15.日常生活と訓練
日常與訓練
ラフィールが祖母の家で修行を受けるようになってからというもの、トムリンとイヴェットはほぼ毎月、わざわざ街から彼を訪ねてくるようになった。その頻繁な訪問ぶりに、アメリンはつい冗談めかして言った。
「いっそここに引っ越してきたらどう?」
二人の馬車はいつも物資でぎっしりと詰まっており、荷物の多さに置き場所に困るほどだった。村は基本的に自給自足で成り立っているが、街から運ばれる品物で補う必要もあり、そうした役目はいつもトムリンが担っていた。わざわざ山を下りて買い出しに行く者はほとんどいない。生活に必要なものは、大抵村の中でまかなえるからだ。
村の暮らしは秩序立っており、どの家もそれぞれで食事の準備をしていた。たとえ一時的に食料が不足しても、誰も心配することはなかった。
村にはアン先生が運営する孤児院があり、誰でもいつでも訪れて一緒に食事をすることができる。そこには村の孤児たちが暮らしており、アン先生は彼らを世話しながら、村人たちと食べ物と愛情を分かち合っていた。
トムリンとイヴェットは、村に到着すると決まってこっそりと隅のほうに身を潜め、ラフィールの訓練を静かに見守っていた。彼の姿を見つめる二人の胸には、安堵と期待が入り混じっていた。
真夏の太陽がラフィールの肌を照りつけ、そのたくましい姿がより際立って見えた。訓練場では、彼が集中して腕立て伏せに励んでおり、汗が日に焼けた頬を伝って流れ落ちても、まったく気にする様子はなかった。ただひたすらに、自分と向き合っていた。
一ヶ月ごとに、ラフィールの変化ははっきりと分かった。背はいつの間にか伸び、筋肉のラインもくっきりとしてきた。かつてはあどけなさが残っていた顔つきにも、今ではどこか落ち着きと集中の色が見え始めている。
厳しい修行は彼の身体を鍛え上げると同時に、表情や目つき、そして動作の一つひとつにかつてなかったような成熟をもたらしていた。
——とはいえ、その「成熟」は訓練場に限った話だった。
夜になると、ラフィールは父親のそばにぴったりとくっつき、甘えるように寄り添っていた。その姿は、まるで両親のもとを離れたくない幼い子供そのものだった。
そんな彼の様子を見て、トムリンとイヴェットは思わず目を合わせて笑い、心からの安心と愛情で胸が満たされた。
「まあ、まだ八歳だもんな。」
トムリンはそうつぶやき、どこか呆れたようでいて、どこまでも優しい目で息子を見つめていた。
気がつけば、ラフィールは訓練を始めてすでに半年以上が経っていた。アメリンはようやく、彼がより高度なハンター訓練に進む準備ができたと判断した。
訓練の初期段階では、主に対人徒手格闘術に重点が置かれていた。アメリンは固く信じていた――ハンターは「黒潮」の脅威に備えるだけでなく、人間からの悪意にも対応できなければならないと。
この訓練によって、ラフィールは自分の身を守る術を学び、実戦の中で素早く反応する力を身につけていった。
次に始まったのは、対人用の武器訓練だった。これは単なる理論の学習にとどまらず、実戦演習が中心だった。
毎回の授業では模擬戦が行われ、訓練生たちは互いに対戦し合い、競いながら腕を磨いていった。
当初のラフィールはどこかぎこちなく、自分より年下の少女にさえ地面に倒される始末だった。
だが、彼は決して諦めなかった。むしろ、知識と経験を渇望するスポンジのように、あらゆることを吸収し続けた。
何度も倒され、それでもそのたびに立ち上がるたび、彼の目には確かな決意が宿っていった。
月日が経つにつれ、ラフィールの成長は目覚ましいものとなった。
彼は理論を完璧に習得するだけでなく、それを実戦の中で自在に応用できるようになっていた。
最初は押されるばかりだった彼が、やがて同年代の訓練生を打ち負かすほどに強くなっていった。
その成長の一歩一歩が、村人たちの目を引き、彼の根気と集中力は村の模範として称えられるようになった。
冬の冷たい風が村を吹き抜け、最初の雪が静かに大地を覆い尽くすころ、村人たちの心にも重苦しい空気が広がっていった。
ラフィールもその静寂を肌で感じていた。特に、小熊の祖父が亡くなったという知らせが届いてからは、まるで世界全体が暗く沈んだかのように感じられた。
まるですべてを見越していたかのように、アンおばあさんは素早く葬儀の手配を行った。
葬儀は簡素ながら厳かで、白い雪が空から静かに舞い落ちる中、その老人の魂を見送るかのようだった。
冷たい風の中で執り行われたその葬儀で、小熊はただじっと立ち尽くしていた。まだ祖父の死を理解しきれていないようだった。
だが、その場で涙を流し続けていたのは、むしろラフィールだった。
なぜなら、小熊の祖父は、彼にとってこの村で二人目に親しくなった大人だったからだ。
葬儀が終わったあと、ラフィールは必死に気持ちを落ち着けようとしていた。
今日の午後は訓練がなかったため、彼はただ家の前に座り、無言でぼんやりと過ごしていた。
日がだんだんと暮れていく中、遠くからアンおばあさんの声が聞こえてきた。
その声には、焦りと心配がにじんでいた。
彼女はグライムの名前を叫んでいた――もう夕食の時間なのに、村の中でも彼の家の中でも、どこにも姿が見えないというのだ。
ラフィールは少し考えたあと、迷わずこう返事した。
「任せて、アンおばあさん。小熊がどこにいるか、わかる気がする。」
彼は自分なら必ず見つけられると信じて、そのまますぐに村を出た。
やがて、ラフィールは一本の葉をすっかり落とした大きな木の下にたどり着いた。
そこには、やはり地面に縮こまってうずくまる小熊の姿があった。
ここはかつて二人でよく遊んだ場所だったが、今は厚い雪に覆われ、かつての笑い声はもう聞こえなかった。
「小熊!」
ラフィールはそっと声をかけた。やっと見つけたのだ。
だが小熊は微動だにせず、頭を垂れて、まるでラフィールの声さえ聞こえていないかのようだった。
ラフィールはそれを見て、もう何も言わなかった。ただ静かに彼の隣に座り、そっと背中を叩いた。
その小さなぬくもりが、少しでも彼に届けばと思って。
時間は静かに流れていき、夕焼けの光は徐々に薄れ、あたりはほの暗くなっていった。
ラフィールは、小熊が依然として動かないのを見て、懐からある物を取り出した。
それはこっそり持ち出してきた焼きソーセージだった。すでに冷めてはいたが、まだ香ばしい匂いが漂っていた。
彼はそのソーセージを小熊の近くで揺らし、香りを届かせようとした。
数秒もしないうちに、小熊がぱっと顔を上げた。目には一瞬、光が宿る。
「ソーセージ!」
彼は素早くソーセージを奪い取り、夢中で食べ始めた。今日、彼は珍しく昼ごはんすら口にしていなかったのだ。
わずか二口ほどでソーセージを食べ終えると、ラフィールは慌てて言った。
「小熊、うちに来て一緒に住まないか?アンおばあさんのところには行きたくないんだろ?」
小熊はまだ顔を伏せたまま、かすれた声でつぶやいた。
「誰かと一緒に住むのは、いやなんだ……」
ラフィールは声を強め、はっきりと繰り返した。
「小熊、うちに来て一緒に住もう!」
その言葉に、小熊はしばらく静かにしていたが、やがて突然顔を上げ、目をまん丸にして問いかけた。
「本当に、いいの……?」
「もちろん。おばあちゃんにひと言言えば、それで大丈夫だよ。」
すると小熊は勢いよくラフィールに抱きつき、力いっぱいしがみついた。
ラフィールは慌てて叫んだ。
「ちょ、ちょっと! 落ち着いて! 息、できないってば!」
二人がアンおばあさんの家の前に戻ってきたとき、逆に緊張していたのはラフィールだった。
彼はどうやっておばあさんに話せばいいのかわからず、しばらく玄関の前をうろうろしていた。
やっとの思いで勇気を出し、そっと扉をノックした。
「おばあちゃん、ただいま。」
扉が開くと、ラフィールは小熊の手を引いて中へ入った。
すると、すでに食卓には三人分の食器が並べられていた。そのうち一つは、特別に大きな器に盛られていた。
ラフィールが何か言う前に、おばあさんはにっこり笑って言った。
「小熊も来たのね。さあ、一緒に晩ごはんを食べましょう。」
それ以来、小熊は自分の家に住み続けながらも、食事の時間になると必ずラフィールの家を訪れ、彼とおばあさんと一緒に食卓を囲むようになった。
寒い冬の中で、三人で過ごすその時間は、素朴ながらも温かいぬくもりに満ちていた。
この冬、小熊とラフィールの友情はさらに深まり、互いの心に静かな慰めをもたらしていた。
小熊の生活は、ラフィールとはまったく異なっていた。
彼は普通生として、一日の時間を大きく二つに分けて過ごしていた。
半分の時間は村の手伝い。特に重労働を任されることが多かった。
なにしろ、小熊は異様に体が大きく、力も人並み外れていたため、重い荷物を運ぶのはお手の物だった。
残りの時間は、アンおばあさんの教室で勉強していた。
授業は決して簡単ではなく、彼は一生懸命学んではいたが、成績はあまり良くなかった。
それでも、読み書きの基礎を身につけることができ、それだけでも小熊にとっては誇らしいことだった。
小熊にとって、世界はそれほど複雑なものではない。
祖父以外で一番大切な存在は、やはりララだった。
ララは彼の親友であり、よき遊び仲間だった。どんな困難に直面しても、ララが自分のそばにいてくれることを、小熊は信じていた。
この小さな村で、小熊にとってかけがえのない存在は、ララの他にも二人いる。
それが、アメリンおばあさんとアンおばあさんだ。
アンおばあさんは教師として、時に難しい課題を出すこともあったが、常に忍耐強く、優しさをもって小熊を導いてくれた。
そのおかげで、小熊は温かさと安心感を得ることができた。
一方で、アメリンおばあさんはまったく別の存在だった。
彼女は練習生に対しては非常に厳しく、容赦なく完璧を求める指導者だった。
だが、普通生である小熊に対してはまるで別人のように優しく、いつも笑顔で接してくれた。
小熊は知っていた。
自分は優秀な生徒ではなく、学業に秀でているわけでも、練習生のような潜在能力があるわけでもない。
それでも――
この世界には、ララという親友がいて、二人のおばあさんのような温かい大人たちがいる。
それだけで、小熊はこの日々を素晴らしいと感じていた。
毎日の重労働も、勉強の苦しさも、彼らの支えがあれば乗り越えられる――そんなふうに思っていたのだった。




