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第四の魔女:消えた痕跡  作者: Test No. 55
第1巻 - ハンター編(獵人篇)
20/105

13. 引退ハンターの村(1)

挿絵(By みてみん)

 退休獵人村


 馬車は村の門前で十分近くも停まっていた。私は車内に座りながら、心の中でぶつぶつと文句を言い続けた。その焦りが馬車を動かすかのように感じていた。

 父が隣に座って、何度も私をなだめてくれた。その目には忍耐と優しさが満ちていて、まるでその穏やかな声が私の不安を解いてくれるかのようだった。落ち着こうとしても、待つ時間は果てしなく感じられた。

 ついに、馬車は低い嘶き声をあげて動き始めた。

 父の目に浮かんだ合図を見て、私は思わず興奮した。車輪が村の石畳の道を静かに転がり始めると、私は待ちきれずに馬車の扉を蹴り開け、勢いよく飛び降りた。


「はあ〜っ!」

 山の新鮮な空気が顔にぶつかり、木々と土の香りが鼻をくすぐる。その瞬間、胸に詰まっていた吐き気が一気に吹き飛んだ。私は深く息を吸い込み、心地よさに包まれた。

 あたりを見回すと、見慣れた光景が目に飛び込んできた。鬱蒼とした森林、古びた木製の門。まるで年月の流れを物語っているようだった。

 懐かしい村、まるで一本一本の木や一枚一枚の葉が私の帰りを喜んでくれているかのようだ。この心地よい空気に、胸の奥から喜びがあふれ出す。私は思わず声をあげた。

「わあ〜っ!」

 すると、その時。背後から聞こえてきた、優しく懐かしい声。

「ララかい?」

 振り返ると、そこには見覚えのある姿——アンおばあちゃんが立っていた。彼女の顔には温かな笑み、深いしわの中に歳月の優しさが宿っていた。

 私は弾むような足取りで駆け寄り、彼女を抱きしめた。

「アンおばあちゃん、会いたかったよ!」

 そう言いながら、ぎゅっと抱きついた。おばあちゃんの手はしわだらけだったけど、その温もりは変わらなかった。彼女はそっと私の頭をなでて、優しい声で言った。

「いい子ね、ララ、大きくなったわ。」

 その一言に、心が温かくなった。アンおばあちゃんは昔と変わらず、穏やかで優しい。彼女の存在に、私は安心と懐かしさを覚えた。


「アンおばあちゃん、お久しぶりです!」

「アンおばあちゃん。」

 父とイヴェットも馬車を降り、アンおばあちゃんのもとへ歩いてきて挨拶した。

 アンおばあちゃんはやさしくうなずき、まるで旧友を迎えるような笑顔を浮かべた。彼女は手を差し出し、私たちを導くように示した。その手には時の痕が刻まれており、日差しの下で柔らかく光っていた。

「まずはアメリンに会いに行きましょう。今日はちょっと気分が良くないのよ。」

 アンおばあちゃんの声には少し心配がにじんでいた。


 その言葉を受けて、私たちは彼女に従って、古びた木造の家へと入っていった。木の梁や板には長い年月の跡が残っており、まるで過去の物語を静かに語っているかのようだった。

 トムリンがそっと口を開いた。

「さっきの子たちが卒業生か。初めて会ったときは、あんなに小さかったのに……もう自分の道を歩む年齢か。」

 アンおばあちゃんはため息をつき、その口調には別れに対する寂しさと不安が混じっていた。

「彼女、こういうお別れの場面が一番苦手でね。今回は狩人の卒業生が三人もいるから、きっと今夜は眠れないでしょうね。」

 私は黙ってその会話を聞いていた。こういった話題に特別な関心はなかった。ただ、もうすぐおばあちゃんと再会するかと思うと、胸が高鳴って仕方なかった。


 アンおばあちゃんは長い廊下を進み、角を曲がって中庭に出た。そこに広がっていた光景に、私は思わず息を呑んだ。

 地面にはふかふかの苔と緑の芝が広がり、まるで自然が織りなした絨毯のようだった。

 周囲には多種多様な植物が茂り、高く伸びた木々が葉を広げ、低い灌木には色とりどりの花が咲き、ほんのりと香りを漂わせていた。まるで自然が手塩にかけて造った庭園のようで、どこを見ても生命の息吹と静かな美しさに満ちていた。

 トムリンの視線がある一角に向けられた。彼は独り言のように呟いた。

「父さんが好きだった花……来月には咲く頃かな。」

 その言葉に私も目を向けた。咲きかけの花がそこにあり、中庭がまるで春の訪れを待っているかのようだった。それは、心と心の再会をも予感させる静かな風景だった。

 アンおばあちゃんは軽やかな足取りで大きな部屋の扉まで歩き、小さな声で優しく呼びかけた。

「アメリン、トムリン一家が会いに来ましたよ。」


 アンおばあちゃんは一度立ち止まり、部屋の中の反応を確かめるように耳を澄ませた。

 その後、彼女は手を伸ばして、木製の引き戸をそっと開けた。戸がきしむような小さな音を立てると、私たちは彼女の後について靴を脱ぎ、部屋へと入った。部屋の中は少し薄暗く、窓は固く閉ざされており、わずかな陽光が紙張りの窓や扉の隙間から差し込んでいた。


「母さん、お久しぶりです。」

 父の声は深い懐かしさを帯び、静かな部屋に響いた。

「お母様、お身体の具合はいかがですか?」

 イヴェットも同じく、誠実な口調で声をかけた。

「おばあちゃん、こんにちは。」

 私も二人と一緒にひざまずき、慎重にあいさつした。

 アンおばあちゃんは部屋の中を少し歩き、静かに窓を開けた。日差しが一気に部屋いっぱいに広がり、空気も一瞬で爽やかになった。

 彼女は窓を開けながら言った。

「いいお天気ね、空気を入れ替えましょう。」


 光に包まれたその瞬間、私は部屋の隅に座っているおばあちゃんの姿を見つけた。彼女は背を向けて静かに座っていた。鉄灰色の長い髪はきっちりとまとめられ、きちんと結い上げられていたが、その背中はやや丸くなっていた。

 私たちの挨拶は届いているはずなのに、おばあちゃんはすぐには反応を見せず、まるで陽の光に身を委ねているかのようだった。ようやく、彼女は小さくため息をつき、ゆっくりと振り返ろうとした。

 父とイヴェットはすぐに駆け寄り、彼女を支えた。

「今日は、こんなに早く来たの?」

 おばあちゃんの声は少しかすれていたが、驚きと、それに混じるかすかな疲労の色があった。

 彼女の視線が私に向いたとき、一瞬だけ目を見開き、複雑な表情を浮かべた。

「今回はララも連れてきたのね。」

 私は、時の流れを刻んだその顔を見て、思わず緊張した。彼女のまなざしは穏やかで、波風のない湖面のように静かだった。

 私は思わずごくりと唾を飲み込み、少し頭を下げてもう一度挨拶をした。

「おばあちゃん、こんにちは。」

 心の中では小さく安堵した。かつて私を圧倒したような重圧は、今回は感じられなかった。

 おばあちゃんは父とイヴェットに座るように促し、ゆっくりと口を開いた。

「今回は何か特別な理由があって来たの?」

 父はまっすぐにおばあちゃんを見て、真剣な声で言った。

「イヴェットと相談したのですが、ララをこちらで鍛えてもらえないかと思いまして。いかがでしょうか?」

 おばあちゃんは少し驚いたように眉をひそめた。

「ん? 何があったの? ララを私のところに預けるなんて、ずいぶん思い切ったのね。」

 そう言いかけたおばあちゃんは、すぐに口調を変えてこう言った。

「アン! ララを外に連れて行ってあげて。」


 アンおばあちゃんが軽やかな足取りで私を部屋から連れ出し、外の新鮮な空気が顔を撫でた。私は思わず深呼吸をした。あの部屋の中では、いつの間にか息をすることすら忘れていた気がする。

 アンおばあちゃんはいつものようににこにこしながら言った。

「ララ、外で遊びましょうね。」

 その笑顔はまるで春の陽だまりのようで、私の心を穏やかにした。背後で木の戸が静かに閉まると、部屋の中からかすかに話し声が聞こえてきたが、私は今の選択を少しも後悔していなかった。

 家を一歩出た瞬間、すべての不安がどこかへ消えたようだった。

 私はアンおばあちゃんを見上げると、彼女は穏やかに言った。

「この時間は、みんなお昼寝してるころよ。グライムもたぶん家で休んでるはず。」

 私ははっとして、アンおばあちゃんには本当に心を読む力があるのかと思った。そして思わず叫んだ。

「じゃあ、小熊グライムを探しに行ってくる!」

 そう言って私はグライムの家に向かって駆け出した。背後からアンおばあちゃんの声が聞こえた。

「グライムの家に入るときは静かにね。おじいさんが休んでるから、邪魔しないように。」


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