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第四の魔女:消えた痕跡  作者: Test No. 55
第1巻 - ハンター編(獵人篇)
11/85

7.1幼き日々(2)

挿絵(By みてみん)

 *


 マークイス城の大通りは、まるで祭りのように賑わっていた。人々がひっきりなしに行き交い、呼び込みの声や足音が入り混じって、まるで街全体が今この瞬間に目覚めたかのようだった。

 ラファエルは父の手をしっかりと握りながら、一軒の玩具店の前に立っていた。ガラスケースの中に並ぶ色とりどりのおもちゃに目を奪われ、目を瞬かせることさえ忘れていた。

 滅多に外出することのない彼にとって、目の前の光景はまさに未知の世界。無限の可能性と驚きに満ちた、新しい世界がそこに広がっていた。彼の瞳はきらきらと輝き、顔には抑えきれない興奮の色が浮かんでいた。

 その二人の少し後ろでは、母親と二人の護衛が周囲の様子に絶えず目を光らせ、緊張を一切緩めることなく警戒を続けていた。

 イヴェット――ラファエルの母は、家を出たその瞬間からずっと、右手を腰の剣の柄から離していなかった。

 彼女の表情は張り詰め、鋭い視線は絶え間なく周囲を巡っていた。先ほどラファエルが近づいて話しかけた時も、彼女は集中しすぎていて、まともに応じることすらできなかった。


 空はどんよりと曇り、春先の肌寒さが空気にひんやりとした感触を与えていた。しかし、そんな冷たさも、ラファエルの興奮を冷ますことはできなかった。

 彼は手にした恐狼の木彫りを振り回し、新しいおもちゃを嬉しそうにいじっていた。その小さな木彫りの狼は、まるで彼の新しい冒険の相棒であるかのように、彼の想像の中で生き生きと動き回っていた。

 ラファエルの父、トムリンはというと、片手におもちゃが詰まった袋を提げ、もう一方の手で懐から水筒を取り出し、警戒を続けるイヴェットに差し出した。

「ほら、少し休んで。水を飲んで落ち着こう。」

「……ありがとう。」

 イヴェットは差し出された水筒を見つめ、その鋭かった表情がほんの少し和らいだ。

 彼女の頬にわずかな恥じらいが浮かび、ようやく手を剣の柄から離して水筒を受け取った。

 そのわずかな瞬間だけ、彼女の緊張はほどけ、周囲の危機感を忘れるほどに、ほんの少し穏やかな空気が漂った。


 時間はゆっくりと流れ、空に広がる厚い雲が光と影の境界を曖昧にしていた。

 昼時になっても太陽の光は重い雲に遮られ、街全体が灰色の静けさに包まれていた。

 ラファエルは堂々とした足取りで前へと進んでいた。両腕には戦利品の袋をしっかりと抱え、その口からは、精巧に彫られた木馬の一角や、色鮮やかな積み木がのぞいていた。

 彼の足取りは力強く、荷物の重さなど気にもしていない様子だった。

 袋が腕の中で軽く揺れ、その一振り一振りがまるで「これが僕の成果だ」と誇らしげに語っているかのようだった。

 彼の瞳には幼さの残る満足が浮かび、口元はほんのりと笑みを浮かべていた。――自分の手で勝ち取った、ささやかな勝利を大事そうに抱えて。


 それとは対照的に、トムリンの姿にはやや疲労の色が見えていた。

 彼は両手に、ずっしりと重い二つの袋を提げていた。一つはラファエルが選んだおもちゃ、もう一つは今日の市場で買い集めた食材の数々だった。

 彼は一歩一歩、まるで見えない限界に挑むかのように、慎重に歩みを進めていた。

 肩はわずかに落ち、額に浮かんだ汗は頬をつたい、静かに流れ落ちていく。

 姿勢を保とうと努力するものの、両腕にかかる重みは容赦なく、彼は何度も持ち替えながら歩き、指先はわずかに震えていた。


 その隣では、イヴェットが軽々と片肩で大きな箱を担いでいた。箱の中にはさまざまな物が詰め込まれていたが、彼女にとってはその重さなど問題にもならないようだった。

 彼女はゆったりとした足取りでトムリンの隣を歩きながら、ときおり彼の様子をうかがうように視線を送っていた。その目には、どこか静かな気遣いがにじんでいた。

「あなた、無理してない? 少し持とうか?」

 不意にかけられた優しい言葉に、トムリンは驚いたように顔を上げ、無理に笑みを浮かべた。

 だが、額の汗が光を反射し、彼の疲れを隠すことはできなかった。

「大丈夫。これくらい、自分で持ちたいんだ。」

 気丈に返すその声の奥には、かすかな息切れが混じっていた。

「無理はしないでね。」

「せっかくララ(ラファエル)を連れてきたんだ。彼に水を差したくない。」

「心配しないで。私たちがついてるわ。」


 トムリンは、たしかに「ハンターギルドの会長」という肩書きを持っている。だが、彼自身は一度も本物の狩人になったことがなかった。

 幼いころから身体が弱く、すぐに病気になっては寝込むことが多かった。激しい運動や長時間の肉体労働のあとには、決まって高熱を出した。

 若い頃の彼は、狩人になるという夢に胸を躍らせていた。

 しかし、体の限界は厳しく、その夢はやがて断念せざるを得なかった。

 それでも彼は、自分にできる形で仲間を支え、家庭を守る道を選んだ――そんな過去が、今の彼の背中にそっとにじんでいた。


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