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第四の魔女:消えた痕跡  作者: Test No. 55
第1巻 - ハンター編(獵人篇)
24/105

14.1 祖母の鬼訓練(2)

挿絵(By みてみん)

 その後の一か月、ラフィルの訓練は毎日変わることなく続けられた。彼の日々は、同じ基礎体力トレーニングの繰り返しで構成されていた。毎回の訓練は、走ること、跳ぶこと、腕立て伏せといった、極めて基本的な運動ばかりだった。

 だが、その努力は無駄ではなかった。徐々に、ラフィルは安おばあちゃんが設定した時間内にランニングを完走できるようになった。毎回が挑戦であっても、彼の身体は着実に強くなっていった。


 ある日、日課のトレーニング中、ラフィルは重い足取りで大きな木の下まで走ってきた。

「ちょっとだけ……休もうかな……」

 そんな怠け心がふと頭をよぎった。ラフィルは木の幹に寄りかかり、しばらく休もうとした。木陰の涼しさに包まれ、彼は目を閉じて体と心を少しでも休めようとした。

 だが、そのわずかな油断の瞬間、耳元で低くうなる声が響いた。ラフィルははっとして目を見開き、心臓が一気に跳ね上がった。周囲を警戒しながら音の出所を探した。

 その時、茂みの影から一匹の恐狼が飛び出した。牙が陽の光にきらめき、ゾッとするような唸り声を上げながら迫ってきた。

 ラフィルの全身は瞬時に恐怖で硬直したが、生存本能が即座に働き、彼は無我夢中で走り出した。

 一歩一歩が普段よりも力強く、素早かった。木々の間を疾走し、風が耳元を切り裂き、呼吸音と心拍音が重なり合い、生存のための交響曲を奏でていた。

 そして、彼が村へと戻ってきた時──ラフィルはその週で最も速いタイムを記録していた。



 一か月の努力を経て、ラフィルの体力は訓練生として最低限の基準に達していた。アメリンは内心でうなずき、彼を他の訓練生たちと共に本格的な体力訓練に参加させることに決めた。

 体力訓練の場では、他の訓練生たちはまるで精密な機械のように、機敏かつ安定した動きで次々と課題をこなしていた。ラフィルも彼らのペースに合わせようと必死で食らいつき、隊列から遅れないように努力した。


 しかし、他の訓練生たちが狩人としての実践訓練に移る中、ラフィルだけは安おばあちゃんの教室へ呼ばれた。

 そこは、体力訓練場とは対照的な知性の香り漂う空間だった。教室の壁にはアルファベットや数字表が貼られ、机の上には本や筆記具がきちんと並べられていた。

 安おばあちゃんは机の向こうに座り、その目には温かく慈愛に満ちた光が宿っていた。まるで、どの子どもも未来への希望に見えているかのようだった。

 この村では、子どもたちや孤児たちは自らの進む道を自由に選べる。正式なハンターを目指して訓練に参加することもできれば、安おばあちゃんの教室で読み書きや基本的な知識を学び、将来別の職業に就くための準備をすることもできる。


 最初の頃、ラフィルは体力訓練では常にビリで、いつも隊列の最後尾を走っていた。どれだけ努力し、汗を流しても、すぐには成果に結びつかなかった。しかし、彼は決して諦めなかった。日が経つにつれて、彼の体力と技術は確実に向上していった。

 やがて、彼の成績には明らかな変化が現れ、隊列の最後尾から中ほどの位置まで上がるようになった。まだ最優秀な訓練生たちには及ばないものの、チームのペースにはしっかりとついていけるようになり、課題に挑む姿勢にも自信が見られるようになってきた。



 その日、灼熱の太陽が空高く照りつける中、村の周囲にある森林では、すべての訓練生たちが前方のペースに必死でついていこうとしていた。

 ラフィルも、安定した呼吸を意識しながら、隊列のリズムにしっかりと合わせて走っていた。汗が額から流れ落ち、目尻にまで染みてきたが、それでも彼の足取りは揺るがなかった。

 ちょうど分かれ道に差しかかったとき、前方の訓練生たちは予定されていた右のルートを取らず、左の道へと進んでいった。ラフィルは眉をひそめ、どこかおかしいという違和感を覚えた。


 声をかけようとしたその瞬間──右足の下に、妙な感覚が走った。踏み込んだ足の下に、確かな地面の感触がなかったのだ。

「しまった!」

 ラフィルは心の中で叫んだ。

 次の瞬間、足元の地面が崩れ落ち、彼はバランスを失って下へと落ちていった。罠にかかったことを即座に悟った彼の脳裏には、無数の思考が駆け巡ったが、その中でも冷静さを失わなかった。

 落下しながら身体をひねり、壁に足を当てて姿勢を制御し、落下速度を緩める。

 地面が目前に迫る中、ラフィルは大きく息を吸い込み、さらに体勢を切り替えながら、見事に着地。そして受け身を取ることで、衝撃を最小限に抑えた。心臓は早鐘のように打っていたが、痛みはほとんどなかった。

 ラフィルはゆっくりと立ち上がり、服についた泥を払いながら周囲を見回した。頭上にある穴が唯一の出口だったが、高すぎて素手では登れそうになかった。

 彼は眉をひそめ、上に向かって叫んだ。

「助けて!罠に落ちた!」

 しかし、返ってきたのはかすかな話し声だけで、明らかに助けようという気配は感じられなかった。ラフィルは、これが誰かによって意図的に仕掛けられた罠であることに気づいた。

 あれこれと試してみたが、自力ではどうにもならないと分かると、彼はついにあきらめ、地面にごろりと寝転がって、目を閉じて居眠りを始めた。



「ララ~、起きて~!」

 上から聞き覚えのある声が響いた。ラフィルはぼんやりと目を開け、見上げると、穴の縁から大きな頭がのぞいていた。それは、他でもない──コグマだった。

 コグマは太い縄を手にして、にこにこ笑いながら言った。

「さあ、これにつかまって! オレが助けてやるよ!」

 ラフィルは縄を見た瞬間、ほっと胸をなで下ろした。すぐさま縄をしっかり握り、コグマの力を借りて、ついに罠の穴から脱出することができた。地上に立ったとき、彼は深く新鮮な空気を吸い込み、胸のつかえが一気に晴れていくのを感じた。

 泥だらけの服を払いながら、ラフィルは不思議そうにコグマを見つめた。

「どうしてオレの場所が分かったの?」

 コグマは頭をかきながら、少し照れくさそうに言った。

「午後の授業に来なかったから、おかしいなって思って探しに来たんだ。」

 その言葉を聞いたラフィルは、思わずコグマの肩をぽんと叩き、声をあげて笑った。

「やっぱり、お前はオレの一番の相棒だな!」

 二人はのんびりと村へ向かって歩き出した。夕陽の残光が彼らの背後から降り注ぎ、二人の影は長く伸びていた。

 村へ戻る途中、訓練場の一角では──

 五人の訓練生たちが、しゃがんだ姿勢のまま、水の入ったバケツを頭の上に載せて罰を受けていた。


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