13.1 安心をもたらす顔(2)
簡単な片付けを済ませ、荷物をまとめ、馬を引いて引退ハンターの村へ向けて出発する準備をした。城門近くまで来たとき、壁にもたれて待っている二人の人影が見えた。どうやらすでにしばらく待っていたようだ。
私は思わず立ち止まった。一人の顔に見覚えがあったからだ。
「ナクソン?」
私は信じられない思いで声を上げた。彼は私と一緒に村で卒業した仲間だ。彼の夢が世界中を旅することだったのを覚えているが、こんなところで会うなんて思ってもみなかった。
「よお、ラファエル!」
ナクソンは見慣れた爽やかな笑顔を浮かべ、軽く手を振った。彼の隣にはもう一人、若い男が立っていた。見たところ私たちより年下で、たぶん後輩だろう。
「なんでお前たちがここに?」
私は思わず尋ねた。
「旅の途中さ。」
ナクソンは肩をすくめ、気楽な冒険者らしい口調で答えた。
「たまたまドゥーク城を通りかかったら、何か面白いことが起きてるって聞いて、ちょっと残ってみたんだ。そしたらほんとに お前 に会えた。」
「偶然じゃないよね?」
アン婆さんが冷たく言った。その口調にナクソンの笑顔が一瞬固まったが、すぐにいつもの調子を取り戻した。
ナクソンはふざけるのをやめ、真剣な顔で言った。
「俺たち――」 彼は隣の後輩を指さし、
「一緒に村に戻りたいんだ。力になれることがあれば、絶対に頑張るよ。」
アン婆さんは静かに二人を見据え、視線はまるで鋭い刃のようだった。やがて、彼女は首を振って、穏やかだがきっぱりとした口調で言った。
「今回の行動には向かないよ。実力が足りないと、みんなを危険にさらすことになる。」
ナクソンの笑顔が一瞬で凍りつき、後輩はうつむいて明らかに落胆していた。だが、ナクソンはすぐに持ち前の自信を取り戻し、いたずらっぽい笑みを浮かべて言った。
「手伝うのがダメなら、案内人くらいならいいだろ? 俺、この何年かいろんなところを旅して、隠れた小道や密偵の目を避けるルートを知ってるぜ。」
私はアン婆さんの方を見た。彼女は少し考え込み、結局頷いた。
「案内人だけなら、検討してもいいかな。」
こうして、ナクソンが私たちの仲間に加わった。彼はドゥーク城の脇門を通り、ほとんど人の通らない小道を次々と案内し、巡回隊や密偵の目をすべて避けてくれた。旅は予想以上に順調で、ナクソンの独特な冒険経験が大いに役立った。
私たちは正式に村へ向かう道を踏み出した。一歩一歩に、未来への不安と焦りが混じっていた。
数日後、私たちは引退ハンターの村の山のふもとにたどり着いた。空はどんよりと曇り、遠くの山林を薄い霧が覆っていた。
道端に一人の村人が立ち、私たちをじっと見つめていた。彼の顔には深い不安が浮かび、服は乱れ、疲れ果てた表情はまるで何日もここで待ち続けていたかのようだった。彼の口からこう告げられた。
「婆さんは戦える村人十数人を連れて、すでにマルキス城に向かったよ。」
アン婆さんを村に残し、私とグレムはナクソンと共にすぐに出発し、森や小道を抜けて、ついにマルキス城に到着した。城壁は依然として高くそびえ、夕陽の光が灰色の石壁に映り、まるで何も変わっていないかのようだった。だが、私の心は見知らぬ感覚と不安で満ちていた。
ナクソンの助けを借り、私たちは変装して城内に潜入した。
見慣れた通りが視界に飛び込んできたが、胸が締め付けられる思いだった。ここにある一砖一瓦、一つの通りや路地は、私が育った場所だった。だが今、その親しみには言いようのない違和感が混じっていた。
三週間前、この街はクーデターを経験したばかりだ。
なのに、今の通りはまるで昔と変わらぬ繁栄を保っていた。露天商の呼び声が響き合い、子供たちが路地で追いかけっこをし、屋台からは湯気が立ち、常連たちが雑談しながら食事を楽しんでいた。まるで何も起こらなかったかのように。
私の足取りがわずかに止まり、心の底から怨恨が湧き上がった――
なぜだ?
なぜこの街はこんなにも平静でいられる? この繁栄は誰がもたらしたものだ?
私の父――トムリンだ。彼は城主として心血を注ぎ、市民が良い暮らしを送れるよう尽力した。なのに今、彼は打倒され、囚われ、公正すら得られない。
なぜ誰もが何事もなかったかのように振る舞える?
「何故だ?」
私は低くつぶやき、拳を無意識に握りしめ、関節が白くなり、目元がわずかに赤くなった。胸の奥で燃える怒りが理性を焼き尽くし、この冷淡な表層を粉々に引き裂きたい衝動に駆られた。
その時、突然、一つの手が私の腕を強く掴んだ。
「こっちだ。」
ナクソンが低い声で警告し、冷静だが拒否を許さない口調で、素早く私を狭い路地に引き込んだ。
路地は薄暗く、湿った空気にはカビの匂いが漂っていた。私たちは曲がりくねった道を進み、目立たない裏口の前で立ち止まった。ナクソンが三回ノックすると、ドアが静かに開いた。
中は隠れ家のような宿で、薄暗いランプが温かみのある光を放っていた。カウンターの後ろには微笑む中年女性が立ち、ナクソンを見ると親しげな表情を浮かべた。
ナクソンは女将と軽く言葉を交わし、主人が情報収集に出かけ、女将が卒業生だと話した。
ここの運営は、アン婆さんが身を隠していた宿とそっくりだった。
旅館の二階で、私たちは廊下の突き当たりにある部屋に案内された。ドアの向こうから、重要な話をしているらしい囁き声が聞こえてきた。
ナクソンがドアをノックし、落ち着いた声で言った。
「ナクソンです。」
中から澄んだ女性の声が響いた。
「どうぞ、入って。」
ナクソンとグレムが先に部屋に入り、私はその後についたが、グレムの大きな体が視界をほとんど塞いでいた。
「グレムも戻ってきた! よかった。」
「アメリン先生、帰ってきました。」
グレムが答えた。
「よし、まずは休んで。レイナとまだ細かい話を詰めなきゃいけないから。」
その聞き慣れた声には喜びが溢れていたが、かすかな疲れも感じられた。
ナクソンが軽く頭を下げた。
「じゃあ、後でまた来ます……レイナ、ちょっと急ぎの話があるんだけど、ちょっと出てきてくれる?」
「今?」
「うん、急いでるんだ。」
「わかった、先生、じゃあ後で戻ります。」
「レイナ」という女性がそう答えると、すぐに部屋を出てきた。
その瞬間、鼻の奥に温かい感覚が広がった。グレムがそっと横にずれて視界を開けてくれ、私は顔を上げ、スタイルの良い女性と視線を合わせた。
彼女は一瞬立ち止まり、すぐに柔らかな微笑みを浮かべ、軽快な口調で言った。
「先生、ちょっと後に戻ります。少し話してきます。」
そう言うと、彼女は横に視線を向け、私をちらっと見た。その目は親しげでありながら、どこか探るような雰囲気を持っていた。私が反応する前に、彼女はナクソンと一緒にドアの方へ歩いて行った。
私は微笑み返そうとしたが、口元が硬直してわずかに震えただけだった。
「レイナ……」 その名前が脳裏に浮かび、ほろ苦い記憶を呼び起こした。
彼女も卒業生だ。訓練場では、彼女には随分と苦しめられたものだ。彼女の格闘術は冷酷で容赦なく、陽光の下で顎を軽く上げていた姿や、いつも自信に満ちた目を覚えている。
今、彼女の姿は廊下の薄暗いランプの光に溶け込み、ナクソンと一緒にドアの外へと消えていった。
ドアが閉まった瞬間、私の視線は部屋の隅に移動した――
そこに、彼女が座っていた。
痩せた老女の姿が、木の椅子に斜めにもたれ、鉄灰色の髪が肩に乱れて垂れていた。髪を整える気力も気分もないかのようだった。右足の義肢がスカートの裾からちらりと見え、脇に置かれた杖は、木の表面に歳月の跡が刻まれていた。
空気は静まり、まるで時間が彼女の静寂を邪魔することをためらうようだった。
彼女は小さくため息をつき、ゆっくりと手を伸ばして杖を握った。その杖は古びていて、彼女の身長にはやや合わず、少し長すぎるように見えた。先端の外殻が異なる色で、ただの杖ではないことを示していた。
その動作は穏やかで落ち着いていたが、どこか見過ごせない重厚な雰囲気を漂わせていた。
「婆さん……」 私は低い声で呼びかけたが、喉が乾いて声が出なかった。
婆さんは動きを止めず、ゆっくりと立ち上がった。私の声がまだ耳に届いていないかのようだった。彼女の動作は緩慢で重々しく、歳月の重みが体に刻まれているようだった。
完全に立ち上がった後、彼女は一瞬動きを止め、ようやく私の方を振り返った。
疲れ果てたその目は少し見開かれ、隠しきれない驚きとためらいが浮かんでいた。婆さんの唇が動き、何かを言おうとしたが、声にはならなかった。
「婆さん、帰ってきたよ。」
私は少し声を張り、震える口調を隠せなかった。
彼女の表情が一瞬揺らぎ、目に複雑な感情が閃いたが、すぐにいつもの落ち着きを取り戻し、体をまっすぐにし、わずかに威厳ある低い声で言った。
「帰ってきてくれてよかった……」
そう言うと、彼女は何か続けようとしたが、頭を下げ、言葉を切りづらそうにした。
いつの間にか私の視界はぼやけ、熱い涙が目元で揺れていた。婆さんの落ち着きが意図的なもので、私への信頼と、長年培った強さの表れだとわかっていた。
だが、その冷静さが、私の心に抑えていた感情をもう抑えきれなくさせた。
一歩、二歩、私は大きく踏み出し、婆さんを強く抱きしめた。
彼女の体は記憶よりも小さく、胸の高さにしか届かなかった。かつて、私の目に無敵に見えたその姿は、今、こんなにも脆く見えた。
「婆さん……会いたかったよ。」
その言葉が口をついて出た瞬間、まるで何かのスイッチが入ったようだった。抱きしめた婆さんが小さく震え、静かな部屋に、抑えたすすり泣きがはっきりと響いた。
彼女は声を上げて泣かなかったが、震える肩は止められなかった。長年抑え込んできた感情が、ようやく解放されたかのような、抑えた本物の泣き声だった。
私は腕をさらに強く締め、彼女を深く抱きしめた。彼女を慰めるためでもあり、自分自身を慰めるためでもあった。
言葉は必要なかった。この瞬間の抱擁は、千の言葉を超えていた。




