19. Jewelry Pupil の賭博 I
ヒルトン東京 23:00
CASE 四郎
俺を含めたメンバー全員が、ヒルトン東京に集結していた。
ドレスコートが必要だった為、二郎に借りた全身黒に揃えたスーツを着た。
六郎が俺の髪を適当にセットしていた。
髪なんかいじらなくても良いのに。
そんな事を考えていると、黒のハイエースの中で六郎が俺に声を掛けて来た。
「危なくなったらすぐ、あたし達に連絡するのよ?」
この間、大怪我をしてから、六郎は俺の事を気に掛けるようになった。
「おい、四郎!!返事をしろ、返事を!!」
それは五郎も一緒だった。
「分かったってば、何なのお前等…」
「人が心配してんのに溜め息を吐くな!!」
「分かったよ」
五郎がうるさいので、適当に返事をした。
「2人共、心配してこう言ってるんだ。分かってくれ」
「2人が四郎にベッタリなのウケる」
二郎の言葉を聞いた三郎は、ケラケラと笑っていた。
「おい、静かにしろ。俺達は四郎のサポート役だろ」
「分かってるよ。でも、四郎が出て来るまで俺達は暇じゃん?中の様子は七海のパソコンで見るし」
一郎の言葉に三郎は答えた。
七海に今日の為に、取り寄せて貰ったネクタイピンの形をした小型カメラを付けていた。
「今回はインカムは着けていけないからね、小型カメラに映った映像をボスにも共有するようになってるよ」
「これが小型カメラ?お洒落なネクタイピンだと思ってた」
隣に座る五郎は、俺のネクタイに付いているネクタイピンに視線を向けた。
確かに、これが小型カメラだとは思えないな。
コンコンッ。
窓ガラスが叩かれた。
助手席にいる二郎が窓を開け、俺に視線を向けた。
窓の外にいたのは辰巳さんと知らない男だった。
「四郎、辰巳さんが迎えに来たぞ」
二郎が俺に声を掛けて来たので、車から出る準備を
した。
一応、愛銃を持って行こう。
「分かったよ。それじゃあ、行ってくる」
「危なくなったら…」
「分かってるよ、六郎。心配なら動けるようにしとけよ」
俺はそう言って、車を出た。
「よう、四郎。コイツも招待状を貰ったんだ」
辰巳さんの隣にいる男に視線を向けた。
焦茶色のウルフヘアーに少し焼けた肌、狐面の男。
背は高くスラッとスーツを着こなしていた。
「名前はユズリハ。元、兵頭会の人間だったんだ」
「訳あって兵頭会は抜けたんだ。ま、宜しく頼むわ」
ユズリハと言われた男は、そっち側の人間だったんだと分かる。
普通の人とのオーラが違う。
"殺し"の仕事もやっていたんだなと分かる。
同業者の勘がそう言っているからだ。
「コイツは四郎、雪哉さん所の人間だ」
辰巳さんの話を聞いたユズリハは、俺に声を掛けた。
「そうか、お前の所もJewelry Pupil いるんだよな?俺の弟がJewelry Pupil でな。弟の薫の側にいる為に兵頭会を抜けた訳だ。この事は親父…いや、雪哉さんの了承を得ている」
ボスは了承したのか…。
まぁ、モモの事も大事にしてるみたいだしな…。
「俺の場合は、ボスの命令で守ってるだけだけど」
「あー、雪哉さんのね…。まだ、第2段階も行ってない感じだな、零士」
ユズリハは謎のワードを放った。
第2段階…?
「あぁ、第1段階はいってるがそこまでは。それより、そろそろ行くか」
時計を見ると、時刻は23:45 になっていた。
「椿の開催してる賭博に参加する日が、来るなんてなー。絶対に悪趣味なヤツだぞ」
ユズリハの言葉を聞いて、何となく察しが付いた。
どうやら、椿と言う奴は相当は変わり者のようだ。
「俺、暫くそっちから足を洗ってたから、免疫付いてないかも…」
ユズリハは苦笑いをしながら、言葉を吐いた。
「椿の奴が悪趣味過ぎるんだよ。あ、ホテルに続々と人が集まってるみたいだな」
辰巳さんに言われ、ホテルの入り口に視線を向けた。
確かにドレスコートをした歳が行っている男女が、中に入って行った。
ホテルの入り口にはガードマンが入っていて、中に入る為には、招待状を見せなければならないらしい。
辰巳さんが最初にガードマンに招待状を見せ、入り口を通った。
その次にユズリハ、俺が入ろうとした時だった。
後ろから、三郎が俺に声を掛けて来た。
「四郎、ちょっと」
「あ?三郎?」
俺が三郎に近寄ると、ホテルの入り口から距離を離された。
「入り口にセンサーが貼られてるって七海が。武器を所持してるかのセンサーだって。四郎、銃を持ってたでしょ?」
それを知らせる為にら三郎は来たらしい。
「そうなのか?危なかったな。じゃあ…」
俺は愛銃を三郎に渡した。
「間に合って良かったよ、下手に騒ぎを起こしたくないしね。四郎、気をつけてね」
三郎の笑顔が不安気だった。
この顔を見るのは、ボスの所に拾われる前だった。
不安そうな顔しやがって…。
俺は三郎の額にデコピンをした。
パチンッ。
「あいた?!な、何すんだよ…」
額を押さえながら、三郎が俺を見て来た。
「帰って来るから心配すんな。その愛銃を頼んだぞ」
「分かってるよ。頑張ってね」
「あぁ」
三郎に背を向け、ホテルの入り口に向かった。
0:00 ヒルトン東京 パーティ会場
俺達は、ガードマンにパーティ会場に案内される途中だった。
「ぎゃぁぁあぁぁぁぁぁぁ!!!」
男の子の叫び声が聞こえた。
「いたい、いたい、痛い痛い痛い!!!」
尋常じゃない叫び声が、パーティ会場から聞こえる。
何だ?
ここは、賭博をする会場じゃないのか?
いつの間にか男の子の叫び声は聞こえなくなったが、パーティ会場に着くと血生臭い匂いがした。
「ゔ…、久々に嗅いだわ…」
ユズリハは鼻を摘みなが、苦笑いを浮かべる。
「こちらで御座います」
ガードマンは何食わぬ顔をして、パーティ会場の扉を開けた。
キィィィ…。
開かれた先には、ルーレトの台が何台か置かれていた。
ルーレット台には参加者達が集まりチップを置き、100万の札束を次々と出している。
「おい、ルーレット台の横下を見てみろ」
辰巳さんに言われた通りにルーレット台の横下を見ると、小さな子供が血を流して倒れていた。
カツカツカツ。
「やぁ、いらっしゃっい」
俺達の前に現れたのは、高級スーツを着た赤髪の男だった。
「九条会の若頭の辰巳君が来るとは思わなかったな。招待状は送ったけど、来ないと思ってたよ」
初対面だが、コイツが椿だと分かった。
辰巳さんとユズリハの顔付きが、スッと変わった。
「ユズリハも久しぶりだね、何年振りだっけ?」
「それよりも、あの子供の死体は何だよ」
ユズリハはそう言って、椿を睨み付けた。
「あー、あの子供はJewelry Pupil だよ。Jewelry Pupil 賭博だからね?目玉をくり抜いて景品にしてるんだ。エメラルドのJewelry Pupilだよ?ほら、何人かの子供が転がってるだろ?好きなJewelry Pupil の所に行って、ルーレットをやって来て良いよ」
椿はそう言って、笑った。
あんなに不気味な笑みは見た事がない。
左目のオレンジダイヤモンドの瞳が、不気味にキラキラと輝いていた。
「テメェ、ガキの命を奪って楽しいのか?あ?」
「昔と変わったねユズリハ。前の方が僕は好きだったなー、冷酷で人を殺すのを何事もなくしていた頃の君に。あー、薫くんと暮らしてから変わった?」
椿の言葉を聞いたユズリハは、椿の胸ぐらを掴んだ。
ガッ!!
「最近、コソコソ嗅ぎ回ってる奴がいると思ったら…。テメェの組みの奴等だったか。薫に手出して見ろ、殺すぞ」
ユズリハは本気で怒っているのが分かる。
「俺に攻撃して来た殺し屋も、アンタの所のヤツ?」
俺はそう言って、椿に尋ねた。
「椿様から離れろ」
バニーガールの格好をしたパステルカラーのピンク
頭の女が、ユズリハにナイフを向けていた。
この女、気配を消してユズリハに近付いたのか。
「喜助、お客様にナイフを向けてはいけないよ。ユズリハもこの子の存在に気付いてても、僕の胸ぐらを掴んだんだろ?」
椿はジッとユズリハを見ながら、掴まれている手を解き俺に近付いて来た。
「四郎君、少し話さない?そこのルーレット台の席に座ろう。君達2人もおいで」
椿は話終えると、奥にあるルーレット台に歩いて行った。
「大丈夫か、ユズリハ」
辰巳さんは、ユズリハに声を掛けた。
「あぁ、悪い。椿に薫の存在はいずれは知られるとは思っていたけど、カッとなった。四郎も悪いな」
「いや、俺は大丈夫だけど。椿って奴は気味が悪い男だって事は俺も見て思った」
俺は辰巳さんとユズリハに、俺達Hero Of Justice の存在を知られている事を話した。
「そうか、椿の奴が似たような組織を作っていたとしてもおかしくない」
「椿は金を使って情報を買ってる。奴の知らない情報はないって言われてるんだ」
辰巳さんとユズリハが、椿の情報収集能力について話した。
「椿は俺と話がしたいみたいだし、話してみるわ」
「あぁ、椿の考えが何なのかは知りたい所だな」
「早く来てくれます?」
辰巳さんと話していると、バニーガールの女が苛々
しながら俺達に声を掛けてた。
「椿様を待たせないでくれます?」
「さっさと、行けば良いんだろ」
「最初からそうして下さい」
女は嫌味を言ってから歩き出した。
俺達、3人も血で汚れた床を踏み椿の待つルーレット台に向かった。
***
兵頭会本家ー
兵頭会本家の周りには、見張り役が何十人も外に立っていた。
その中には、九条組の組員もいた。
それは、九条美雨とモモが兵頭会の本家にいるからであった。
兵頭雪哉の部屋には、九条美雨とモモ、九条光臣がいた。
「悪いな、雪哉。俺と美雨もお邪魔しちまって」
「お邪魔だなんて思いませんよ。モモちゃんも美雨お嬢さんとご一緒でら楽しそうですから」
「美雨に友達が出来て、俺も安心したよ」
九条光臣はそう言って、モモと美雨を見つめた。
「今回の賭博、椿が攫って来たJewelry Pupil の子供達が会場にいるそうです。こちらに映ってるのが、その会場の様子です」
兵頭雪哉はそう言って、パソコン画面を九条光臣に見せた。
パソコン画面に映し出された映像は、酷い物だった。
ディーラーが、子供達の目を抉り取っている映像が流れているからだった。
「椿の奴は、何て事を…」
「ユズリハの事も椿は調べていたようで、薫くんの事調べが付いてるみたいです」
「薫くんの事も…、ユズリハと薫くんを兵頭会本家に置く必要が出て来たんだじゃないか」
九条光臣は、兵頭雪哉に尋ねた。
「ユズリハは、薫くんの為に組を抜けました。俺はそうしても構いませんが、ユズリハはユズリハなりの筋を通してくるはずです」
「今は筋とかの話をしてる場合じゃないぞ。椿は奪いに来るぞ、薫くんも美雨の事もだ。今は泳がされているとしか思えん」
「えぇ、それは俺も思っています。次の手を早く打つ可能性がありますね」
九条光臣と兵頭雪哉が話している間、モモと九条美雨は話をしていた。
「心配だね、モモちゃん」
「うん。本当は、皆んなと一緒に四郎の事、車の中で待ってたかったな」
「でも、美雨達がいたら…。辰巳達が動けないっておじいちゃんが…」
九条美雨はそう言って、下を向いた。
「辰巳はいつも美雨の為に戦ってる。美雨の側から離れた事なんてなかったの。今、こうやって離れてるのが凄く寂しい…」
「美雨ちゃん…」
「辰巳が帰って来なかったらどうしよう…」
「辰巳お兄ちゃんが、美雨ちゃんを置いて帰って来ない事はないよ」
モモは九条美雨の頭を撫でながら、話を続けた。
「この間、モモの髪を四郎が撫でてくれたの。初めて、四郎が撫でてくれて嬉しかった。四郎の役に立ちたい、四郎にもっと愛されたいって」
「モモちゃんは、四郎お兄ちゃんの事が大好きなんだね」
「大好きよりも上なのかも」
「大好きの上?」
「うん、美雨ちゃんもでしょ?」
「うん、大好きの上!!」
「私達は、ここで待ってよ」
「うん!!」
***
ヒルトン東京ー
CASE 四郎
ルーレット台の席に座ると、椿が俺に笑い掛けた。
「雪哉さんのお気に入りなんだって?」
「お気に入りって?」
「雪哉さん、お気に入りの子供を集めて殺し屋に育ててたみたいでね?その中に、君が入っていたんでしょ?」
「知らねーよ、そんな事は」
「僕も真似して同じような事をしたんだけどね。僕、欲しい物は絶対に手に入れたいんだ」
まどろっこしい言い方をして来るな。
やっぱり、殺し屋組織を作っていたみたいだ。
ボスの真似したって認めたし。
「このルーレットの賭けに僕が勝ったら、君の所のJewelry Pupilを僕に頂戴?」
椿の言葉を聞いた辰巳さんとユズリハの眉毛が、ピクッと動いた。
これが目的だったか。
「四郎、どうすんだ?椿の奴、本気だ」
辰巳さんが耳打ちして来た。
「アンタの事だから奪いに来ると思ってた。だから俺を招待したの」
「んー、それもアリだけど君に会いたかったのが本音。僕が負けたら、僕の所にいるJewelry Pupilをあげるよ」
椿の言葉に耳を疑った。
自分のJewelry Pupil をやるだと?
何を考えてんだ、この男は。
「さぁ、どうする?」
この賭けにのるか、乗らないか…。
椿は俺だけに勝負を仕掛けて来た。
モモを狙ってるのは、本当だろう。
冗談で言ってるのか、本気で怒って言ってるのか分からない。
だが、俺の中にモモを渡すと言う選択肢がなかった。
「あぁ、お前の勝負を買ってやるよ、椿」
「そうこなくっちゃ。ルーレットで決めようじゃないか」
椿はそう言って、チップを出した。
「おい、四郎!!本気なのか?」
ユズリハは慌てて俺に声を掛けた。
「あぁ」
「負けたらどうすんたよ?!負けたら本当に渡す事に…」
「そうなっても俺はボスの命令を無視して、モモを渡すつもりはない」
「雪哉さんの為にやるのか?」
「それもある、だけど俺の意思も入ってる」
俺の言葉を聞いたユズリハは、口を閉じた。
「初めようか、Jewelry Pupil 賭博」
椿の言葉を聞いたディーラーがルーレットを回した。