16.木劍の訓練
木劍訓練
冬の痕跡が徐々に消えつつあった。
遠くの梢に残る雪解けを見つめ、雪の間から顔を出した若草に目を留めながら、私は心の中で、寒い季節がついに終わったのだと実感した。
耳元で突然カウントダウンの声が響く――
「3、2、1……」。
私は深く息を吸い込み、肺の中の熱気を一気に吐き出す。その吐息は目の前で白い霧となり、ゆっくりと消えていった。
霧が晴れていくと同時に、私は視線を遠くの梢から目の前の木剣を構えた対戦相手へと戻した。
彼は木剣をゆっくりと体の横に構え、剣先をわずかに下げた。これは下段の構え――身軽さと回避を重視する型だ。
私は自然に木剣を身体の正面に構え、基本に忠実な中段の構えを選んだ。
「始め!」という掛け声が耳に届く。
私は膝を曲げて身を低くし、まるでバネのように一気に飛び出した。
その瞬間、私は密かに構えを変えた。右手で木剣を肩の上に水平に置き、上段の構えに移行する。
この構えは攻撃力を重視した型だ。
相手は動かず、私が近づくのを待っている。それこそが、最近私が編み出した必勝法――
開始の瞬間に上段へ切り替え、先手を取って強力な一撃を放ち、防御を打ち破り、勢いのまま勝利を掴むのだ。
私は相手の木剣を狙い、上から力強く振り下ろした。
相手の剣は斜めに傾き、私の全力の一撃は彼の木剣に命中した――だが、その力は見事に受け流された。
私は空を斬り、隙を晒してしまった。
「やばい!」という不安が一瞬頭をよぎる。だがすぐに打ち消した。
「そんなわけない!」
私は両足でしっかりと踏み込み、木剣で半円を描くように、反撃が来そうな方向へ斬りつけた。
しかし予想に反して、斬りつけた先には何もなかった。
相手はすでに距離を取っていて、まったく反撃の気配を見せない。
私は無駄な動作をしてしまい、少し気まずく感じた。
呼吸が整うのを待たずに、再び攻撃を仕掛けた。
今度は身をさらに低くして、木剣を右下から斬り上げた。
だが相手は軽やかにそれを受け流し、私は間を置かず左側から横薙ぎに斬りかかった。
しかし、何度攻めても、彼はすべてを見事に捌いてしまう。
連続した攻撃で呼吸が荒くなり、息が苦しくなってきた。
攻撃の手を止めたその瞬間、相手の木剣が横一閃に振られた。
私はかろうじて受け止めたが、構えが甘かったせいで両手が痺れるほどの衝撃を受けた。
反応する間もなく、相手はすでに私に肉薄していた。
その瞳には軽蔑の色が浮かんでおり、私の攻撃がいかに無意味だったかを物語っていた。
次の瞬間、激痛が腹部を襲った。
彼は木剣の柄で私の腹を強打し、その柄は深く食い込んだ。
その衝撃で私は吹き飛ばされ、地面に転がって数メートルも滑っていった。
無様な姿で倒れ込んだ私は、あまりの痛みに思わず咳き込んでしまった。
「勝者、ユーリ(Yuri)!」
審判の声が響いた。
私は地面に倒れたまま、その勝敗の宣言には耳を貸さず、青く澄んだ空を見上げていた。
周囲の訓練生たちが次々と駆け寄ってくる。
ある者はユーリの強さを称賛し、またある者は私の怪我を心配してくれていた。
この村に来たばかりの頃、私は小グマ以外とはほとんど関わりがなかった。
だが、ここでの生活がほぼ一年になる今では、村の人々ともすっかり打ち解け、多くの友人もできた。
ただ一人の例外が――ユーリ。
私のライバルである彼だけは、どれだけこちらが善意を見せても、常に冷たい態度と敵意を向けてくる。
時には、かつて私を陰で陥れようとした犯人は彼ではないかとすら疑ったこともあった。
*
少し離れた木のベンチに、アメリンとアンが静かに並んで座り、今の勝負を最後まで見届けていた。
アンは微笑みながら、穏やかな声で感嘆する。
「ララ、本当に上達したね。ここに来てたった一年で、年上のユーリと互角に戦えるなんて。」
アメリンは険しい顔を崩さず、やや冷めた口調で言う。
「倒されて地面に転がってる姿が、互角の戦いとは私には思えないけどね。」
アンは相変わらず笑顔で返す。
「でも、見たでしょ? この前の駆動石の授業、ララが一番早く飲み込んでた。
彼の駆動石への適応力は、この子たちの中でも群を抜いてるわ。
私にはわかるの、駆動石による身体強化を加味すれば、ララはきっとこの世代で一番強いハンターになる。」
アメリンは眉をひそめ、低い声で言った。
「でもね、私の直感では、ララには『十全』な強者になる素質が欠けている。
何か大事な要素が、足りない気がするのよ。」
アンはにこやかに微笑みながら、アメリンの顔を軽く両手でこちらに向けさせ、その眉間のしわを指で伸ばすようにしてから、からかうように言った。
「前にも言ったでしょ? そんなに眉をひそめてたらシワができちゃうよ。
なのにまた、こんなにしわくちゃにして。」
アメリンは「まったくもう…」といった表情を浮かべ、苦笑混じりに言った。
「この歳になって、シワがどうとか気にしても仕方ないわよ。」
アンは悪戯っぽく笑い、意地悪そうに言った。
「昔あれだけ“魔女の息子なんて絶対に受け入れない!”って言ってたのに、
今じゃまるで可愛い孫みたいに可愛がっちゃってさ。
覚えてる? ララがハンターになるのを止めようとして、あんなに鍛えてヘトヘトにして、
そのくせ夜になると心配で眠れなくなってたじゃない。」
アメリンは痛いところを突かれたようで気まずそうにうつむき、小さくため息をついた。
「……全部、トムリンのあのバカ息子のせいよ。
私はララにオットーみたいな生き方をさせたくなかったの。ただ、無事に育ってくれればそれでよかったのに。」
アンは静かにうなずいて答える。
「ララは、いい子だよ……」
それを聞いた二人の間に、しばしの沈黙が流れた。
しばらくして、アメリンがふと思い出したように顔を上げて尋ねた。
「エデリーナ(Edelina)は、最近どうしてる?」
アンは静かにうなずき、答えた。
「元気にしてるわ。最近届いた手紙では、“すべて順調”って書いてあった。
私の可愛い孫娘も、すくすく育っているみたい。」
アメリンはわずかに顔を上げ、遠くの空をじっと見つめながら、少し申し訳なさそうな声で言った。
「アン……あの件は、本当に私たちが悪かった……」
アンはアメリンの長い杖を手に取り、それで軽く彼女の頭をコツンと叩きながら、にっこり笑って言った。
「もう、昔の話はやめましょ。
少なくともエデリーナは、彼女を心から愛してくれる人と結ばれたのよ。
今の婿さん、なかなかの男前よ? あなたたちの家系にも負けてないわ。」
そう言って、アンは立ち上がり、服の裾を軽く払ってから明るく言った。
「さてと、そろそろ夕飯のメニューでも悩まないとね。」
アメリンとアンは長年にわたる親友だった。
その深い絆は、かつてふたりの家族が一つになる機会すらあったほどだ。
彼女たちの子供――オットーとエデリーナは、かつて将来を誓い合い、婚約まで交わしていた。
だが、運命は二人を残酷に引き裂き、彼らは永遠に会えなくなった。
夫と子を失ったアメリンは、深い悲しみを抱え、この辺境の地へ逃れるようにやってきた。
すべてを忘れたかったのだ。
そしてアンは、もともとマクウィス城で暮らしていたが、すべてを捨ててアメリンのそばに来た。
共に、過ぎ去った日々と、癒えることのない傷を分かち合うために――。




