囲気を醸し出しながら答えた。
「そうだな……妖怪だけならまだしも、そこに『第四魔女メクロ』が現れたんだよ!その魔女は捨てられたピーマン妖怪たちを引き連れて、夜な夜な村に潜り込んだ。そしてピーマンを嫌う者たちに、恐ろしい呪いをかけたんだ。」
「呪いって……どんな?」
見習いは怯えた様子でさらに身を寄せた。大叔は少し間を取ってから、声をさらに低めて答えた。
「その呪いってのはな……どこに行ってもピーマン妖怪がついてきて、逃げられなくなる。村人たちは毎晩、ピーマンに囲まれる夢を見るようになり、最終的にはピーマンを食べるまでその夢から逃げられなくなるんだよ!」
見習いはすっかり話に引き込まれ、怯えた目で自分が置いたピーマンをじっと見つめた。彼女は震える声でつぶやいた。
「お父さんがよく魔女の話をしてたけど……それって、本当に……私たちも?」
その様子を見た姐御は耐えきれず、声を上げて笑い出した。目に涙を浮かべるほど笑いながら言った。
「ははは!大叔、あんた本当に話が上手いね!この二人をこんなに怯えさせるなんて。」
大叔は得意げに口元を緩め、焚火の光の中で目を輝かせながら言った。
「ふん、食べ物を粗末にするからだ。このピーマンだって栄養満点で、戦いのときには力をくれるんだぞ。たとえこれは作り話だとしても、無駄にするなんてもってのほかだ!」
隊長は静かに頷きながら付け加えた。
「その通りだ。どんな食べ物であっても、荒野では無駄にできない。一つ一つの食料が貴重だ。食べられるものは全て食べるべきだ。」
小僧と見習いは顔を見合わせると、少し不満そうな表情を浮かべながらも、黙ってピーマンを肉串に戻した。二人とも渋々ながらもピーマンを口に運び、ぎこちなく噛みしめた。
「うーん……まあ、そこまで悪くないかもな。」
小僧は仕方なさそうに言った。顔を下に向けて表情は見えなかったが、何とか飲み込んだ。
見習いも小さく頷きながら、静かに言った。
「……そうですね……」
大叔は二人の肩を軽く叩き、朗らかな笑みを浮かべながら笑った。
「よしよし、次からはピーマン抜きで準備してやるよ。」
この大陸には広く語り継がれる伝説がある。それは、「第四魔女メクロ(Meclo)」についての話だ。彼女は「災厄の魔女」とも呼ばれ、大陸全土で最も危険な存在とされている。その力はあまりにも強大で、世界を破壊することすら可能だと言われている。
二十数年前、彼女は密かにこの世界に降臨し、深い災害と恐怖をもたらした。彼女の到来は、四方を巻き込む暗黒の嵐のようだった。その存在は瞬く間に大陸中の主要な勢力に警戒されるようになった。なぜなら、彼女は恐ろしい能力を持っていたからだ。それは、人の心を惑わせ、意志を操る力だった。
彼女の魅惑は単に精神的な支配にとどまらない。それは心の弱い者たちを、彼女の手による実験材料へと変えてしまうものだった。彼女の陰謀に陥った人々は、彼女の操り人形となり、自ら抜け出すことができなくなる。そして彼女の駒として利用される運命に陥るのだ。
最も恐ろしい出来事は、彼女が一つの都市全体の命を生贄に捧げ、邪悪な儀式を完成させようとしたときに起きた。その計画は土壇場で露見したが、その準備段階ですでに恐るべき行動が取られていた。
人々は莫大な努力を払い、全力を尽くして彼女を打ち破ることに成功した。しかし、彼女の最期のあがきが引き起こした災害は、大陸全土を震撼させた。
彼女の最後の一手は、あまりにも破滅的だった——「氷河時代」と呼ばれる魔法だ。
その戦いの中心地は瞬時に彼女の魔法で凍りつき、その範囲は数百里にも及んだ。それはまるで巨大な氷塊がその土地を覆い尽くしたかのようだった。その場にいた討伐隊の数百人の勇者たちや、周辺の村々の数千人もの命が一瞬で氷の彫像と化した。
その区域の気候は完全に変わり果て、氷河が完全に溶けるまでには、五年もの年月を要した。さらに、その近くにあった大学城も深刻な被害を受けた。かつて繁栄していたその土地は、氷と雪に覆われてしまい、荒廃と悲鳴だけが残された。
その時以来、「魔女」と「メクロ」という言葉は、大学城の人々にとって禁忌となった。
彼女の名前に触れることは恐怖を引き起こし、存在そのものが忌むべきものとされた。誰かがうっかりその過去を口にすると、周囲の人々は驚愕の表情を浮かべ、まるでその冷たい災害がまだ遠くない場所に存在しているかのような恐怖を見せた。
魔女メクロの物語は、大陸全土に深く刻み込まれた記憶となった。冬が訪れ、雪が舞い落ちると、人々はその寒さの中で、拭い去ることのできない恐怖を思い出すのだ。彼女の存在は単なる物語ではなく、暗黒の面に対する警告として伝えられている。その歴史は、心に響く恐怖の記憶として語り継がれている。